進路オリエンテーションを受ける。
一限目は選択授業であった。俺は歴史を取っている。メンバーはユキ、チョウさん、年中アーマーをフル装備しているジュリエッタこと通称アマコ、そして赤点だらけの俺である。なかなかのメンバーであるが、リプカン先生はいつも通り淡々と授業を進める。
「ルート連邦王国は、今から500年ほど前、王暦520年のバルサルカルの反乱から始まる内乱の時代となる。その後起きた事件はわかるかね」
アマコが答える。
「はい。リールウェインとロンドルフによるレッドローズの戦い、さらにはモンスターの発生も起きました。それまで領土を広げていたルート連邦王国ですが、ここにきてグウォール宰相のもと、国内の整備に多くの時間と労力が取られます」
「その通りだ、ジュリエッタくん。内乱で疲弊し、さらにモンスターの発生もあった。いかにモンスターを退治するかと言うことになってきたんだな。それは近隣諸国でも同じだ。各国は時に情報を共有し合い、対モンスターのために友好条約を結んだ。皮肉にもモンスターの発生後、国同士の戦争は収まったということになった。南のプリランテ王国とは友好的な交易を行い、西のトネリコ連邦とは相互援助条約を結んだ。東の大国レヴェスとは不可侵条約を結び、人類はモンスターとの脅威と戦う時代に」
チャイムがなるとリプカン先生は話を止め、授業の終わりを告げ教室を出て行った。
チョウさんがあくびをしながら大きく伸びをする。
ユキが誰と無しに訊ねる。
「次の集会はなんの話なのです?」
アマコが答える。
「進路オリエンテーションて言ってたから、3年の授業に関わるものかな」
あくびを終えたチョウさんが「進路?そんなのみんなプロ勇者になるんじゃないネ?」と訊ねた。
「私は進学か、研究関連の就職志望だよ、チョウ」
「え!?アマコは研究者になるネ!?」
「すごいです、アマコ!」とユキが尊敬の眼差しでアマコを見た。
「夢、だけどね。うふふ」
「でもアマコはなんで勇者ライセンス必要ネ?」
「考古学とか、遺跡関連の調査に行くのに勇者ライセンスが必要なところがあるんだよ。だから研究施設の中には勇者ライセンスがないと就職できないところも結構あるんだ」
俺はすっかり感心して「アマコ、ちゃんと考えてるんだな」と言った。
「へへへへ」と照れながらアマコは笑った。
そのままプロ勇者になりたいという人は多いだろうが、アマコのように学者志望のものも多いのだろうか。
大講堂に二年生全員が集められた。
いつものつなぎ服にいつも通り寝癖がピンとはねているケイ先生がおずおずと話し出す。
「ええっとですね、皆さんの進路についてですね、今日は説明するんですね。希望進路に合わせて三年生での授業が若干変わってくると思いますので」
いつもと違う丁寧語で、やや慣れない様子である。タケミ先生がしゃべるところは見たことがない、というか声すら聞いたことないし、グラス先生は忙しくて最近見ていない。今まではこう言う時レイ先生が説明役をしたりしていたが、とふと寂しさを感じる。
「卒業後の進路ですが、プロ勇者、国防軍、進学、就職など色々な選択肢があります。勇者ライセンスは全員取得してもらうカリキュラムになっていますが、それ以外の授業のところで、各々の志望によりカリキュラムが変わってきます。勇者ライセンスの筆記、面接試験が今年は6月にあります。試験までは試験対策授業もしっかりおこないます」
ケイ先生が説明している間に、3冊の冊子が配布されてくる。
「さて、資料全員行き届きましたかね?進学用、就職用、プロ勇者と国防用と三つの冊子があると思います。すでに確固たる進路希望がある人も、こんな進路があるのかと発見があると思いますし、クラスメイトがどんな進路を考えているのかを知ることはとても大事なことかなとも思いますのでしっかりと聞いていてください。まずは進学用から説明していきます。冊子には、当校にきている大学の推薦枠についての一覧があり、各大学、学部の説明や試験日程などがまとめてあります。もちろんここにはない大学の資料もありますので、希望のものがあれば教えてください。では進学用の冊子の4ページを」
と説明が続く。
その後就職用の冊子、そしてプロ勇者と国防用の冊子の説明があった。1時間近い説明と質問タイムを終え、ケイ先生は最後に真面目な表情で言う。
「最近の情勢と、さらに皆さんは先輩、卒業生のいない当校一期生と言うこともあって進路への不安もあるかと思いますが、しっかりと将来に繋がる一年になるよう我々もバックアップしていきます。質問疑問があれば誰にでも聞いてください。遠慮せずに色んなことにチャレンジして、実りある最高の一年にしていきましょう」
ケイ先生にしては熱がこもっている口調だった。アーズとの戦い、レイ先生の死。グリムヒルデの動きも活発だと聞く。先生たちも大変な中で、それでも俺たち生徒を見てくれていることになんだかグッとくるものがあった。




