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俺は勇者じゃない。  作者: joblessman
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外伝プリランテ ディオール

 プリランテはカロス6世が君主ではあるが、実際は3大執行役が大きく取り仕切っている。軍長のディオール、大魔法士官のベルタ、内政長のシーノである。制限君主制のような形は取っているものの、それでも君主の意向も色濃く反映されている。10日に一度行われる定例会議には王は参加しない。3大執行役とさらに幾人かの幹部たちが参加している。


「ダマスケナへの偵察船派遣、いまだに決議が降りない。早急に派遣すべきだ」


 ベルタは落ちつていながらも、少しとげのある言い方で言った。つんと伸びた高い鼻、少し釣り上がった切長の目。若い頃は国一番の美女と言われた。ディオールと同じ世代で、プリランテにこの人ありと言われた魔法の使い手である。論舌は鋭く、歯に衣着せぬ言いっぷりとともに皆に恐れられてもいる。


「元来ダマスケナとは交流がない。今更向かわせる必要もないじゃろう。費用の無駄じゃ」


 内政長のシーノがやや嫌味ったらしく答えた。頬の痩せた小柄な老人で、若い頃は100年に一人の神童と呼ばれ、今でも内政のトップに居座っている。先王とは喧嘩したり認め合ったりとそれでも内政を一番に考える政治に先王は共感し協力体制にあったが、現王に変わってからは、何かと頼りない、王の器ではない、と現王カロス6世への否定的な発言が多い。


「ディオールの話を忘れたか。ダマスケナはモンスターに蹂躙されたかもしんれないんだぞ!チンタラしていてはプリランテも二の舞だ!」


 とベルタの声が大きくなる。


「海を越えてなにができる。ディオールの話を聞いて海からの取り締まりは強化したじゃろう。それで十分じゃ。ただでさえ南にモンスター出現が増えたから軍備を増やしとる。それにリーフからの派遣団もかなりの費用になったんじゃぞ。大体リーフを信用しとるのか?昔には砂漠を越えてこちらまで手を伸ばす動きも」


「いつの話をしてるんだ、シーノ!リーフとのいざこざはもう何百年も前の話だろう!ハマナスとの交流も途絶え、ダマスケナの現状もわからない。今プリランテは孤立状態なんだぞ、この老ぼれ!」


「なんだと小娘が!お前とディオールの戦果こそもう10年以上前のものじゃぞ!お前らがその座に座っているのも烏滸がましいものじゃ!」


「それはこっちのセリフだ!」


 ベルタとシーノの言い合いが続く。いつものことであるが、今日はいつもより激しい。ディオールがとりあえず場を収めようと口を開こうとした時、


「二人とも落ち着いてください。」


 と男が言った。若手筆頭のイサークである。金髪をオールバックにしており、縁のないメガネをしている。涼やかな笑みを浮かべ、さらに続ける。


「ディオールさんの話では敵の人型モンスターは人を操るのでしょう。安易に船団を派遣すれば操られて帰ってくるかもしれない。スパイが紛れ込むことになる。あくまで慎重に実行しなくては。それに、やはり今は南の脅威の方が大きい。ガルイーガだけでなく、ペンダクルス、リピッドデッドなどの目撃情報も出ている。そちらへの対応を急ぐべきでは」


 今度はシーノがディオールを見て訊ねる。


「ディオール、モンスター対策はどうなっておる。軍の育成を掲げとったじゃろう」


「ええ、若い兵は特に伸びています。モンスターという今まで未知であった脅威への恐怖感も消え、経験も積むことができている。ただ、やはり南に現れるモンスターの数が最近増えすぎている」


「船団派遣の話は先送りじゃ。まずは南の対処だ。海側はさらに見張りを強化、それでいいな」


 シーノの言葉に、誰も反対を言わなかった。

 いくつかの議題をこなし、会議が終わる。

 部屋を出ると、ベルタがディオールに小声で話しかけてくる。


「海側が静かすぎる。絶対に何かある」


「わかっている。ただ南の動きもおかしい。どちらも対処しないといけないだろう。動きが明らかな南から、となるのは仕方がない。お前が会議で言っていた通り、プリランテは孤立状態だ」


「そして北には死の砂漠か。防衛費を増やしたいところだけど、シーノが許さないだろうさ」


「シーノはイサークに一目置いている。イサークは頭も切れるし、今のプリランテの状況も理解しているだろう。イサークにも防衛費を増やす件は相談してみよう」


「あいつはボルトゥ派だよ」


 ボルトゥ、つまり先王の息子である。ディオールとベルタは現王カロス6世、つまり先王の弟派閥であり、二人とイサークは反対派閥ということになる。


「この際関係ない。国の危機だ」


 ディオールの言葉に、ベルタは首をトントンと小さく叩き


「やれやれ、昔はただ戦ってたらいいだけだったのにね」


 と言った。


「俺たちが老いても、死んでも、国は残る。国は、残らなければいけない」


「わかってるわよ。はあああ。落ち着いたらおごんなさいよ」


 ベルタの言葉に、ディオールは初めてぎくりと言葉を止める。


「何よ、いやだっていうの!」


「まあ、落ち着いたら、な」


 ディオールは足早に去った。ベルタとは、付き合って別れてを何度か繰り返した。ベルタは付き合うと底なしに自己中でいつもディオールが消耗するだけして別れるのだが、しかしお酒が入ると手籠にされてしまう怖さがあるので避けている。愛した方が負けというか、愛した女があんな女だったことが不幸だったというか。とにかく、プライベートで深く関わるとろくなことはない。同僚としてはいい奴なんだが、とやはり足早に家路に着いた。

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