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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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カイ、サボったツケがくる。

 ドワちゃんが走り切るのを待って、とりあえずランアンドヒールは終えた。


 へたり込んでいるドワちゃんに「普段からこれぐらいしろ」とネルがかなりきつい口調で言っている。

 そんなネルに背後から声をかけるものが。


「憧れのカイ先輩の前で、本性出ちゃってるじゃん」


 ギャル口調でリオナが現れた。季節関係なく小麦色の肌にバンダナをしている。


「リオナちゃん!いや、そんなわけでは、すみませんカイさん」


 と途端にネルは顔を赤らめた。俺はフォローするように言う。


「ははは、いつも通りでいいんだよネル。どうしたんだリオナ」


 リオナは隣のクラスなので今日でなく明日授業を行うはずだが。


「いや、あいつがね」  


 とリオナが後ろをチラリと見た。リオナの背後にいる男。

 ネルと同じ緑髪、ぎらついた目つき。クルテだ。


「お兄ちゃん!なんでいるの!?」


 ネルがさらに恥ずかしそうに言った。


「いや、一応だな。ネルが変なこと教えられてないか確認に」クルテの言葉が終わらぬうちに「教えるわけねーだろ!」と俺はすぐさま否定する。なんだと思ってるんだ!


 アルテはあくびをしながら言う。


「ああいうのに限ってシスコンなのよ」


「うるせえぞアルテ!」


 クルテが苛立った声を出すが「もう帰ってよ、恥ずかしい」とネルに言われ肩をしゅんと落とす。


「ははは、ちょーウケる」とリオナが大笑いし始めた。


「あなたたち、何をしているの!」


 とロゼが遠くから怒ったように言ったので、リオナもクルテもそろそろと帰っていった。なんだったんだあいつら。


「おほん、えー気を取り直してだな、次は、ヒールを使った応用技をしてみよう」


「は、はい!ドワコ、ちゃんとしなさい!」とネルはいつまでも座っているドワちゃんを立たせた。


 アルテがこっちを見て言う。


「え、何すんの?」


「昨日話し合っただろう、サントラさんに教えてもらったやつだよ!」


「ああ、オーケーオーケー。サンちゃんに教えてもらったやつね」


 アルテに不安になりながらも、二人で実践する。サントラさんに教えてもらった、ヒールを体の毛穴から微弱に発することであたりにいる仲間の気持ちを落ち着かせたりすることができる。半年前の夏休み、仮免試験で初めてプロの勇者の仕事を見せてもらった時のことを思い出す。リラードさんがいて、サントラさんがいて、カリュさんがいて。アーズたちとの戦いで、カリュさんには会えたがサントラさんとリラードさんには会えなかった。サントラさんは無事に脱出することに成功したと聞いたが、詳細までは聞かされていない。早くみんなにまた会いたいななんて違うことを考えていてはこの技は成功しない。集中集中。この技は繊細な魔力コントロールが必要だ。


「す、すごいです。なんだか気持ちが落ち着きました」


 ドワちゃんが感心したように言うと、ネルも続く。


「本当に、すごい。こんなこともできるんだ」


「とまあ、今体感してもらったように、ヒール魔法を全体に微弱に発することで味方の気持ちを落ち着かせたり、集中力を上げさせることもできるんだ。特にパニックになりやすい時にこそ、ヒーラーが落ち着いてこの技を使うことでパーティのパフォーマンスが上がると思う」


 偉そうに喋っていると、アルテがじろりとこちらを見ている。


「カイ、あんたサボりすぎ」


「いや、不甲斐ない。すまん。今のヒール効果、ほとんどアルテだ。毎日の積み重ね練習が本当に大切だな」


 一週間無気力に過ごしていたせいで魔力コントロールがこんなにも錆び付いてしまっているとは。


「にしてもアルテ、上手になったな」


 アルテはニンマリと笑い、「ふん」と鼻を高くした。あのサボり魔のアルテがこんなにも上手になったとは、毎日頑張ってるんだな。

 ネルとドワちゃんにコツと練習方法を伝える。教えていると半年前に戻ったような感覚を覚える。そういえばこうだったな、と。健気に頑張るネルとドワちゃんを見て、思うところがある。まだまだ道のりは長い。少しづつ俺も頑張らないと。


「カイ、アルテ、そろそろ剣術演習に移るわよ」


 ロゼが言った。

 もうそんな時間か。教えているとさらに時間が経つのが早く感じる。人に教えるのも楽しいなと初めての体験に思う。


「ふあああ」


 とアルテがあくびをした。アルテは剣術の方は相変わらずやる気が出ないようで。いろんな生徒がいて、先生たちもそう簡単ではないよななんて思いながら座学も真面目に受けようと思った。

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