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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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アーズ 渦中 レイ、足早になる

「お前、なんでこんなところにいるんだ!?」


「まあまあポックくん」


 とトーリがどこか煽るように言うと、怒るポックの背後からレイが現れる。


「これはレイ先生、お久しぶりです」


 とトーリは慇懃に頭を下げる。


「トーリ。そしてサントラか」


 トーリの予想とは反して、レイの態度は冷静だった。


「レイ、お前こいつのこと許したってのかよ!」


「ポック、落ち着け。今はまずここを切り抜けよう。アルテ、サントラにヒールをかけろ」


 とレイは指示を出す。

 アルテがサントラにヒールをかける。


「ア、アルテくん、私も頼めるかな?」


 苦笑いでトーリは尋ねた。アルテはだるそうにチラリとレイを見た。


「かけてやれ」とレイが言うと、アルテはトーリに近づき「トーリ先生、なんか今日臭うね」と言いながらヒールをかける。

 松明が近づいてくる。ガルイーガがもう何体かいるなとレイは判断し、ユキに魔法を指示した。


「はい、です」 


 とユキは魔法を唱える。


『ヴェンディゴ』


 大きな氷の礫がいくつも放たれる。暗闇から放たれたその礫に、敵の慌てる声が聞こえる。ポックも続いて複数の矢を番え、空に向かって放つ。レイは「行くぞ」とサントラを抱えながら走り出した。

 トーリは最後尾から一団に続く。

 ポックがレイに並走し、言う。


「レイ、あいつを信用していいのかよ」


「調査報告で、トーリも操られていたことがわかった」


「んなわけあるかよ。ありゃ自我の塊だったぜ」


「その自我を利用されたんだろう。自我の増長、欲望の利用からその自制を効かなくさせられていたんだろう。これもアーズの魔法だ」


「そうなんですよ、レイ先生」 


 トーリがボソリと言うと、レイは厳しい口調で言う。


「そもそもアーズに近づこうとしたのはお前の失態だがな」


 何も言い返せず流石のトーリも閉口する。レイは続ける。


「とりあえずはサントラの保護だ。カズたちのいるC地点まで戻る」


「で、A地点にいるカイたちを呼び戻して作戦終了か?」


 ポックが尋ねた。


「いや、サントラとは別にヒーラーがもう一人侵入している。そのものにはカイたちがいるA地点が集合場所だと伝えてある。そのものを待つ必要がある。カズたちにサントラを預け、私とお前はA地点へ応援に行く。アルテとユキはそのままカズたちと合流してもらう。あと、トーリ」


「なんです、レイ先生」


「先ほど、光が見えた。あの光は、規模は小さいが大いなる光と同じような感覚を持ったが、何か知っているか」


「いえ、何も。その女は何か知っているかもしれませんね。女が向かった先で起きたので。私は本当に何も知りませんよ。羊に女を託されただけで」


「羊?!」


 ポックがトーリを見た。


「ええ。憎たらしい上から目線の羊ですよ、ポックくん」


「間違いねえじゃねえか。あいつ、なんでこんなところに」


 ポックはぶつぶつと喋りながらも、夜の森を一行は進んだ。

 レイにも焦りがあった。サントラは気を失っている。何かがあったのは明白だ。アーズ陣営に侵入したもう一人のヒーラーはどうなった。A地点にいるカイたちが心配だった。ここで自身のみでもA地点に向かうことも考えた。だが、トーリも完全にこちら側だと信じきれない。とにかく当初の作戦通り、カズにサントラとトーリを預けることを優先した。一刻も早く。レイは足早に、しかし周囲への警戒を解くことはなく一団を率いた。

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