表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
150/259

アーズ渦中①ロゼの葛藤

 夕日が落ちかけている。ロゼの赤い髪の毛が風に小さく浮いた。背筋の伸びた背中、意思のこもった瞳、中指にひかる赤いリング。呼吸を整える。

 いつもの私だ。そう。いつもの私。


「ロゼ、大丈夫?」


 シュナの言葉に、ロゼははっと後ろを振り返った。シュナが心配そうにロゼを見ている。


「大丈夫に決まってんだろ、シュナ。ロゼってやつは天地がひっくり返っても動じねえよ」


 ポックがわざとらしくあくびをしながら言った。


「ポック、あんたはいつも私を貶して!」


 とロゼが言い返すと


「まあまあ、我らがリーダー。そう怒らずに」


 金色の髪の毛をさらりと揺らし、アルトが言った。その向こうで、同じく金色の髪の毛を長く伸ばした女、アルテがいた。ポックとは違い、本当に眠そうにあくびをしている。


「アルテ、しゃんとしなさい!」


 ロゼが言うと、「ふぁ〜い」とアルテから気のない返事が帰ってきた。


「おーい、お前ら、早くいくぞ」


 向こうで、カイが言った。その隣にはカイより頭ひとつ小さいユキがちょこんといる。


「こら、私がリーダーで、私が室長よ!」


 ロゼは、言いながらにいつの間にか、自身の肩の力が抜けていることに気づいた。ふとシュナの顔を見ると、にこりと笑っている。

 そうだ。みんな、私の事情を知っているんだ。惑い。恐怖。因縁。私は気丈な風を装っていたけど、どこかでいつもと違って。シュナは、みんなはそれに気づいて。


「シュナ、ありがとう」


 ロゼは、シュナを、親友を抱きしめた。

 私には仲間がいる。私の父を、祖国を、プリランテを滅した人型モンスターアーズ。セバスとともにあの延々と続く砂漠を超えたことは、昨日のことのように覚えている。憎い。ただただ憎い。だけど。

 ロゼは、シュナの顔を見つめる。


「ロゼ?」


 やはり心配そうなシュナが言った。


「大丈夫よ、シュナ。私は勇者。まずは目の前の任務を果たす」


 ロゼは力強く言い切った。



 Aポイントへ向かうレイ先生の部隊は先行して出発した。


「さあ、いくぞ」


 とカリュが歩き出すと、ロゼ、シュナ、カイが続く。三つ編みをカチューシャのようにして髪の毛を止めている。気の強そうな目は少しつり上がっている。年齢は二つ上で勇者歴も4年あるというが、小柄で自分と同じか年下にも見えるカリュに、ロゼは最初不安を持った。だが、素早く自分たちの魔法と長所を把握し、陣形や行程の説明をされた時、すぐにその思いを払った。この人は、私や、私たちよりはるかにプロだと、それは当然のことなのだが、ロゼは自分がいかに自惚れているかがわかった。暗がりのトンド市の路地を歩く。街の際に街灯が一つぽつんとあった。向こうから、アタッシュケースを引きずった、土色のハットを被った老人が歩いてくる。すれ違う。ロゼは、老人の視線を敏感に感じ取った。ロゼもまた、チラリと老人を見返した。土色のハットを目ぶかに被った、小柄な老人を。老人は素知らぬ顔でそのまま歩き去った。何か嫌な感じがロゼに残った。知らない人だ。だが、なんだろう。理由なく、ただただ気持ち悪かった。


「ここからは隊列通りに行く。ロゼ、聞いてるか」


「は、はい!」


 とカリュに言われ、ロゼはキリッと背筋を伸ばした。街を出たら、どこでモンスターと遭遇するかわからない。アーズとの対峙も考えられる。頭を一度小さく振ると、ロゼは再度身を引き締めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ