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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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アーズ渦中 ダン、高揚す。

 少し時間が遡る。アーズがレイたちと相対する少し前の話である。ダンとアーズは、勇者のスパイから仲間と落ち合う地点を聞き出すことに成功し、いざその地点へ向かおうとしていた。

 村を出ようとしたその時、ダンが


「アーズ、先に行け」


 と立ち止まった。


「なぜだ、ダン?」


「いや、なんとなくな。土地が気になる。向こうにはルルが向かっている。あいつがいれば俺はいなくてもいいだろう」


 ダンの言葉に、アーズはそっぽを向いてそのまま幾らかの兵士とともに村を出た。ダンは一つ息をついた。いつまで経っても少女というか、擦れたガキである。まあ向こうにはルルにヨークもいる。問題はないだろう。それよりも、だ。とダンは再びその「土地」となるであろう場所を見た。自らが選び、育てたとも言えるその「土地」を。


 南の国、プリランテでの戦いから間もなくのこと。アーズから指示を受け、ダンは世界に数カ所あると言われている赤い瘴気の地を調査した。「赤い瘴気の地」それは膨大な魔力を含んだ土地のことであり、それは人々にとって大きな魔力源となった。時の権力者たちはその「土地」を巡って戦い、そして平和の時代には争いを避けるために「土地」を隠した。と言われている。ダンは調査の結果、クノッテン市の外れにある大穴『ヴェイカントランド』に行き着く。あそこにはかつて、赤い瘴気の土地があった。その痕跡を得ることができた。あらゆる調査とその痕跡をもとに、ダンは一つの推論を持った。赤い瘴気の土地は、人工的に作ることができるのではないか。必要なのは、その土壌と注ぎ込む膨大な魔力。土壌の選定には多大な労力と時間を費やした。最適な土壌を選び、そしてそのそばにあるマラロス村を秘密裏に乗っ取李、今に至る。


 暗闇にちらほらと松明の火が見える。毎日土地を、その周囲を注意深く観察していたダンだからこそ覚えた違和感かもしれない。もわりとその方から何かを感じた。雨が強くなっている。ダンは悪い足場を足早に歩いた。

 松明の火が増えてくる。森を少し入ったところにその土地はあった。攫ってきた勇者30人以上をその土地に縛り付け、昼夜を問わず魔力を土地に放出し続けさせた。魔力の過度な放出と悪い環境に、何人かの死者が出ていた。そして気づく。死体からも魔力が放出されていることに。死体すらも土壌に埋めることで、赤い瘴気の地の餌とした。

 少し前に大いなる光がこの辺りで起こった。しかしすぐに事態は収拾され、攫ってきた勇者たちは再び土地に魔力を注いでいるようであった。

 男が一人走ってくる。黒いパーカーを着た男。


「ヤシャ、どうだ土地の具合は?」


 と男にダンは声をかけた。ヤシャは南の国ハマナスで拾った戦争孤児である。パーカーに、何やらチャラチャラと首やら手首やらに巻いている。いわゆる若者服なのだが、ダンはその年のギャップすらも可愛いなと思えるほど思考はおじいちゃんになっている。


「ダン爺、土地の一角から瘴気が出ている」


 ヤシャはいつもの無愛想な口調で答えた。

 ぞくりとダンに高揚感が湧いた。久しぶりの感覚であった。人工的に赤い瘴気の土地が作れるだろうという自らが立てた説が、ここに証明されようとしていた。そこに犠牲となった勇者への感慨は一ミリもなかった。

 ヤシャの言う通り、土地の一部から赤い瘴気が発生していた。その一部に覚えがあった。死んだ勇者を埋めた辺りである。そこからぼわりと瘴気が広かっている。赤い瘴気の土地には死体が必要なのか、それとも死体に赤い瘴気の土地造成を促進させる何かがあるのか。それはまだ判断できなかったが、確かにその部分から瘴気が生じていた。

 その場の検分を終えると


「アーズに報告する」


 とダンはその場を離れた。小雨になっていた。しかしダンには雨の具合など関係のないことであった。


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