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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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メンバーの振り分けで揉める。

 7人の生徒たちがクノッテン市の勇者組合支部に集まっている。ポック、カイ、シュナ、ロゼ、チョウ、アルト、アルテである。ふわふわと浮かんでいる老婆がいた。名宰相グウォールの子孫であり、勇者学校設立の発足人でもあるフライ婆ことストゥである。


「よう集まってくれたの。早速やが、お主らには二つの任務が言い渡されとる。事前に渡してある情報は、漏洩の恐れから詳細までは書いておらんかったと思うが、ここで任務につくメンバーの振り分けをしておくさね。任務の一つは、キエロ連邦の異変を探ること。そっちは、ええっと、すまん、誰やったかな、双子の」


「姉のアルテと、僕が弟のアルトです」


「おお、そうさね。アルテとアルトはそちらの任務に従事することが決まっておる。さらにこの中から二人のものを任務に付ける。キエロでの任務には、もうお一方、助っ人で任務についてくださるので、アルトとアルテ、それとここからもう二人、そしてその助っ人のお方と、5人の編成と言うことになる。さて、それ以外の4人は、あたしに付いて別の任務についてもらう。その任務が、レッカーという男を探す任務さね」


「レッカー?」


 とポックが訊ねる。


「グリムヒルデ戦線のキーとなる男さね。毒魔法のスペシャリストと言っても良い。唯一レイと繋がりがあったが、レイもいない今あたしがレッカーと交渉するにはよかろうということさね」


 レイの知人で、毒魔法のスペシャリストというレッカーという男。ポックはピンときたものがあった。一年生の時にレイからもらった毒魔法の訓練方法。あれはレッカーという男からレイが授かったに違いない。


「で、どうやってメンバーを振り分けるんだ?婆さん」


「ポック、あなたちゃんと言い方を」


 とロゼが注意するが「いいんじゃいいんじゃ」とストゥは優しくうなずき、さらに続ける。


「レッカーの捜索には、あたしとお主らから4人、さらにクノッテンの市営部隊からベテランのヒーラーのものが来てくれることになっとる。グラスからお主らの情報はもらっておってな。なんとなくしか振り分けは決めておらんさね」


「急に適当ネ、おばあちゃん」


「こらチョウ!あんたまで!」


 ロゼがやはり注意するが、「いいんじゃ」と先程のデジャブのようにストゥ優しく頷き、やはり続ける。


「シュナ、お主はオークターのコアトル村出身じゃな」


「はい」


「キエロは山を越えていくルートも考えられる。環境的にはお主が一番近いところに住んでいたことになるさね。なのでお主はキエロの方に行ってもらおうかの」


「わかりました」


 とシュナは粛々と答えた。


「あとは、どうしようかのう」


「そんだけしか決めてなかったのかよ!」


「まあそう怒るな、ポックよ」


 とストゥは嗜めた。


「キエロの方の任務に来てくださる助っ人のお方は、どんな戦闘スタイルですか?」


 ロゼが訊ねた。


「うーん、昔はなんでもできた方なんじゃが、いささか歳をとられたでなあ。最近は一緒に出とらんしな。昔ほど機敏に動けないとは言ってたさな。近接戦闘は期待せんほうがいいの。魔法はまだまだ負けんと言っておられたので、感知魔法と補助魔法かの。いざとなったら助けてくれるとは思うんじゃが」


 なんとも曖昧にストゥは答えた。

 呆れながらチョウが言う。


「まるで老人会ネ」


「こらチョウ!とにかく、その方が感知魔法なのでしたら、ポックはレッカー探しの方に回ったほうがいいんじゃない?」


 ロゼの提案に、ポックも「まあそうだな」と頷いた。ポック自身も、レッカーという男に興味があった。


「キエロのほうに行く残り一人が誰が適任か考えましょう」


「ロゼ、お主はレッカー探しのほうがいいかもしれんな」


「なぜです?ストゥさま」


「お主、プリランテ出身じゃろ。キエロは寒いさな」


「ストゥさま!これでも勇者の卵ですよ!寒さ対策ぐらいできます!」


 と眉間に皺を寄せてロゼが言った。


「おお、すまぬ。そんなに怒るとは」


「てかおばあちゃん、生まれたとこしか考えてないネ。ギャハハハ」


 チョウが言いながら笑うと、アルテも「ひひひひ」と笑い出した。「姉さん、笑うとまずいよ」とアルトも笑いを堪えながら言った。それまで黙って聞いていたカイが、痺れを切らして言う。


「おい、もう任務につくんだぞ!真面目にやれ!」


「偉そうにうるさいネ、カイ。カイはキエロ行ったほうがいいネ」


「なんでだよチョウさん」


「シュナと一緒の方がよいネ。ねえシュナもネ?」


 とチョウは、ニタニタ笑いながらシュナを肘で突く。


「チョウ、私たちは任務に行くんだよ!何言ってんの!」


「任務以外ならカイとどっか行きたいネ、シュナ?ひひひ」


 チョウが煽ると、アルテとポックも「ヒューヒュー」とさらに煽り立てた。カイも負けじと言い返す。


「チョウさん、あんたなあ!リュウドウがいないからって!」


 リュウドウという名前を聞いて、チョウの頬が途端に赤く染まる。チョウはリュウドウのこととなると乙女になる。


「リュ、リュウドウくんは今関係ないネ」


 収拾がつかなくなっていたが、ロゼがピシャリと言う。


「静かになさいあんたたち!」


 長い室長歴のおかげか、皆が黙った。

 ポックが流石に真面目なトーンに切り替えて言う。


「気候関係なく、ロゼはレッカー探しの方に来たほうがいいな」


「なんでよ」


「お前とシュナは連携相性悪いだろうよ」


 ポックに言われ、シュナとロゼも閉口する。ポックはさらに言葉を紡ぐ。


「ええっと、アルトとアルテ、助っ人の感知魔法の人、シュナがキエロだろ。そんで、俺と婆さん、市営部隊のヒーラーさん、ロゼがレッカー探しだろ。残りはカイとチョウだが、どっちでもいいな。レッカー探しの方もヒールはいるし、キエロの方もアルテがいるし。もはや元のパーティも関係なくなってるし」


「そうね。ここまできたらなんでもいいわよ」


 とロゼまでも適当になっている。


「ロゼ、これ」


 とアルテが紙を渡す。


「あら、アミダじゃない。いいわねアルテ。これで決めましょう」


「あら、いいネ!」

 

 とチョウはウキウキで名前を書く。


「おいおい、席替えじゃねえんだから」


 と呆れながらも、カイも形式上もう一つの空欄に名前を書いた。

 ロゼがあっさりと結果を発表する。


「はい決定、チョウがキエロでカイがレッカー探しね」


「ううう、ごめんネシュナあ。カイと離れ離れネ」


「もう、うるさいチョウ!晩御飯作ってやんないから!」


 珍しく怒ったシュナに


「ウソウソ!ほんと全部ウソネ!また晩御飯作ってネ!任務頑張ろうヨシュナ!」


 とチョウは途端に機嫌取りに入った。


「やれやれ、若いもんは元気じゃのう」


 ストゥはしみじみと言葉をこぼした。


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