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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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シュウ・オーツ② 奮闘す

 シュウが内地に赴任して2年になるが、秘密裏に行っていることが一つあった。それはキエロ連邦の歴史資料の収集であった。

 キエロ連邦の成り立ちについては、神話にのみあった。神様が落とした三つの石がくっついて、内地、トワイト、ビルシュを作った。それぞれの石の上にはあらゆる生き物が住み着き、ついに戦いが起きた。戦いを治めたのが、独立峰『マザー』から生まれた王であり、王は内地とトワイト、ビルシュを一つの国とした。それがキエロ連邦であるという。そしてその王の子孫がつまり、城に住む王族ということであった。

 キエロ連邦では、歴史の授業は滅法少ない。国民が教えられる歴史といえば、上記の国の成り立ちの神話と、そこから時代が飛んであとは近現代の文化史ぐらいであった。


ーーー王族という曖昧な存在


 それを明かすべく、シュウはトワイトの図書館や内地の図書館、さらにはビルシュにまで足を伸ばし、図書館を訪れたが、歴史に関する資料はやはり近現代のもの以外なかった。偶然だった。休日にふらっと寄ったキャトルの裏路地の古本屋でそれらしきボロボロの冊子を手に入れた。


ーーー俺は馬鹿か

 

 不都合な情報を消すために歴史を教えないのだろう。図書館にそんな資料が置かれているはずはない。自嘲しながら、冊子を読んだ。それは遥か昔に誰かが書いた記録書であった。年表の書き方に王暦とある。キエロで使われている暦は、ただ暦何年と表記されるのみで王という文字はつかない。そして、記録書に気になる言葉があった。


ーーートワイト王国


 昔、祖父か誰かが、何かの不意にトワイト王国と言ったのを覚えていた。トワイトはキエロ連邦の自治区の一つであり、トワイト『王国』と呼ぶ人は、現在では誰もいない。

 シュウは、トワイトに戻った折に実家の古い蔵を漁った。出てきたのは、大量の古びた日記だけであった。何か手がかりはないかと読み耽る。記述を見るに、シュウの曽祖父のものであった。ちょうど100年ほど前のものになる。ひょうきんな文章で、仕事について子供についてと色々と書かれていた。ユニークな人だったんだろうと思いながら、ある一文に目を止める。


『我が家にあった大量の本も無くなった。ふざけるなと言いたい。だが私は、本を検閲する側である。心泣きながらに各家の本を回収し、燃やすに至る。致し方なし、致し方なし』


 焚書の事実がそこにあった。

 キャトルの古本屋で見つけたように、焚書を免れて残っている古い歴史資料があるに違いない。それは裏路地にあるような忘れ去られそうな古本屋だったり、もしくは古い家の棚の奥だったりするかもしれない。

 シュウは、トワイトに残っていたノエルに指令を出した。


「各地に埋もれている歴史の資料を探してくれ。内地に部屋を借りておく。集めた資料をそこに置いておいてくれ」


 ノエルは、いつものようになんの反対をすることもなく頷いた。

 シュウが唯一信頼し、精神的に甘えられる存在がノエルであった。ノエルは男の中に混じっても大柄な方であった。そして何よりも強かった。魔法は全く使えないが、その剣技は軍学校において、シュウの次に強かった。


「だが、危険を感じればすぐに逃げろ」


 シュウは、ノエルに背を向けて言った。

 ノエルは「わかりました」と無感情を装い答えた。

 ノエルは各地へと飛び回り、そしてシュウは再び内地の任務へと戻った。

 ノエルは長旅をしては貴重な資料を手に入れ、時に書き写したものをキャトルの裏路地に借りた部屋へと持ち運んだ。シュウは、休日になると、誰にも見つからないようにその部屋へと行ってはノエルが運んできた資料を読んだ。抜けていた歴史が、少しづつ埋まっていく。トワイト王国という国はやはりあったらしい。ルート王国による侵攻、ベルニア王によるビルシュ地方の併合による版図の拡大、灰色病の流行、聖女ミルニアの信仰化、レヴェル共和国による侵攻。学校では教えられない、トワイト王国の歴史が埋まっていく。だが肝心の、トワイト王国からキエロ連邦への変遷についての資料はなかった。

 トワイト王国を押しのけて、キエロ連邦、つまり今の王族たちの先祖が王の地位を得るに至るまでに何があったのかーーーー


 あの城内での演舞から数日のこと、シュウは上官に呼び出された。 


「シュウ、王族からお呼びがかかっている」

 

 内地赴任になったとはいえ、この2年間城内に入ることすら難しかった。城内にもっと入ることができれば、王族たちの色んな手がかりが、そしてピーターに関する国の闇が探れるかもしれない。城内にいる護衛兵は、兵士の中からさらに王族に気に入られたものたちである。


ーーー護衛兵になれれば

 

 王族からの呼び出しは、その一歩とも言える。

 シュウは、この機会を逃す手はないと思った。

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