カズさん、酒を飲む
喧嘩しだす二人に、俺はため息をつき「カズさん、ポック、俺が聞いてきます」と近くの民家に向かった。
民家には老夫婦が住んでいた。空き家があるとのことでそちらを借りることになった。木造の小さな家だった。調度品が残っており、何年も放置されているような感じでもなかった。その日は疲れもあってかすぐに眠り、翌日になった。
「お前ら、ちょっと村調べてこい」
とのカズさんの命令で、ユキと村の散策に。ポックとシュナは、飯の調達に森へ向かった。
「のどかなのです」
とユキは穏やかな顔をしている。大都会リーフと比べると本当のどかで、特にユキのような元は田舎からきたものからするとホッとするのだろう。
薄い夕日が小高い丘を染めている。そこを羊飼いの少年が羊の群れを連れて歩いている。
「こんにちわ、です」
ユキが声をかけると、少年は小さく会釈した。ゆっくりと、少年と羊たちが去っていく。のどかな村に染まってか、俺たちはなんの成果もないままダラダラと村を歩く。しかし致し方ない。だって何もないんだもの。
夕日が落ちると、半月が空に光る。キラキラと降ってきそうな星々が空一面にある。
「あれ、羊さんです」
一匹の羊が、丘の上にいた。月を見上げている。何か物憂げに、何か儚げに。
「逸れたのかな」
俺は言いながらに、違うなと思った。その羊に、孤高の気高さのようなものを感じたからだ。いや、言い過ぎか。ただの羊だ。とにかく、なんとなく話しかけてはいけないような、まあ人じゃないんだけど、そんな雰囲気があったのでユキと家に戻る。
「おう、戻ったか」
カズさんが頬を染めて言った。陽気な、そして微かに香るアルコール臭。隣で呆れているポックと苦笑いのシュナと、そして、
「えっと」
メガネの女性が座っていた。
「ああ、初めまして、キヅモと申します。カイさんとユキさんですね!」
ボサボサを無理やりカチューチャでまとめているような。頬のそばかすが印象的な、明るい笑顔の人である。服も泥が結構ついている。
「カイと申します、えっと、キヅモさん、は、えっとあれ、依頼の人じゃないか」
とシュナに助け舟を求める。
「私とポックが森を散策していたら会ったんだ」
「こいつ、ずっと土いじってやんの。変なやつだぜ」
ポックがあくびをしながら言った。
「考古学を学んでまして、この村には歴史的な発見があるとの思いで参りました。やはりグウォールの辿った足跡の一つにこの場所があり」
「なげえなげえ」
とポックがキヅモさんの話を止める。
「てことは、依頼終了?」
「いや、それがよ」
ポックが貯めるように言葉を止める。
「どうしたんだ?」
「なんか村を出れねえらしいんだ」
「出れない?」
俺は言いながらにカズさんの方をチラリと見た。村の人から酒をもらったらしく、瓶ごと飲んでいる。もう嫌だ。




