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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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初めての魔法演習 アルテと走ってはヒールを繰り返す

 歴史学、こんなにも眠気を誘う授業はなかなかにない。しかも、先生の喋り方がさらにそれを助長させる。抑揚のない淡々とした喋り方をするのは、ハゲ頭と茶色く変色した前歯が特徴のリプカン先生である。基本無表情。


「、、、である。ルート王国最大の危機の一つでもあるバルサルカルの反乱は王暦520年、現在からちょうど500年前の出来事である。狂戦士とも呼ばれたバルサルカルは、人並みはずれた強大で強靭な身体を持ち、千人力の力があったと言われておる。これを治めたのがかの有名な二人の勇者である。この時初めて勇者ということばが使われた。リールウェインとロンドルフである。二人は親友でもあったが、しかし王暦546年、決裂し、果てに戦いとなる。国を二分するまでに至ったこの戦いは、結局リールウェインとロンドルフによる一対一の戦いで幕を閉じる。その戦った場所をレッドローズといい、そのままレッドローズの戦いと呼ばれる。しかしレッドローズという土地がどこにあるのかは分かっていない。世間では真の勇者を決める戦いであったと言われ、勝ったリールウェインは大いに敬われた。しかしあっけなくもその10年後に暗殺される。犯人はわかっていない。奇しくも、そのほぼ同時期に、いわゆる『モンスター』が発生したと」


 チャイムが抑揚のないリプカン先生のことばを切った。長かった。睡魔には本当に抗えないものである。なんとか耐えて、次の地理学。「またリプカン先生!?」と教室に入って来た先生を見てクラスが騒ぐ中、リプカン先生と同じ頭皮、顔をした男がにかりと笑う。


「わしはリプキンじゃ。流星群もこんなにも大きくなったか」


 とリプキン先生が真っ白な前歯を見せ、微笑んだ。声はリプカン先生より聞きやすく、表情も明るい。いわく、双子らしい。性格は正反対なんだとか。しかしところどころ仕草や雰囲気は似ている。勇者たるものあらゆる地域に出向いてはモンスターを退治せん、と世界の地理を学ぶわけだが、自身の経験も交えての授業はなかなかに面白かった。後でアルトに聞くところによると、双子の魔法使いとして若い頃はぶいぶい言わせていたらしい。


「って、お前、なんでいるんだ!」


 長い長い午前を終え昼飯時、ポックと飯を食っていると、なぜか隣のクラスのリュウドウもいた。


「いいじゃねえかカイ」


 とポックがリュウドウの肩を叩く。


「僕のルームメイトだ、そんなに邪険にしないでいただこう」


 と前の席でアルテと飯を食っていたアルトが、こっちを見て言った。

 無言で俺を見るリュウドウ。


「いや、いいんだよ、いても。でも言っとかないといけないだろ、一度は。ていうか、クラスに馴染めてないのか」


「うむ」


 とご飯をかき込むリュウドウ。昨日俺がつくったやつをタッパーにいれたやつだ。


「うまいな」


 とリュウドウは朴訥と呟いた。

 明日もつくってやるか!


 昨日の午後の演習は、丸々剣技だった。今日は、魔法演習と投擲演習の二構成である。魔法演習は、魔法学の担当でかつ学年主任もしているグラス先生だ。ポックがいない。ふけたか。


「魔力には容量がある。それぞれの魔法には特色があるが、しかし根本を辿れば、その供給源は一緒だ。その魔力量を増やすことは、可能だとされている。今日は、その訓練方法を学ぶ。それぞれの魔法を最小の力で抑えながら、できるだけ長く持続させる」


 と、グラス先生は、地面に手をついた。闘技場の土が、小さく舞う。一定の力で、ずうっと。

数分後、グラス先生は地面から手を離した。


「一定の力を持続させる。これは魔力量を増やす訓練になると同時に、魔力コントロールアップにも繋がる。明日魔法学で魔法適性について取り扱うが、とりあえず今日はクラスを2つにわける。今から名前を呼ばれたものは私のところに。他のものは、ケントのところに」


 俺は名前を呼ばれず、ケントさんのところへ。


「君たちの魔法は、例えば炎を出す、氷らせる、といったものとは違い、少し訓練方法が特殊になってくる。個別に指導していく。まずは、カイくん、アルテさん」


 昨日わかったのだが、クラスでアルトの前の席の女、アルテは、アルトと双子であった。普段はぼーっとしており、どこを見ているかわかない。アルトと違い、あまりしゃべらない。リプカン先生、リプキン先生の双子と違って、顔もめちゃくちゃ似ているわけではない。本当に双子か?


「さて、君たち二人は、いわゆる身体強化魔法だが、そのなかでも聖なる魔力をもつ、いわゆるヒーラーだ。ヒーラーは、他者の傷を癒す、さらには体力の回復、毒、麻痺を治すこともできる。これは、自己にかけることも可能だ。すでにしっているだろうが、ヒールは、他者にかけるよりも、自己にかけるほうが難しい。自己にかける、これを日々つづけるだけでも、容量は伸びるし、魔力コントロールのアップに繋がる。魔力と体力は、明確に分離している。君たちは、自身の魔力を使って、自身の体力回復を行ってほしい」


 さて、課題が出た訳だが、つまり、体を休ませる、ということだ。魔力により、普通に休むよりも回復を促進させる。これが、なんと、結構難しい。し、かなり集中しなければいけないから、俺レベルだと逆に疲れる。


「君たちの、入学テスト時の3000メートル走のタイムがここにある」


 とケントさんがプリントを見て言った。嫌な予感である。


「さあ、走ってくるんだ!一回走って、回復させて、もう一回走る。これを繰り返す」


「ただで?」


 アルテが訊ねた。


「うん」


 とケントさんが笑った。アルテは、がっくりと肩を落とした。いや、そりゃただだろう。

 3000メートルって。一番きつかったりするんだよ。


「よーい、スタート!」


 となぜかハイテンションでケントさんが言った。なんかSっぽいな性格。

 走りにはそこそこ自信があった。まあ一本目は当然というか、アルテに勝った。そんなに差はなかったが。5分後、自身への回復魔法を終え、再び走り出す。今度は、ほぼ互角。そして回復魔法タイムへ。しかし、息があがり、なかなか集中できない。回復しろ、じゃないと持たないぞ。


「次、スタートするよ、二人とも。はい、スタート」


 重い腰を上げ、ケントさんの合図とともに走り出す。そして、ついにアルテに負けた。


「わ、私の、勝ち」


 と上がった息で、アルテが呟いた。ぼーっとしてるのんびり屋さんかと思えば。その後5度のランがあったのだが、結局差は広がる一方だった。向こうの方がヒール能力が上だ。


「ちょっと初日から飛ばし過ぎたかな?ごめんね」


 とケントさんは優しい笑顔で言った。絶対Sだ。この人。


「ぜ、全然、よ、よ、余裕」


 とアルテが答えた。


「お、おれも、余裕、っす」


 負けてられんぜ。


「よし、じゃあ明後日はもう少し増やそう!」


 俺が落ち込むよりも早く、地面にへたり込み、アルテがわかりやすく落ち込んでいた。魔法演習は週3回ある。きついぞこれ。

 自分のことで精一杯であったが、ふと気になり、他の学生を見る。盾を持ったアルトと、長い棒を持ったツインのお団子頭の女の子が、並んでいた。アルトの持っている盾は、普通の形状ではない。でかいし、なんか角張っている。


「あ、あれは、アルトの特殊武器」


 俺の視線に気づいたのか、アルテが言った。

 聞いたことがある。武器に魔力を注ぎ、変化させたり強化させたりする魔法があると。二人はそうなのか。

 グラス先生が、手を焼いている生徒がいた。銀髪の髪をロールアップにし、相変わらずの満面の笑みを浮かべるユキだ。


「よし、やってみろ、ユキ」


「グラス先生、わかったのです!やってみるのです!」


 とユキが元気よく返事をするが、転がった石に魔法をかけるも、なにも起こらず。


「ムツキ、ムツキがすればいいのです!」


 とユキがムツキを見た。

 ムツキは苦笑いを浮かべ、「ぼ、僕がしても意味がないよ」と言った。

 グラス先生が、言う。


「ユキ、お前には力がある。しかしそれを無駄に使ってはダメだ。魔力に意志を込めろ。意志を持って、コントロールするんだ」


「うーん、難しいのです」


「魔法を最小の力に抑える。これは意外と難しい。指先に小さく魔力を集めるイメージをしてみろ」


「うーん、あ」


 とユキの指先からこぶし大の氷が現れた。


「まずはそのくらいからでいい。理想は、そうだな。何か物体があったほうがいいか。小石に薄く氷が張るぐらい、最小に抑えられるよう練習しろ。なんども言うが、魔力に意志を込めるんだ」


「はいなのです!」


 とユキは元気良く返事をした。

 さっきからユキがグラス先生を独占していたからか、そばにいたムツキは、はははと周りを気にしながら、苦笑いを浮かべている。

 にしてもユキ、剣もいまいちだったが、魔力コントロールも苦手なようである。よくここに入れたな、と思わんでもない。

 チャイムが鳴った。次は投擲演習である。魔法で自身の回復を行おうとしたが、そもそも魔力も限界に近かった。


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