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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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カズさん、しゃんとする。

 皆でトンド市の勇者組合へ向かう。扉を開けると、見覚えのある顔がいくつかあった。


「ロゼ!」


 と真っ先に声を上げたのはシュナだった。赤い髪の気の強そうな目をした我らが室長がそこにいた。


「シュナ!」


 とロゼとシュナは抱き合う。ロゼだけではない。よく知ったる美しい金色の髪の毛と俳優のように美しい顔立ちを持つ男女の双子もいる。


「アルト、アルテ、お前ら何してんだ」


「カイ、いやあ奇遇だね」


 とにこりとアルトはその綺麗な歯を見せる。その背中にはやはり大きな盾を持っている。アルトの特殊武器、『モーリス』とかいう大盾である。アルテは相変わらずやる気がないというか、あくびをして「お久〜」とマイペースである。しかしこのメンツなら、もう一人いるはずであるが。向こうの勇者組合物産コーナーに、お団子頭の女がいる。


「はれ、あんららち何しへるネ」


 と何かもぐもぐと食べながら、チョウさんが言った。腰にはやはり特殊武器『のんちゃん』を差している。


「何食べてますか、チョウ!」


 とユキが駆けていく。


「あんたのはないネ、ユキ!」


 ユキはチョウさんには結構強気である。


「なんだ、同期か?」


 カズさんがめんどくさそうに尋ねた。


「そうだよ、うるせえ奴らなんだ」


 とポックは言いながらに口元が綻んでいた。旅行先で友達であったような、そんな喜びがある。しかし、ずっとサントラさんのことが頭に残っており、素直に喜べない。


「お前らもこのあたりで仮免か?アルト」


「そうなんだけどね、カイ。ちょっと色々と」


 アルトにしては珍しく言葉を濁した。ふとあたりを見渡す。他の勇者が見当たらない。

 そのとき、事務所のカウンター奥から勇者組合の事務員とともに世にも麗しき美人が。艶やかな額、形の良い鼻、切長な目、後ろに束ねられた髪の毛はかんざしでとめられており、うなじは色っぽいを超えてもはや芸術作品である。やや険しい顔つきであったが、俺たちを見て


「お前たち、グッドタイミングだ」


 とレイ先生は、その美しい顔を綻ばせた。


「げっ」


 と及び腰になったのはカズさんである。


「待てカズ。逃げるなよ」


 声色冷たく、レイ先生が言った。


「はい」


 グータラなカズさんには珍しく、しっかりと返事をした。いくらか声色は重たい。二人の関係性は、まあ追い追い聞き出そう。それよりも、切羽詰まった状況のようである。


「ユキ、あんた食べ過ぎネ!」


「チョウは先に来てたからです!ユキは今来たのです!」


 緊張感のない声が、物産コーナーから聞こえる。どうやら試食のお菓子を食べているらしい。


「こら、チョウ、ユキ、レイ先生が来たわよ!しゃんとしなさい!」


 ロゼが怒ると、二人の背筋がピンと伸びる。さすが室長。レイ先生は呆れながらも、幾分か和んだようではっと息を吐いた。

 レイ先生から事情を聞く。ことはマラロス村で起きたとのこと。

 トンド市と今回行ったルソン村の間にマラロス村がある。そこは俺が第一期仮免でリラードさん、カリュさん、サントラさんたちと任務に向かった場所だ。ペンダグルスが近隣で出没したという情報を受けて向かったのだが、ペンダグルスの転送術式があるわ夜に勇者組合の駐屯地が襲われるわ、村に行ってみれば誰もいないわ、とにかく異様なことが起きたのだった。その後調査隊が組まれ、リラードさんも参加している、とそこまでは俺も知っていたが。レイ先生が、少し貯めて言う。


「調査隊が全て、アーズに操られてしまった」


 赤い瘴気を漂わせた、サントラさんの姿が浮かんだ。いや、待て、調査隊に行ったのは。


「リラードさんもですか!?」


 話の腰を折ってしまったと自覚しながらも、聞かずにはいられなかった。


「そうだ、カイ」


 ごくりと俺は唾を飲み込んだ。レイ先生は、すぐさま話を続ける。曰く、マラロス村に行った調査隊と連絡がつかなくなった。調査隊との連絡役がかろうじて得た情報は、アーズがマラロス村にいるのではないかということであった。それが9日前の話であり、すぐさま一帯の交通を封鎖、ちょうど俺たちがトンド市からルソン村に向かったときのことだった。アーズは人を操るため、とにかく慎重にことを動かさなければならないが何分情報が少ない。しかし、最近になってアーズの洗脳への対処法がわかった。それが


「ヒールだ。しかしアーズに直接魔法をかけられたものはヒールをかけてもすぐに洗脳が解けるわけではない。ある程度の回復期間と継続的にヒールを施す必要がある。しかし、元々ヒーラーのものは、アーズに直接魔法をかけられても、継続的に自己にヒールをかけ続ければ操られないことがある。そして、我々勇者組合は、擬似的に体から赤い瘴気を発する装置を作ることに成功した」


「まさか」


 すぐさまピンときた。調査隊に参加していなかったサントラさんが、なぜあの列に赤い瘴気を放っていたのか。


「カイ、そうだ。サントラを見たと言ったな。サントラは、まだ操られてはいない。スパイとして、操られた風を装っている。なにぶんマラロス村の情報が少ない。危険な任務ではあるが」


「なぜ、サントラさんが」


 馬鹿なことを言っているのはわかっている。サントラさんだってプロの勇者なんだ。だけど、あの優しくて、ほんわかとしたサントラさんが、あんなにお世話になったサントラさんが。私情なのはわかっていても、俺は何か批判するようにレイ先生を見てしまった。


「お前たちも知っているだろうが、プロの勇者になると魔法を一つ登録する。パーティを組むときに必要な情報だからだ。勇者組合の登録魔法がヒールのものは、この危険なスパイ任務から除外した。アーズ陣営もヒールがアーズの魔法を解除する鍵だと知っているし、トーリがスパイでいたぐらいだから、勇者組合の情報もほとんど知られているだろう。ヒーラーのほとんどが登録魔法にヒールと記載しているが、サントラはその強力な水魔法から、水魔法を登録魔法にしている。データ上はサントラがヒールの使用者だとはわからないはずだ」


 そうだ。サントラさんはG1のプロの勇者で、勇者組合は人類のために、最適な人選をしたんだ。俺は一度首を振ると、


「すみません、続けてください」


 とレイ先生を見た。

 レイ先生は小さく頷くと、さらに話を続けた。

 16人からなる調査隊が操られたこと、そして折悪く人型モンスターグリムヒルデの動きも活発になり、プロ勇者の人員がそちらにも取られていること


「だから俺たち仮免組も出動ってわけか?」


 ポックがややひねたように訊ねた。


「もう一つある。ストゥ様が」


 レイ先生が少し貯める。ストゥ様とは、フライ婆のことだ。グウォールの子孫で、勇者組合発足の人。


「流星群だからこそ、と」


「どっちにも取れる発言だぜ。本音は人不足だろうよ」


 ポックはニヒルに笑った。


「いやか?」


 何か挑発するように、レイ先生はポックを見た。


「んなわけねえだろ。俺たちは勇者だぜ」


「ひねくれたやつね、ポック。やるんだからやるでいいでしょ」


「うるせえ、ロゼ!」


「まあまあ」


 とシュナが二人を宥めた。


 レイ先生は、彼らのやりとりに口元を綻ばせながらも


「さあ、作戦を説明するぞ」


 と力強く言った。

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