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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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アーズ渦中 ロゼ、ぼやけた視界に見る

 男の腰に差してある剣に目が行った。細身の剣。私と同じーーーそして男の顔。ぞくりと背筋が凍った。すぐに叫んだ。


「シュナ、後ろよ!」


 ロゼが叫んですぐ、男は剣を抜き、背中を向けているシュナに斬りかかった。シュナもまた、ロゼの声に反応し、振り向くことなく左へ避けるように転がった。シュナの背中を浅く男の剣が斬った。シュナはすぐさま態勢を整える。 

 男は、剣を払いながら半身になってロゼの方を見た。フードははだけ、男の黒い髪に雨水が滴る。綺麗な鼻筋と、やや垂れたその大きい目。

 ロゼは思い出していた。照りつけるプリランテの太陽の下、あの真っ白の浜で、陽気に笑う男の姿を。しかし今目の前にいる男の姿は。雨夜のもと、その目には冷たく深い影がある。

 ロゼの口から、男の名前が溢れる。


「ヨーク」


 カリュの魔法により矢は広範囲に爆発していた。もくもくと煙が舞っており、その煙の向こうから激しい足音とともにガルイーガが現れる。ロゼの方へ突進してくる。


「ロゼ!避けろ!」カリュが叫んだ。


 ヨークとの思わぬ邂逅にロゼは一瞬反応が遅れた。ガルイーガが突進してくる。ロゼは咄嗟に盾を構えようと腕を上げる。強い衝撃を覚悟したその瞬間、目の前に盾を構えたカイが現れる。突進の力をうまくいなしながら、後ろに押されながらもなんとかカイはその突進を止める。ガルイーガはすぐさま体勢を整えると、その大きな口を開きカイに襲いかかる。その開いた口に、カリュが矢を放つ。ガルイーガは断末魔と共に倒れた。

 ヨークが剣を構え、シュナに斬りかかる。水飛沫が舞う。雨中の悪い足場にもかかわらず、鋭く力強い踏み込み。剣筋は鋭い。

 シュナはなんとかヨークの剣を受ける。2回、3回と剣を付き合わせる。シュナが押されている。


「シュナ、今そこに」


 と走り出そうとしたロゼをカリュが「右だ、ロゼ!」と止める。

 ロゼははっと右の茂みを見る。松明の明かりが木々の奥にぼんやりと見えた。その手前、浮き出るようにペンダグルスが現れた。

 ペンダグルスは唸り声を上げながら飛びかかる。

 ペンダグルスの鋭い爪が伸びてくる。ロゼは後ろに下がりながら、左手に持つ小盾でその爪を受けた。「ぐっ」と左腕の痛みにロゼは声を漏らした。小盾は破壊されると、ロゼの左腕を幾らか傷つけた。血がだらりと流れる。

 カイが前のめりになったペンダグルスに斬りかかる。ペンダグルスはすぐさま体勢を整えると、四つ足になって後ろへスッと下がった。カリュがペンダグルスに矢を放った。ペンダグルスは右腕でそれを払い、さらに後ろへ、茂みの方へと下がる。冷静に、いつでも襲えるぞとロゼたちの様子を伺うように茂みの中にいた。

 カリュのいた茂みのそばから、別のペンダグルスが襲いくる。


「カリュさん、左!」


 とロゼは咄嗟にチャクラムを投げた。チャクラムはペンダグルスの頭を掠める。カリュは後方へなんと逃げるが、茂みから様子を窺っていた一体目のペンダグルスが呼応するようにカリュを襲う。カイが盾でカリュを守る。カリュは弓を手放すと腰に差していたナイフを投げた。一体目のペンダグルスの左肩に刺さり、小さく爆発する。カリュの魔法だ。ペンダグルスの左腕がだらりと落ちる。


「ロゼ!ペンダグルスは私とカイが見る!シュナを!」


 カリュが残り一本となったナイフを抜き、言った。


「はい!」


 とロゼはシュナの方を振り返った。

 雨はダラダラと降り続いていた。前髪から、まつげからぽたぽたと雨粒がロゼの視界をぼやかした。そのぼやけた視界に、右脇腹を抑えながらも、なんとか剣を構えるシュナがいた。はあはあと息は荒く、その姿勢は苦しそうにやや円背になっている。

 ロゼの中に、怒りが芽生える。

 ヨークがシュナに斬りかかる。


『ベリサマ』


 ロゼはヨークに向かって剣を突き出し、唱えた。

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