ケントさん、サントラさん、落ち込む
赤い髪の毛の女、大蛇、そしてアルゴールの少女。今日あったことをみんなに報告する。
「すまん、俺がいながら。ちゃんと砂塵の対策が取れていなかったのが原因だ」
「いえ、ケントさんは何も。あそこで砂塵に飛ばされた俺たちに原因があります」
「そ、そうなのです!」
責任感が強いからか、意外と落ち込みやすいケントさん。チャパさんがケントさんの肩をポンと叩いて言う。
「今日の砂塵はここ数年じゃ一番の大きさだったらしいぜ。まあうちらんとこはそんなにだったが。んなことよりユキとカイが戦闘したっていう大蛇と赤い髪の女だろう」
「なんだか、ロゼみたいだったのです」
ユキが飯を頬ばり言った。確かに、あの剣術もロゼの突き重視のものに近かったし、魔法も同じものを使っていたように思う。プリランテの人だろうか。
「赤い髪の女?」
と長らく駐屯している兵士が聞き耳を立てていたのか、話に入ってくる。
「なんか知ってんのか、おっさん」
チャパさんが親しげに尋ねた。飲み屋みたいである。
「おお、たまにダルク砂漠で見かけるってね。街にも稀に来るらしいぞ。大蛇は、数年前はたまに見かけたが最近はめっきりだったんだがな。向こうから何か危害を加えてきたことはないな」
「そうなんです。何か試すような。流星群よ、勇者よ、もっと強くなれよ、と言い残して。それと、確か、イシス、と言う名前を出してました。あと、アペプって名前も」
「アペプはあれだろ、昔の魔法使いじゃねえか。イシス?は知らんなあ。おお、今行く」
と兵士は別の兵士に呼ばれ、去っていった。
「流星群よ、勇者よ、って完全にお前らのことだな」
チャパさんは俺とユキ、話に興味を示さず飯をがっついているアルテを見た。
「イシス」
サントラさんが何かを思い出すように言った。
「何か知ってるか、サントラ」
「チャパさん、イシスは確か古の魔法使いです。英雄だとか、死の魔女だとか、評価が二転三転しているような」
「英雄に死の魔女って、なんとも正反対だな」
「文献にもそんなに多くは載っていなかったような気がします。ただ、確か蛇を操るアペプ、アルゴールの発生時期、イシスの生存時期は被っていた思います」
「アペプやらアルゴールに話題を食われた感じか?にしても賑やかな時代があったんだな。死の魔女やらアルゴールやら、そんな時代に生まれたくはねえが。なあ、ケント、元気出せよ!」
「おう、そうだな、チャパ。だが、試験官として、勇者学校で教えている身として、受験者を、生徒を危険に晒して」
「ったく」
とケントさん、一度落ち込むと長いらしい。繊細な一面は初めてである。
「わ、私も、全然まとめきれなくて」
今度はサントラさんが落ち込む。
「サンちゃんは大丈夫」
アルテが初めてスプーンを止め、サントラさんを見た。
「トラちゃんだ!トラちゃんは頑張ってるから大丈夫!」
といつまでこのやりとりをしているのか、カリュさんが言った。
「いや、お前らが原因だっつーの」
チャパさんが呆れたように言い、一転真剣な表情でサントラさんに続ける。
「サントラ、厳しく、怖いやつになれとは言わない。だがな、まとめ役になるには、ある程度言わないと、下が危険になるんだ。下の者たちのためにも、言うことは言えよ。お前は才能も意欲もあるんだ」
「は、はい」
上に立つってのは大変なんだな、なんて呑気に考えていたが、そういえば俺は一応パーティのリーダーなんだった。
ハザンドラの駐屯任務を終え、リーフ市へ戻る。みんな、元気だろうか。




