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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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剣術演習で一年生に教える。

 剣術演習は俺とシュナがメインで担当することになっていた。とりあえず俺が流れを説明してシュナに見本を見せてもらうという感じで。


「まずは素振りだな。みんないつもやってると思うけど。両手剣のものは両手剣の、片手剣のものは盾をもった想定で片手剣の型をしよう。ま、とりあえずシュナ、見本を」


「おっけい」


 とシュナが型を行う。正眼から斬り下ろし、斬り上げ、水平斬り、突き、と淀みなく流れるように行う。終えたところで、おおおと一年生たちから拍手が起こった。シュナは素振りだけでも鮮やかである。さて、俺が次の説明を行う。


「片手剣と両手剣では型は違うが、両方やっておいた方がいいと思う。普段盾を持っていても戦闘中に盾を投げて使ったり、破壊されて使えなくなったりもするし、普段盾を使わない人もモンスターや任務によっては盾を使った方がいい場面がいつかくるかもしれないからだ。さて、素振りのさらに発展系というか、シャドー剣術と言うのもある。敵を想定、イメージしてそこにいるかのように戦うんだ。ではシュナ、お手本を」


「はい!」とシュナが再び剣を構える。すっとシュナの表情が真剣になる。つられてしんと屋内闘技場が静かになる。シュナは剣を構えたまま、じっとしている。もちろんシュナの目の前には誰もいないが、そこに誰かがいるかのようにジリジリと距離を詰める。


「はあっ!」


 とシュナが掛け声と共に踏み込み、剣を斬り下げる。が、かわされたようで敵の斬撃を受けるように剣を正面に戻す。二度三度と打ち合うような仕草をして後ろへ下がる。かと思えばすぐさま踏み込み、水平に剣を振る。

 ぴたりとシュナの動きが止まった。かと思うと、膝をつき腹を抑えてはあはあと息が荒くなる。一年生の息もそこでようやく漏れる。


「いや、負けるなよ!」


 俺が言うと、一年生から笑いが起きる。

 俺の言葉に、「全然勝てなくて」とシュナはそこでようやく戦闘モードを終えて笑った。しかしすぐさま拍手が起きた。いや、敵を想定しているとはいえ一人でここまでできるとは。敵が本当に見えるようだった。


「とまあ、こんなにすごいのはできなくても、誰か敵を想定して素振りをするのもいい練習になるので、普段の自主訓練の時にやってみてくれ。けどまずは基本を反復しよう。身体強化魔法は使わずに素の力だけで行っていこう。さあ、素振り始め!」


 いくつかのグループに分かれて、各グループに二年生を配置してみんなで基本の素振りを行う。みんなアドバイスをする必要がないほど基本ができていて、ほとんど言うことはなかったが、疲れてくるとやっぱり体がばらついてくるのか、基本の動作すら安定感がなくなる。それは自分も同じで、「疲れた時こそ、基本に忠実に」と声をかけながら素振りを終えた。


「で、次は二人一組で型の打ち合いだな。盾を持つものは盾を持って。型を打ち合ってみよう」


 とシュナと俺は向かい合い、打ち合いを始める。まずはシュナの型を受けて、次に俺が型をしてそれをシュナが受ける。


「受ける側も盾の受け方の感覚を意識しながら、次の動きにスムーズに繋げられるように意識しながら取り組もう。では二人一組作って、スタート!」


 と二人一組で打ち合いを始める。


「おお、ネル、やるか」


「お、お願いします!」


 とネルと型の打ち合いを行う。

 やや硬いが、鋭い。日頃の訓練のたまものだろう。

 打ち合いを終えると、ネルが質問してくる。


「あ、あの、普段から身体強化魔法を使わずに型をしたほうがいいんでしょうか?」


「ああ、魔法なしの素振りと身体強化魔法を乗せてする素振り、両方した方がいいと思うな。どちらも意味があると思っていて。身体強化魔法を乗せずに素振りをすると、やっぱり筋量のアップは早いのと、型を体に染み込ませるのはこちらの方がいいと思う。それと、疲れているときの体への負荷の意識とその時の体幹の安定感のためには魔法なしの素振りの反復が生きてくる。あと、魔法なしの素振りをしないのとするのとでは身体強化魔法を乗せた時の剣速や剣力の上がり率に違いがあると思う。もちろん身体強化魔法を乗せてする素振りも大事。実戦ではこっちで戦うわけだし、それに淀みなく安定的に魔法コントロールしながらする素振りをいかに長く継続できるかは戦闘における集中力の持続にもつながるし」


「自主訓練の時は、ど、どれくらいの比率で訓練してますか?」


「魔法なし素振り4で魔法乗せて6ぐらいかな。最初魔法なしで、次に魔法乗せて、みたいな。時々順番逆にすると体にいつもと違う刺激が入っていいなと思う時がある。けどこれはケントさんっていう先輩やタケミ先生とかにも聞いたりしたんだけど、自分の苦手な部分とかもあるからこれっていう比率は難しいかもしれない。リュウドウやシュナ、先生たちや一流のプロたちはもっと別かもしれないし。えっと、どうだろ、参考になったかな。俺なんかの答えで」


「はい、もう本当に、ありがとうございます!」


 とネルは深々と頭を下げた。ネルからしたら俺はすごい先輩に見えてるのかもしれない。まだまだ力不足で、非常に恐縮だが力になれるなら嬉しいことである。

 型の打ち合いも終わり、剣術演習最後の締めの説明をする。


「さて、最後に軽くだけど自由に打ち合ってみようか。魔造剣だから、隙あれば打ち込んでみよう」


「シュナさんとカイくんでお手本見せてください!」


 ヤットが余計なことを言うと、一年生から「見たい」と声が上がる。

 えええ。俺が渋い顔をしていたのだろうか、シュナが「やろう、カイ」と剣を持った。


「互いに、今のもてる力で」


 と正眼に構えた。


ーーー互いに、今のもてる力で


 そうだな、と思った。恥ずかしがることではない。この学校に来てもうすぐ二年が経つ。色んな人に出会い、強くなるために訓練し、そして二年前より確実に強くなったと思っている。だけどいくつかの戦いを経験して、自分の弱さも知った。はるかなる『上』がいることも知った。一人では、全く手が届きそうもない。背伸びしても、ジャンプしても。

 だからこそ、そのままの自分を少しずつ、等身大のまま大きくなっていこう。二年後、五年後、十年後、少しでも後悔しないように。そう思えた。それは、


「いくぞ、シュナ!」


 剣を構え、目の前の仲間を見た。

 それは、シュナがいたから、みんながいたから。

 仲間となら、手が届くはずだ。


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