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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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アルテ、打ち明ける。

 やはり夜の行動は控えようということで、森の中で簡易の寝どころを作る。各自最低限の荷物は持ってきており、その中に収縮マットがあった。魔法で弁当箱サイズに収縮されたそれは、広げると大人一人眠れるマットに早変わりする。キエロ国内の状況がわかっていない以上、慎重に行動したい。火を焚くとまずいということで、持ってきていた乾パンを齧る。パサパサで、味もしない。つまり美味しくはない。皆で円になって食べながら、レイフが口火を切る。


「私はキエロについては詳しくない。国内の説明をしてくれるか」


 とアルテとアルトを見た。

 アルトが皆を見回して言う。


「キエロ連邦は、キエロという宗主国といくつかの自治体の集まりなんだ。僕たちの故郷、原野の向こうにあるのが、トワイトという名前の自治体なんだ。東にあるポトイ川にはポトイ大橋が架かっていて、橋の向こうにもいくつか自治体がある」


「その宗主国はどこにあるネ?」


「町の向こうに樹海が広がっていて、その向こうにあるのが宗主国のキエロだ。町同士の行き来は活発だけど、キエロにはお偉いさんと選抜された兵士しか行くことができない」


「とりあえずはそのトワイトへ向かう感じだね」


 シュナの言葉に、「そうだね」とアルトは頷いた。口に残った乾パンを水で流し込むと、さらに言葉を紡ぐ。


「僕らの実家がトワイトの端にある。周りに家も少ないし、多分誰も住んでいないと思うから、そこへ向かおう。拠点にできるかもしれない」


「はむはむ、うむ、それで良いな、うむ」


 とレイフは乾パンを流し込むように何かを飲んだ。チョウが眉間に皺を寄せ、言う。


「おっちゃん、酒飲んでるネ」


「ちょっとぐらいいいだろう!」


「飲兵衛の狼に会うのは初めてネ」


 とチョウも諦めたようにため息をついた。

 

 翌日、やはり早朝に出発した。

 レイフに二日酔いはないらしく、狼姿でシャキシャキ歩いている。

 山の麓からなだらかな原野を歩いていく。トワイトという自治体へはまだ半日ほど歩く必要があった。小高い丘をいくつか越え、森を歩く。森の途中、陽の当たる開けた場所に古びた石碑があった。アルテがはたと立ち止まる。


「かなり古いね」


 シュナがアルテの隣に立って言った。


「これが見つかれば、うちが近いんだ」


 アルトも懐かしむように立ち止まった。


「ここで」


 アルテは、少し言い淀んで、それでも言葉を続けた。


「ここで昔、モンスターを見た」


「エエエエ!?」


 チョウもシュナも驚きの声をあげる。


「ど、どんなやつだったネ!?」


「うん」とアルテは頷いた。アルトは、アルテの言葉の先をまった。アルテは一拍をいてしかし力強く答える。


「優しい人だったよ」


「ウヒャア、それほんとネ!?」


「優しい人!?」


 驚く二人をよそに、レイフは「ほう」と冷静に、しかし興味を持ってアルテの言葉をまった。


「僕らが亡命するとき、助けてくれたのもその人型モンスターだった」


 アルトが捕捉するように答えた。


「どんなやつネ?洗脳されてないカ?」


 とチョウは熱を見るようにアルテのおでこに触れる。


「すごい話だね。人型モンスターが人を助けるなんて」


 シュナはなおも驚いている。 

 アルトはルートに亡命してすぐのことを思い出していた。まだ5歳の僕たちは、同じことを周りの子供たちに言った。そうすると、子供たちは僕たちを避けるようになった。冷たい視線が痛くなった。でもそれは彼らが悪いのではない。亡命してきた双子が、あの邪悪で凶暴であるはずの人型モンスターは優しい、と言うのだ。関係を避けられて当然だった、とアルトは思う。


ーーー人型モンスターが、優しかった。


 それ以来、そのことを話すことは無くなった。家族だけの秘密となっていた。打ち明けても大丈夫な相手に、アルテは打ち明けたのだった。


「アルテは時々ぶっ込んでくるネ。もっと早くにいえば学校の人気者になれたネ」


 チョウの言葉に、アルテはふふっと笑った。アルトもまた、表情を綻ばせた。


「人型モンスターの可能性については一応念頭に入れておる。害となる人型モンスターの発生はキエロ近辺ではここ何十年では確認されていない。もし話が本当なら、味方になってくれる人型モンスターならキエロ国内にいるかもしれないな」


 レイフが付け足すように言った。

 森の向こうが見えた。

 夕日は分厚い雲に隠れ、どんよりと夜の気配を漂わせている。


「もうすぐだ。行こう」


 アルトは歩を再開した。


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