カイ、呆然とする
村を出る時、村の若者が二人ついてきた。あの詩を詠んでいた青年と、ギターを弾いていた青年である。俺たち外部のものと接して色々変化が起きたのかもしれない。そして、やはり羊もいる。キヅモさんについていくだとか。羊羊と呼んでいると、
「羊ではない。オーヴィス・アリーだ。オーヴィスと呼べ」と偉そうに言った。
「うるせえ羊だな」
ポックが悪態をつくと、オーヴィスは「このクソガキが!」と謎の幻術をかけてポックが「や、やめれ〜」とヘロヘロとひざまづく。力が有り余ってるだけに面倒だ。
「リクトは行かないの?」
シュナが、別れの時にリクトに尋ねた。意外というか、村で唯一ループする毎日に気付いてたリクトは、勝手に村を出たいものだと思っていた。
「いいんです。僕は、この村が好きなので」
いい笑顔であった。
村を出る。馬車に乗り込み、出発する。うとうとと揺れていると
「兄ちゃんら、リーフ市でいいんだったな?」
と御者が聞いてきた。
「いえ、リーフ市組とトンド市組がいて」
と眠りこけているカズさんに変わって俺が答えた。
村の若者二人とキヅモさん、オーヴィス(羊)はリーフ市へ向かうのだが、俺たちパーティは一度トンド市へ向かわなければならない。今回の依頼はトンドの勇者組合で受けたので、トンド市で報告書を作成しなければならないのだ。
「マジか。トンドへは交通規制がかかってんだ。すまん、てっきりリーフへ行くもんかと。あんたら勇者だから知ってるもんかと」
「交通規制ですか?」
「ああ、先週あたりからだ。交通規制、ってか、誰もその一帯に入んなって、オタクら勇者組合からのお達しよ。リーフへ行くなら大丈夫なんだが」
先週から交通規制か。ちょうど俺たちがルソン村に来た頃か。
「兄ちゃんら勇者か?勇者なら大丈夫かもな。トンドは規制かかってるところから歩いて一日ぐらいだが、どうする?」
「どうします、カズさん」
「んん、あああ〜あ」
とカズさんはおおあくびをする。
「確認しなかった俺が悪い。酒と飯は渡すぜ」
とヒックと御者が言った。こいつ、酒飲んでんのか。
「しゃーねえ、降りるか」
カズさんが言うと、「てめえ、酒に釣られたろ!」とポックが突っかかった。まあ、しかし降りるより他ないか。
キヅモさんやオーヴィス(羊)たちと別れ、我々パーティは馬車より下された。人通りはない。右手には川が、左手には森がある。
「交通規制ったって、なんの情報もないらしいじゃねえか。なんだ本当に」
ポックが悪態をついた。そう、なぜ交通規制されているか情報公開されていないと御者談。しかし、勇者とはいえ入っていいのか?
「あのままリーフへ向かったらトンドに戻るのに3日ぐらいかかんぞ。1日歩いていけんだ、ほらほら」
とカズさんはグビリと酒を飲んだ。だめだこりゃ。
だらだら歩く。昼も結構すぎたくらいに、静かな森がざわりと動いた。真っ先に反応したのは、ポックである。
「音が変だ。結構な人がいやがる」
と立ち止り、森の方を見た。規制されている場所で、人がいる?カズさんも流石に動き出しが早い。「隠れるぞ」と物陰を探し、皆で様子を伺う。
森の中を、確かに人が歩いている。それも、赤い瘴気をまとって。
「勇者か?」
ポックが誰と無しに小声で尋ねた。そう、歩いている人たちの中に、結構な数であるが装備を整えた勇者らしきものがいた。そのすべてのものが赤い瘴気を発している。俺は、ポックの問いに答えられず、ただただその列の中にいる一人の女性を見ていた。動悸が激しく高鳴る。なぜ。どうして。ローブを着た、黄色いヘアバンドをリボンのようにとめている女性。やはり他のものと同じく、赤い瘴気をまとってぼうっと歩いている。
「サントラ、さん」
何が、どうして。




