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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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アーズ渦中 その後 グラスの焦り


 黒い三角帽子を被り、パンツスーツ。いつもの格好でグラスは現地に赴いた。西ではグリムヒルデの動きが活発になり、南西部ではアーズが不穏な動きをしていた。それまでいがみ合っていた国防軍と勇者組合の仲を取り持ち、一定の協力体制を得てその国難に当たった。前線に出てはいなくとも、寝る間も無くあらゆる調整を行なっていた。グリムヒルデの方面は戦力が割れていたので、わかりやすかった。しかしかなりの数の勇者がそちらに割かれた。アーズの方は戦況がぼんやりとしていた。アーズがいるのかどうか、敵の兵隊はどれくらいなのか。アーズは人を操るので情報が掴みにくかった。偵察を送るにも慎重になるし、こちらの陣営にスパイがいる可能性も高いので、極力内内でことを進めなければならない。しかし敵の動きは確実に進んでおり、とうとう勇者組合から敵陣にスパイを送った。国防軍の配備も行いながら、少ない兵力のなかレイに頼むしかなかった。もっとも信頼ができる仲間。仮免の生徒たちをレイに預けて。生徒たちを駆り出すほど、グリムヒルデとアーズ、二体の人型モンスターが偶然か故意か、同時に動き出したのはルート王国にとってそれほど逼迫した事態であった。

 レイの訃報を聞いてから現地に向かったのではなかった。忙しい中で、寝る暇もない中で、それでもグラスの中で何か嫌な予感が過ったのであった。虫の知らせか、秋と冬の合間の虫はあいも変わらず鳴いているだけであるが、そのいつもの鳴き声が不気味に聞こえるほどグラスの中でざわつきがあった。

 リーフ市を出たのは夜も遅い頃だった。馬車を用立てて急いで発した。進むほどに雲行きは怪しくなった。雨雲とすれ違うようにグラスの乗った馬車は進んだ。馬車の揺れの中で、小さく眠った。御者に起こされはたと起きた時、朝をすぎていた。現場にほど近いトンド市であった。雨の匂いはあったが、すっかり晴れていた。足元は悪いが、グラスはトンド市の勇者組合支部へ足早に向かった。道中、カズの一団とあった。カズの後ろには生徒たちがいた。シュナと、ロゼと、カイと。愛しき生徒たち。その誰もが疲れていた。疲れている。いや、違う。陰が、悲壮感がそこにあった。生徒たちはグラスの姿を認めた時、少しの表情を和らげた。しかし次の瞬間、シュナが泣き崩れた。ロゼも、さらにはカイまで膝をついて涙を流した。いつもおちゃらけた、というか気の抜けたカズが、険しい表情でいた。どこかバツが悪そうで、しかしすぐに報告しなければとカズが口を開きかけた時、グラスが我慢しきれずに先に訊ねた。


「レイは、レイはどこだ」


 グラスの問いに、カズは一度口籠もったが、なんとか言葉を振り絞った。


「レイさんは、戦地にて」


 全てを語らなかった。だが、その語尾にグラスは全てを悟った。

 一瞬の底があった。計り知れないほどのどん底であった。今までの人生で経験したことのない暗闇。落ちる。落ちてしまう。また後でその暗闇とは向き合わなければいけないのだろうと思いながらも、グラスはグラスとしての仕事を全うすべく、なんとかその闇に蓋をした。危うい、脆弱な、先生、プロの勇者、人類の危機。それが蓋だった。

 勇者組合支部で話を聞いた。支部にはカリュやポック、アルテ、他にもこの作戦に参加した勇者と生徒たちがいた。皆がボロボロであった。すでに本部に知らせを走らせたが、グラスとは入れ違いになったのだろうと言うことであった。アーズの方でも異変があったことが、マラロス村から逃れてきた人々から確認されていた。アーズの支配が急に解けたという。グラスとカズは、危険ながらも再びトンド市を出てマラロス村へと向かった。事態の確認のために。が、グラスにとってはそんなことよりも、レイの最期の場所にすぐにでも向かいたかった。他の勇者を待ってからではなく、すぐにでも。それはグラスには珍しく、私人としてのグラスが強く出た冷静さをかいた判断でもあった。それほどまでに、冷静を装っていても冷静ではいられなくなっていた。カズはそれを知りながらに、何も言わずグラスに従った。

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