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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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一年生の演習を担当する。

 屋内闘技場に生徒が集まってくる。さて、とうとう俺たちが一年生の演習を受け持つ時が来た。


「カイくん!」


 同じクノッテン市出身のヤットが声をかけてきた。


「なんだ、テンション高いなヤット」


「そりゃ嬉しいっすよ、先輩たちに教えてもらえるなんて。最近自習も多かったし」


 この1ヶ月はアーズやグリムヒルデのせいで勇者組合全体が人手不足になり、先生たちまで駆り出される事態が起きていた。一年生の授業も自習になることが度々あった。


「剣技の時は久しぶりに相手してくださいよカイくん!」


 クノッテンにいた頃はヤットと時々手合わせしていたが、こっちきてからはほとんどないな。一緒に素振りや型をすることはあるんだが。


「軽くひねってやるよ」


「まじ俺強くなりましたよ!マジっす!」


 といつもの調子でヤットが言った。

 チャイムが鳴った。ロゼの仕切りで授業が始まる。まずは魔法演習だ。適正魔法ごとにグループに分かれる。


「じゃあカイ、アルテ、ヒールの子達頼んだわよ」


「はいよ」


 と俺は返事をすると気だるそうなアルテと共にヒールの子達がいるところへ。女の子が二人いる。一人はよく知っていた。肩口まで伸びた緑の髪の毛、つんと伸びた鼻、きりっとした目。クルテの妹のネルだ。


「よ、よろしくお願いします!」


 と緊張気味にネルは頭を下げた。ネルはなんと俺に憧れているらしい。勇者として。同じヒーラーでしかも近接戦闘を得意としている俺と同じスタイルなのである。ヒーラーで剣術が得意なものは稀なので、ネルは同じスタイルの俺を知った時とても嬉しかったらしいとリオナ(ネルはリオナと幼馴染)づてに聞いた。憧れられるというのは、嬉しさもあり、恐縮もあり、プレッシャーもあったりなかったり。


「よろしくな、ネル。えっと、ドワちゃん、だっけ」


 とネルの隣にいる頭一つ背の低い女の子に言った。


「はい、よろしくお願いします!」


 と元気に女の子は言った。大きな目に赤いほっぺ、ややずんぐりとした体型をしている。

 ようやくアルテが喋る。


「ドワちゃん、ヒールもあったんだ」


「はい、アルテ先輩」


 とドワちゃんは元気に返事をした。


「ユキと時々いるよね」


 何度かユキと一緒にいるのを見たことがあった。その時みんなドワちゃんと呼んでいた。


「はい、寮でユキ先輩と同じ部屋です」


 なるほど。だからユキと仲良いのか。


「とりあえず、始めるか。最初は、いつも通り走ってヒールかけて走ってをしよう」


「は、はい!」


 ネルの上擦った返事に「肩の力抜いてな、ネル」と声をかけた。めっちゃ真面目である。

 アルテがあくびまじりで言う。


「ネル、ドワちゃん、がんば〜」


「いや、俺らもするんだよ!」


「え!?嘘でしょ!?カイ、馬鹿なの?」


「昨日そういう方向性で演習やろうってみんなで話しただろう!偉そうに見てる感じじゃなくてって!」


「…」


「ほら、行くぞ、アルテ」


 促すと、アルテは無言で走り出した。

 ヒールの基礎は走って自分にヒールをかけてまた走って、ランアンドヒールを繰り返す。自分にヒールをかけるのは他の人にヒールをかけるよりも難しく、これを体力のない状態ですることはヒール自体の精度を上げることにも繋がる。

 アーズたちとの戦闘後、学校へ帰ってから一週間ほど引きこもっていたせいもあってか息がすぐに切れる。ヒールのかかりも遅い。一週間魔法を使っていなかっただけで、感覚がこんなにも鈍るとは。やばいなこれ、一年生に負けるわけにはいかないと何とか踏ん張る。アルテも流石に一年生には負けられないと思ったのか、ゼエゼエ言いながらなんとか走りきっている。にしても、ネルはヒールの精度も高いのだろう、何度目かのランでも疲れをしっかり回復させてついてくる。


「ネル、すごいじゃないか。ヒールの精度も高いから、回復も早いんだろう。ん?どうした?」


 とネルの方を見るとネルはまだ走っているドワちゃんを凝視している。


「い、いえ、ちょっと」


 その時、ドワちゃんが


「はあ、はあ、もう無理です〜」となんとか走りきり、へたり込むように倒れた。


 そんなドワちゃんを見て、ネルは目を釣り上げドワちゃんの方へと肩を怒らせながら歩いていく。


「いや、ネル、いいんだ。少し俺たちが飛ばしすぎたのもあるし、疲れるのも当たり前で」


 止めようとするも、ネルは「いえ、ドワコは違います。せっかくの先輩との演習なのに」とドワちゃんの前まで行くと「ドワコ立ちなさい」と冷たく言い放った。


「へ?」


「ドワコ。先輩方も走ってくれていると言うのに、あなたって人は」


 ネルはなんとか声を、怒りを抑えているようにも見えた。しかし漏れ出す怒りにあてられてか


「ネル、待って、ちゃんと走ります!本当に!はい、ごめんなさい!」


 とさっきまでヘトヘトに見えたドワちゃんが飛び上がって走り出した。


「どう言うことだ?」


 俺の問いにアルテが答える。


「ドワちゃんの足元」


「足元?」


 それがなんだ。普通に走っているように見えるが。ん?たまに浮いている?あれ?


「ドワコ!」


 ネルが怒ったように声を出した。


「はいいいい」


 とドワちゃんが怯えたように返事をする。今度はしっかりと地面に足をつけて走っている。

 ネルがやや恥ずかしそうに戻ってくる。


「す、すみません。大きな声を出して」


 ネル、カッとなると怖いタイプかもしれない。


「ドワちゃん、浮遊魔法か」


 俺の問いに同じ女子寮に住むアルテが答える。


「そうそう。あとドワちゃんは結構サボり。寮の掃除当番すっぽかしてよくロゼに怒られてる」


 ドワちゃん、返事はめっちゃいいのに。いや待て待て。


「お前が言うか、アルテ」


「うるさい」


 ドワちゃんが走り切るのを待って、とりあえずランアンドヒールは終えた。

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