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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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アーズ渦中 サントラ、潜入②

ーーー何か、有益な情報を


 サントラに焦りがあった。危険なスパイ活動、赤い瘴気の放つことのできる液体にも限りがある。三日後の夜までにはなんとかこの集団を抜け出して、指定場所へと向かわなければならない。勇者組合からは、敵の人数とアーズが本当にいるのかどうか、そしてマラロス村を占拠した目的、また、操られた勇者たちは何をさせられているのか、それらの情報を出来うる限り収集してほしい、と言われていた。出発前、サントラはフライ婆ストゥより直に言葉をいただいた。スパイ任務をあてがっていながら非情なことを言うが、とストゥは前置きしながらも、「自らの命をなんとか優先してくれ」と謝るように言った。だが、それでもほとんど得るものなく戻るわけにはいかない。何より、サントラ個人にとって一番大切な、りっちゃん、つまりリラードの所在がまだ掴めていなかった。

 その日の夕方、アーズが幾らかの護衛とともに現れた。黒いパーカーの男、鎧を着た大柄な女、そして昨日はいなかったがハットを被った老人がいた。老人の後ろに、茶色いフードを目深に被った女もいた。

 あの老人は、とサントラは見覚えがあった。任務の前に見せられたある男の写真を思い出す。面影がある。あの老人の若かりし頃のだろう。ダンという召喚士に違いない。そして、もう一人昨日まではいなかった男がいた。きらりと光る白い歯。全国的指名手配犯となったトーリである。若くしてモンスター研究の第一人者であり、勇者学校で教鞭もとっていたが、実はアーズのスパイであった。他にも兵士らしきものが数人いる。アーズが現れると村人は彼女に視線を奪われ、その赤い瘴気がうっすらと強くなる。ぐらりとサントラの心が揺れる。口がだらしなく開かれ、途端に無気力になる。思考することに煩わしさを覚える。ただ、アーズに従っていれば。その怠惰の欲に抗うように、ヒールをかける。せめぎ合いの中で、なんとか心を平静に保つ。じとりと額に汗が滲み出ているのがわかる。落ち着いて、平静に、と何度も言い聞かせる。言葉が聞こえる。アーズがダンに喋っている。昨日まではただ姿を現すだけであったが、ダンにはよく喋るようであった。


「、、、から降る大いなる光」


「魔力は、、、い大地に宿る」


 アーズの魔法と自己の中でせめぎ合いながらも、なんとか時折もれるように聞こえる言葉をサントラは記憶した。その時、「お前」と冷たくも鋭い声がその場に突き刺さった。アーズのそばにいた兵士の一人の声である。黒い髪の、ピンと伸びた鼻筋、色男の部類であるが、その冷たい目は怖さを感じさせる。


「どうした、ヨーク」


 アーズが尋ねた。

 ヨークは、黙って歩き出す。村人の中を。そしてサントラの方へと近づいてくる。

 落ち着いて、大丈夫。赤い瘴気はちゃんと放たれている。

 しかし、サントラの心音は高鳴る。だめ。怖い。ここでバレたら。昨日のガルイーガに食べられる村人を思い出す。怖い。怖い。怖い。落ち着いて。ヒールを。

 サントラの精神が限界を迎えそうになったその時、サントラの近くにいた男が息荒く声を上げ、隠していたナイフをヨークに投げた。ヨークはさっと剣で払う。男は背中を向けて逃げ出そうとするが、ヨークは素早く追いつくと腹を殴った。男がぐたりとよろめく。


「どうしますか?」


 ヨークはアーズを見た。


「お前の魔法にかかっていないことを見るに勇者組合のヒーラーだろう。他の勇者たちと同じように扱う方が有益だろう」


 ダンが先を制するようにやや早口で言った。アーズは怒らせた肩をなんとか抑え、「連れてこい」と言った。アーズは男の額に手をやる。男の体から、薬ではなくアーズの魔法による赤い瘴気が放たれる。ヒーラーであっても、それを越えた魔力が注がれればすでになすすべなくアーズに操られるままであった。

 サントラは、図らずもほっと安心してしまった。人が、面識はないが多分勇者組合のヒーラーだろう男が捕まったにも関わらず自分ではなかったことに安堵を抱いた自身に嫌悪感を抱いた。それほどに命への保身が強いことを自覚した。だが、情報を得たことも事実だった。


ーーーりっちゃんは、捕まった勇者たちは、どこかに集められている。

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