カリュさん、サントラさん、奢ってくれる
リーフ市へ戻ると夜だった。一度解散し、翌日昼前に集合する。サントラさん、カリュさんと勇者組合リーフ支部にて報告書の作成を行う。サントラさんが俺とカリュさんの話を統合していき、前回任務報告書より早く作成が済んだ。
「この前の任務は、ちょっとイレギュラーだったから。普段は、特に駐屯任務はこれぐらい簡素で終わるんだ」
サントラさんが書類を整えながら言った。
報告書を提出し、建物を出た。
リーフ支部のある行政区に強い日差しが差していた。他のストリートと比べ、行政区は比較的静かである。行政区から中心街に向かって歩いていくと、右手に公園があった。夏の虫の声が大きくある。
「きょ、今日で仮免、最後だな」
カリュさんが、少しどぎまぎと言った。
「はい。本当にたくさんのことを勉強させていただいて、感謝しかありません」
言いながらに、お世辞くさいというか、嘘くさい言葉だなと思いながらも、それは全て本心出あった。ヒーラーの戦闘での役割、パーティとしての動き、リーダーとしてのパーティのまとめ方、職業勇者という仕事内容、諸々、この短期間でたくさんのことを学んだ。
「わ、私も、本当に反省点が多くて。こんな試験官でごめんね。りっちゃんやリュウちゃんみたいにしっかりしてたらよかったんだけど」
サントラさんが、何か申し訳なさそうに言った。
「そんなことありません!同じヒーラーとして、サントラさんには本当にたくさんのことを学びました。サントラさんが試験官でよかったです」
本心とはいえ、こんな臭いセリフが意外とスラスラと言葉が出るものである。
「わ、私も、ありがとう」
照れたように言うサントラさんはいやはや、かわいい。
「まあ、なんていうか、最後だし、えっと」
カリュさんが斜め上を見ながら、やはりどぎまぎと言う。カリュさんの言葉を待つ。
「リラードはいないけど、えっと、ご飯でも、行く」
と頬をなんとなく染めながら、カリュさんが言った。
「はい!行きましょう!あ」
はたと思い出し、俺は言葉を止めた。
カリュさんが、「や、約束があるなら、別に、いいけど」と言葉を落とす。
「いや、大丈夫です。飯行きましょう!」
「じゃあ、また夕方集合にしよう」
カリュさんが言うと、「うん!」とサントラさんがにっこり笑った。
アルテがサントラさんと飯に行くなら必ず誘えと言っていたのだが、今回はすまんアルテ。カリュさんが嫌がりそうだし、アルテは誘わないでおこう。
カリュさんは、口を綻ばせ歩いていた。
サントラさんも、ニコニコ笑っている。
リラードさんはいないけど、とにかくめちゃくちゃいい人たちと出会えたな。最初はどうなるかなと思ったけど、本当に良かった。
夕方、サントラさん、カリュさんと集合し、6番街へ向かう。この前は3番街の勇者が集まる居酒屋へ行ったが、趣向を変えようということに。若者が多く、おじさんの多い3番街よりはカリュさんとサントラさんには合ってるような気がした。
「あれ、カイじゃん!」
後ろから声をかけられる。バンダナからはみ出した茶髪、小麦色の肌、濃いアイメイク、口には棒キャンディーを加えている。
「リオナ!」
そう言えば、リオナのやってるキャンディ店『リーフ・デ・キャンディ』が近い。
「女の子連れて、シュナが妬くよ〜」
リオナが冷やかす。
「お前、何を」
なんて言っていると、カリュさんがボソリと訊ねてくる。
「誰だ?」
「ああ、すみません。同期のリオナっていう」
そこまで言うと、カリュさんは警戒心を持ってリオナを見た。無理もない。俺の同期でカリュさんが会ったのはポックとアルテ。二大礼儀がなってない二人だ。サントラさんは、ちょっとソワソワしているというか。リオナみたいな人類全員友達みたいなギャルとは正反対だし、だけどリオナにとってもカリュさんとサントラさんは先輩になる。とりあえず軽く紹介しておくか。
「こちら、カリュさんとサントラさん。俺が仮免でお世話になった先輩」
「あ、そうなの!?すみません!てかめっちゃいいじゃん!こんなかっこいい先輩で!どっか行くお店決まってんの!?」
「え、いや、今から」
俺が言うと、リオナは嬉々として
「うちの店来て!カリュ先輩にサントラ先輩!同性で年齢も近いし、めっちゃ話聞きたい!」
ぐいぐいと押すリオナに、「お、おお」とカリュさんは意外と押しに弱いのか流される。サントラさんも、「え、う、うん」と同じく。リオナは二人を連れて『リーフ・デ・キャンディ』の扉を開く。店内にはちらほら客がいる。
「先輩ここ座ってて!今用意するね!」
とリオナは奥の一角の席を用意してくれた。
「ここって、あの有名な」
カリュさんが説明を求めるように俺を見た。
「あいつ、ここのオーナーで」
「ええええええええ!?」
カリュさんが驚きの声を上げた。この店そんな有名なのか。
リオナも含め、四人でキャンディソーダを飲む。暑かったのでちょうどいい。3人の弾む話に、リオナのコミュ力の高さを知る。しかしとりわけ職業勇者としての心構えや仕事内容について、魔法についてなど、このチャラい容姿からは想像できない話の内容で、そのギャップにかめちゃくちゃ真面目なやつに見える。実際真面目なんだけど。
「カイの同期はやばいやつばかりだと思ったけど、そうでもないんだな」
とカリュさんがストローを啜る。
「え、ほか誰にあったんですか?」
結構ちゃんと敬語使えるんだなリオナ。横から俺が答える。
「ポックとアルテ」
「ああ、あの二人。一番常識ない二人じゃん!」
「まあ、そうだな」
否定できない。
「でも、サントラさんはすごいですね!ヒールに強力な水魔法なんて。ウチも同じヒールだけど、攻撃面ではあんまり力になれないから」
「でも、純正のヒーラーっていうか、ヒールを極めた人みたいな人とはやっぱりちょっとヒールの精度が落ちると思う。アルテさんもリオナさんも、カイくんも、私よりずっと上手になれると思うよ」
サントラさんもリオナとは結構打ち解けたようで、リオナの悩みにしっかりと答えている。しかし、俺がサントラさんのヒールに追いつけるかと言われると。
「いや、俺は」
「謙遜しすぎるなカイ。お前は結構すごいんだから」
カリュさんに褒められると結構嬉しい。
「実際、私は魔法登録は水魔法で登録しているよ」
「魔法登録?」
俺はキョトンと訊ねる。
「カイ、職業勇者は自分の魔法を一つプロフィール欄に登録するんだ。常識だぞ」
カリュさんに咎められる。
「カイは意外と抜けてるとこあるからなあ」
とリオナも呆れ顔。うるせえ。
俺なら、やっぱりヒールか。まあ臨時だったり斡旋でパーティを組むときにわかりやすいように登録しておくんだろうか。
リオナの知っているレストランに移動し、飯を食べる。
「いいよ、支払いは」
カリュさんが頬を染めながらも先陣切って支払いに行ってくれる。サントラさんも後ろから追いかけ、お言葉に甘えて奢ってもらう。
「いい先輩だね」
リオナの言葉に、「ああ、本当、いい先輩だ」と答えた。リラードさんがいないのは残念だけど。
仮免試験が、これで本当に終わった。明後日から再び学校が始まる。シュナと、ポックと、リュウドウと、みんなと会える。
外に出ると、赤いネオンがあった。ふとダルク砂漠の赤い髪の女を思い出した。ロゼに聞くのは、良くないか。あんまり自分のこと話したがらないしな、ロゼ。
みんなそれぞれ想いがあって職業勇者になるんだ。まだまだ第一歩、あの光の先にいた誰かを探すための、まだ第一歩なんだ。




