カイとユキ、襲われる。
ーーー流星群
うっすらと声が聞こえた。
誰だ。
フカフカのこれは、砂?
目を覚ます。風が舞っている。砂埃に咳込む。隣でユキが倒れている。
「ユキ!大丈夫か?」
「え、あ、は、はいです」
とユキも目を覚まし、「こ、ここは」とあたりを見た。
相変わらずの曇天で薄暗く、砂塵が薄く周りを舞っていて視界が悪い。ケントさんは見当たらない。
砂塵の中に、大きな影が現れた。
見上げるほどの大蛇が現れると、ウニョりと頭を突き出してくる。
「う、うわあ」
驚くユキもろとも横っ飛びし、なんとか避ける。
ケントさんもいないが、やるしかねえ。
背中に装着していた盾を左手に装備し、構える。
「くるぞユキ、構えろ!」
「は、はいです!」
向こうを向く大蛇の頭に気を向けていると、反対側からその尻尾が俺たちを狙う。盾を構え、その尻尾の叩きつけを受ける。
「ユキ!」
呼びかけると、ユキが短剣を構え、唱える。
『アイス!』
氷の礫が向こうを向いた大蛇の頭を狙う。
大蛇は、その体格に似合わず柔軟に素早く頭を引っ込めると、それを避けた。
カリュさんの言葉を思い出す。
ーーー「もっと自信を持て」
俺のパーティには天才シュナもいる。ユキの魔法も爆発力がある。ポックの毒もある。だけど、敵にできた隙をつけるのは、俺だけの時もあるはずだ。ここというときには、前にでろ!ましてや今はユキしかいない!行け!
片手剣を右手に駆ける。大蛇の引っ込めた頭は、いまだに低い位置にあった。盾を砂の上に投げて足場にする。高く跳びながら、剣を振り上げる。届く。
そのとき、大蛇の頭の向こう、砂塵の中から一人の影が現れた。赤い髪の女だ。細身の剣を素早く突き出してくる。俺は慌てて振り上げた剣を戻し、なんとか受ける。着地し、赤い髪の女と相対する。赤い髪の女が尚も向かってくる。一度、二度となんとか下がりながらその剣を受ける。大蛇は、と目の端で見たが、不思議にも何もしてこない。
女の突きを大きく払い、前に出る。女はその足場の悪い砂の中にあって、さっと大きく後ろに跳んだ。
「今だ!」
俺の声に反応して、ユキが唱える。
『ヴェンディゴ!』
氷の礫がいくつも現れ、女に向かっていく。
『インボルク』
と女は剣を素早く突きながらに唱えた。炎がいくつも発射されると、ユキの氷を最も簡単に相殺する。白い煙が舞うと、さらに視界が悪くなる。
「な」
そばまで女が踏み込んできていた。剣の柄で腹を打たれ、吹っ飛ばされる。痛え。
「カ、カイ!」
ユキが走ってくる。
「まだ、渡せない」
赤い髪の女は、俺たちを見下ろすように言った。
「あ、あなたは」
俺はその赤い髪の女を見上げた。
大蛇のそばに少女がいた。ボロ切れを着た、生気のない少女。昨日の祭りで見たアルゴールだった。
赤い髪の女が、背中を向け言う。
「流星群よ、勇者よ。もっと、力をつけなさい。まだまだ、足りない」
砂塵が強くなる。
赤い髪の女は、アルゴールの少女に「イシスが待ってる。帰ろう、アペプ」と言い、大蛇とともに砂塵の中に消えていった。
「カイ、大丈夫なのですか!?」
「あ、ああ」
お腹にヒールを施す。ずきりと傷んだが、大した傷じゃない。かなり手加減されたようだ。
「どうしましょう」
困り気味にユキは辺りを見渡した。
砂塵は弱くなっていたが、いまだに視界は悪い。闇雲に歩くよりはこの場所にいたほうがいいような気がした。
「しばらく待とう」
やがて砂塵が落ち着くと、遠目に見えたハザンドラの丘の上にある砦に向かって歩き出した。
「大丈夫か、カイ、ユキ!」
ケントさんとなんとか合流し、無事砦に戻った。




