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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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ヤング先生、変わらずマイペース

 ユキも向こうでニコニコ笑っている。剣を握れたことに俺はほっと胸を撫で下ろした。みんながいる。みんなといたい、と思えた。



 ロゼは二日後に帰ってきた。アーズの一団にはロゼの故郷プリランテのものがいたらしく聴取に時間がかかったらしい。ロゼに落ち込んでいる様子はなかった。すでに前を見ていた。しゃかりきな部分が目立つロゼだが、時々達観したようなところがあった。幼少期に故郷が滅ぼされていることを考えるともっと大変な経験をしてきたのだろうと呑気にロゼを見ていると


「カイ、あんたシャキッとしなさいよ。あんたのパーティにはシュナがいるのよ。あんたがシャキッとしないでシュナをダメにしたら、人類の大きな損失よ」


 とロゼは隣にいるシュナを抱きしめた。

 シュナは前回の戦闘で自信を失っているところがあったが、それでもずば抜けた力を持っている。そんなシュナを明るく褒めるロゼはやはり一段大人というか、今回の件がありさらに一皮剥けたような気もした。

 一時の落ち着きを見せる学生をよそに、先生たちの動きは慌ただしかった。ヤング先生は相変わらず庭いじりなどしているが、タケミ先生、ケイ先生、グラス先生の姿を見ることがなくなった。

 レイ先生の死がもたらしたどんよりとした空気はもちろん校内に残っていて、しかし俺たちは訓練を続けるしかできることがなかった。ユキもアルテもチョウさんも、寮組でないリーフ市内住のクルテやリオナも放課後みんな残って訓練をしていた。

 放課後の訓練後、屋内闘技場を出たところでシュナがボソリとこぼす。


「ポックはまだ帰ってこないんだね」


 あれからポックはまだ帰っていない。俺に何も言わず出て行ったかと思ったら、後で知ったことだが緊急で勇者組合の上のものに呼び出されたらしい。

 世間や俺たち学生には大きく公表されていないが、ルート王国の西側に位置するトネリコ連邦におけるグリムヒルデとの戦闘は未だ落ち着いていないのだろうことが、先生たちの慌ただしさから想像できた。ポックが未だに帰ってきていなのはそのせいだろうと思う。ポックはトネリコ連邦の生まれだ。


「ほとんど戦時体制なのかもしれないわね。アーズが死んだという情報はよそで縄張りを効かせている人型モンスターやルート王国をよく思っていない他国にすでに出回ってると思うわ。モンスターの動きも活発になっているに違いない」


 ロゼが鋭く答えた。


「ロロもいつ戻ってくるんだろうな」


 俺は隣で立っているリュウドウをチラと見ながら言った。

 リュウドウは「わからん」といつもの無愛想に答えた。

 ロロもポックと同様学校にいなかった。勇者組合か政府に呼び出しを食らっているのだろう。アーズ陣営にロロの親族がいたことがわかっている。ロロはメンタルが弱いところがあるので、ポックよりも心配だ。あまり思い詰めてなければいいが。


 風が冷たい。雨後の地面は黒ずんでいる。夕日の差さない錆びついた白い世界に、カラスが絶え間なく鳴いている。寮までの道のりを重い足取りで進んでいると


「やあ君たち」


 白髪頭に丸めがね、素っ頓狂というか、変わらないマイペースな挨拶でヤング先生が歩いてきた。


「こんにちわ、ヤング先生。何かありましたか」


 とロゼが代表して訊ねた。


「ええ。先生たちが外に何人か駆り出されてましてね。明日から一年生の授業と演習、君たちにも手伝ってもらおうと思いましてね」


 世界の色など関係なく、ヤング先生はニコニコと言った。


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