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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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アーズ渦中 サントラ、潜入⑤

 いつもの穏やかで冷静なサントラはいなかった。リラードを助ける。他に思考はなくなり、他の選択肢は微塵もなくなってしまい、感情のままにサントラは、高揚する気持ちのままに、リラードの背後の茂みに向かった。


ーーーりっちゃん、りっちゃんが、そこに


 リラードの背後の茂みに潜みながら、サントラの鼓動が高鳴る。サントラに恐怖はなかった。そこにあるのは高揚と期待であった。セトの巣糸とその先についた小さな針を握りしめる。見張りは遠い位置にいる。大丈夫。

 サントラが針を投げようとしたその時、一陣の強い風が吹いた。森が轟々とざわめくと、ガルイーガが咆哮した。一体が遠吠えのように鳴くと、それはガルイーガの習性か、もう一体もまた遠吠えした。

 サントラはびくりとその針を投げようとしていた手を止めた。動悸がさらに、一気に高鳴る。兵士がガルイーガの興奮をおさめにサントラがいる方へと近づいてくる。その時ようやく、サントラは恐怖した。自らの冷静さを欠いた行動を後悔した。こんなにも敵に近づいている。りっちゃんが近くにいるけど、ヒールでりっちゃんを戻してもこれだけの敵がいる中逃げ切れる確率は低い。情報は得た。私には任務があって、それを伝達しなければ。私は、何を。サントラは後悔しながらも、その場から去ろうと思いながらも、最後に見てしまった。リラードを。うつ伏せ、地面に手をふし、頬がいくらか痩けている。生じた一瞬の戸惑い、一瞬の停止。


「誰だ!?」


 兵士の一人がサントラに気づいた。

 感情の乱れたサントラの透明化が解けた。はっきりと兵士に見られる。


ーーーなんで、私は


 サントラは森の中へ走った。背後から怒声が響く。サントラの感情が入り乱れる。迷い、後悔、立ち止まり、恐怖、後悔、恥、任務、勇者、使命感、りっちゃん、りっちゃん、りっちゃんが、苦しそうで、私は何もできなくて。りっちゃんが勇者になったのは私のせいで。

 乱れに入り乱れた感情の全てがリラードへの感情へと帰着すると、サントラは意を決したように森を出たところで振り向いた。ぷくぷくと太った月の明かりが平原を照らす。兵士が走ってくる。赤い瘴気を纏った、操られた勇者たちもまたサントラを追ってきていた。


「水の精霊よ、私に力を」


 サントラは力強く唱える。


『ナーイアス』


 水霊を模した水の塊が、追ってくる兵士と勇者にまとわりつく。

 続々と森の中から兵士や操られた勇者たちが現れる。

 サントラに迷いはなかった。そこにはプロの勇者サントラはすでにいなかった。


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