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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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アーズ渦中 カリュ、立ち尽くす

 ペンダグルスとジリジリと距離を掴み合いながら、気づけば森の奥に入っていた。カリュの視界にカイがいた。数ヶ月前に自分のパーティに仮免試験できた学生だが、まだ学生なのによくこんなにも戦えるなと思った。年齢は数歳しか変わらないが、自分が駆け出しの頃は先輩におんぶに抱っこだったことを思い出す。

 すでに1体倒しており、残りは2体。しかも片方はすでに手負であった。一刻も早くロゼたちの元へ行きたかったが、ペンダグルスはこちらの足止めをするように動くため、こう着状態から抜け出せずにいた。レイの声がした時、カリュは一つの安堵を覚えた。隊を率いながらに、隊を危険に晒してしまった自身への情けなさとカイたちへの申し訳なさがあった。普段どれだけトラちゃんやリラードに助けられていたのだろう、とカリュは強く思った。

 その時、二体のペンダグルスが森の奥へと引いていく。


「カリュさん」


「カイ、通りに戻るぞ。後ろの警戒は怠るな」


「はい」


 急いで通りのそばまで戻ってきた。ロゼの姿が見えた。その向こうで男が倒れていた。シュナが茂みのそばで倒れている。その茂みに隠れるように、アルテがへたりと座り込んでいる。カリュはホッと胸を撫で下ろした。まだ危機は去っていないが、とりあえず切り抜けてくれていたように見えた。

 突如右方よりペンダグルスが現れ、ロゼの方へと向かっていく。


「ペンダグルスだ!ロゼ!」


 とカリュが弓を構えたその時、ペンダグルスの頭に一矢が刺さった。強烈な矢に、ペンダグルスはドサリと倒れた。その矢の威力に、カリュの表情が初めて綻んだ。


「レイさん!」


 通りの向こうから、弓を放ったレイがこちらへ向かってくるのが見えた。


 カリュはカイと共に茂みを出た。

 ロゼは立っているのがやっとだった。シュナは、ピクリと体を動かしようやく回復したところだった。アルテも茂みから出てくると、シュナに直接ヒールをかける。レイが歩いてくる。道の向こうには、レイが倒した一際大きい第二世代のガルイーガが倒れている。


「よくやった、お前たち」


 とレイがほっと一息ついたように言った。

 まだ敵が全て消えたわけではないが、カリュの目にもとりあえずの危機は去ったように見えた。カイとアルテがシュナとロゼにヒールをかけている。雨がぽつりぽつりと小降りになっていた。暗闇に、霧が深くあった。霧が。


ーーー霧?


 霧に混じって赤い瘴気が薄く立ち籠めている。

 ぶわりと魔力が充満する。

 その魔力に充てられて、カリュの全身が総毛立つ。


「逃げろ!」


 レイが叫んだ。

 しかし、カリュだけでなく誰も動くことができなかった。その強大な魔力に触れ、足が、体が硬直する。声すらも、顔の向きを変えることすらもできなかった。カリュの中にあるそれは、恐怖だった。

 ゆらゆらと松明の火が近づいてくる。兵士の一団の輪郭が見えた。一様に赤い瘴気を纏った、兵士の一団が。

 カリュは視界を変えることすらも、目を瞑ることすらもできずにただただ恐怖の中で赤い兵士の集団が近づいてくるのを見ていた。その一団の中から、女が現れた。小柄な女だった。カリュは、恐怖の中で意識を放した。それは生きるための本能であった。

 

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