外伝 霊廟地下墓室にて
『メメント・モリ』当日。王宮の奥に小さな森があった。森を抜けると、地下へと続く幅の広い石の階段が見えた。王族の霊廟地下墓室へと繋がっている。街の喧騒もやや遠く、連なって歩く兵士たちの足音が大きく聞こえる。地下階段の前で止まる。これより先の地下へは、カロス王、シーノ、ディオール、ベルタ、イサーク、そしてそれらの護衛として選ばれたサラ、ヨークの7名のみが下りていく。護衛に選ばれたサラとヨークに関しては軍隊長たちの推薦があった。若く有望な兵士がこの役目をすることが慣わしになっていた。
今日のカロス王はいつにも増して壮健立派であり、やはり吹っ切れた部分が彼を映えある王にしていた。まだ王位委譲の件はディオール、ベルタ以外知らされていないが、最後にしてその役目を果たさんとしていた。そのカロス王が、厳粛な空気の中、地下墓室への階段に一歩踏み出す。そしてさらに一歩。後ろからディオール他5名が続く。地下は、その広い階段よりもさらに広い空間になっている。階段の終わりが見えた。日の光は薄くなり、先んじて点けられていた明かりが奥の広場を照らしている。その時、ぶわりと殺気がディオールの、ベルタの背中を刺した。すぐさま二人は振り返った。一拍遅れて、サラとヨークも振り返る。
地上で兵士の声が上がった。そして斬撃の余波が、地下階段の石を削る。この斬撃はーーーとディオールが地上へ戻ろうとしたその時、大きな影が階段の向こうの地上を覆った。
「避けろ!」
ベルタが叫んだ。
ディオールはすぐさま後ろにいるカロス王を抱え、地下広場までおりた。
その大きな影が、階上から石の階段を、壁を壊しながら突進してくる。
「ぐはっ」
シーノを庇ったヨークが、その半身にダメージを負う。シーノも壁に打ち付けられる。
「ヨーク!」
サラがヨークを庇うように立つ。イサークもそちらへ向かう。
ディオールとベルタは、王を守るように立ちながら、地下広場の中央よりその対象を冷静に見た。
赤い瘴気が漂う、巨大なトカゲのような生き物。ギロリとディオールとベルタを睨んでいる。
「海ねっぽう。いや、ねっぽう?」
ベルタが訊ねた。
「デカすぎる。が、そうらしい」
ディオールは剣を抜き、冷静に言葉を紡ぐ。
「サラ、シーノとヨークの容体は?」
「二人とも気を失ってるけど、息はしている」
「カロス王、奥へできるだけ離れて。サラ、カロス王の護衛を。イサーク、シーノとヨークを端に連れて行ってくれ」
二人がディールの指示に動き出す。
「私は?」
「ベルタ、お前は上に行け。キリオスがいる。足止めだけでいい」
「多分原種だよ。一人でいけるの?」
「心配か?」
「いいえ」
とベルタは走り出した。赤い瘴気を帯びた巨大なねっぽう。海ねっぽうと違い、両手両足が短いながらもある。地上を通せんぼするようにいる。向かってくるベルタに、その体を瞬時に寄せる。足にめきりと力がこもると、その巨体からは考えられないほど素早い動きを見せる。
「ベリサマ!」
ディオールの炎がねっぽうの頭にぶつかると、視界の一瞬くらんだそれは足を止めた。その隙にベルタは地上へと上がっていった。
「ディオール」
後ろで、サラに守られるようにいるカロス王が心配そうに言った。
「王、大丈夫です。少しあつくなるかもしれませんが」
ディオールは中盾を左に持ち、ねっぽうを見た。薄暗い地下に、ねっぽうの体から出る赤い瘴気が不気味にあった。




