EpisodeⅤ 深愛
第２王宮、地下牢獄。
牢獄に閉じ込められている１人の男がいる。
鮮明な血にまみれた肉体。
両手足首に枷をつけられた男は足を大きく開き、ぐったりとした様子で眠っている。
（リア…。ロア…）
――ガッシャン。
金属をこすりつける音をたてながら牢の扉が開く。
「ありゃ、随分と酷くやられたもんだねぇ。ホーク」
ホークは俯いたまま辛うじて目を開いた。
「５英傑３席か……」
ホークは微かな声でそう言うと口から勢いよく血を吐き出した。
ホークの目の前に立つアダマスとその隣に立つ金髪の女。
「これじゃ、男前も台無しだねぇ」
そう言った矢先、アダマスが片手の平を前に出すと……
――ガッジャン。
アダマスの能力によってホークの両手足首の枷が一瞬にして破壊された。
「恩にきります」
ホークは膝に手をつきボロボロの体で立ち上がろうとする。
（もう体も動けやしないのに。……行くんだねぇ）
「ほら、治療してやるねぇ」
「はい」
アダマスの隣に立つ金髪の女性が返事をした。
「五英傑２席ホーク様、この治療はあくまでも一時的な延命です。いつ命に……」
「いいから早くしてくれ。頼む」
ホークの真剣な眼差し。
その眼光の強さに金髪の女は言葉を詰まらせ、額からは汗を流した。
「わかりました」
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ホークのいた牢獄に残る２人。
「いい男を失うのは辛いねぇ」
「そうですね」
金髪の女性は床に落ちる血の滲んだ羽を持ち上げそっと返事をした。
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第２王宮１階入口から出てくる白髪の男。
入口前の広場には複数の天帝兵が小銃を持ち、待ち構えている。
白髪の男に向けられる複数の小銃。
立ちはだかる者を許すまいと殺気に満ち溢れたアップルグリーンの瞳と身体から漏れだすオーラ。
天帝兵たちは猛獣に襲われるかのような威圧に圧倒され、引き金を引く手を一瞬止めた。
――その瞬間。
地から一匹の大鷹が空高く舞い飛んだ。
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王都から飛び去る大鷹。
「無駄な足掻きを……」
第2王カデナが王宮の窓から鷹を見て言葉を吐いた。
そして、ニヤも大橋の上でその鷹を黙って見つめた。
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――オンネトロア王国 城下――
火の海となる城下ではオンネトロア王国兵と天帝兵が激しく交戦している。
逃げ惑う人々の悲鳴。
紫棺から数本の槍を放ちながら王国兵と交戦する５英傑５席のオカマが口を開く。
「なかなかこの国の兵たちはやるわね～♡でもほんとうに残念だわ、こんなにも強くてイケメンちゃんたちを捕らえなきゃいけないなんて♡」
「ぐだぐだ言ってないで早く拘束しろ」
金棒を振る四天王の1人が王国兵を倒しながら言葉を吐いた。
「あら、乱暴な物言いは嫌いよ」
オカマは倒れた王国兵を回収するように紫棺に納め続ける。
――ブッシュ！
漆黒の剣によって斬られた王国兵が四天王の1人とオカマの目の前で血を吹き出す。
漆黒の剣を持ち黙って立つ男。
「もうあんた殺しちゃだめよ。カデナ様に言われてるでしょ」
「そうだ。たとえ逆らう者がいたとしても捕らえろ。これは天帝国に対する反逆罪なのだからな」
「そうそう。ただの反・逆・罪♡私たちはこの土地の鉱石調査をしにきたところをオンネトロア国王の命令で襲われた（って名目なんだから♡）」
「まぁ、多少の死人は仕方ないがな」
「もう嫌よ～。棺に死人をたくさん隠すのわ。あと子供は絶対に殺しちゃダメだからね」
「そうだな。この国の子供たちは被験体になってもらう必要があるからな」
「ふふ♡あんたそれ以上の口外は禁止よ」
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オンネトロア王国の上空を空高く飛ぶ大鷹。
５英傑５席のオカマが目を少し大きく開き、驚いた様子で空を見上げた。
「あら、ホークちゃん。もう動けなかったはずなんだけど……」
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――オンネトロア王国の外れ：ロア湖沿岸の花畑付近――
目を吊り上げ口を歪ませる狡猾な表情をした1人の男が背後に５人の天帝兵を連れ歩いている。
「さっきの町は手ごたえねぇ～な。でも孤児がたくさんいたから手柄は大きいのでよしとしよう」
「へへっ。さぁ、あとは五英傑２席の子供だな」
オンネトロア王国外れのロア湖近くの上空を高く飛ぶ大鷹。
狡猾な顔をした男は大鷹にふと気づくと空を見上げ……
「家族を助けにでもきたのかぁ？へへっ。まぁ嫁の方はもう手遅れだがな」
片口角をクイッと上げながら不敵にも目を細めた。
（へへっ。手負いの五英傑など怖くも何ともないわ。へへへっ。いや～それより親子もろ共ありがたいねぇ。全ての手柄はオレのもんになるんだからなぁ～）
狡猾な顔をした男の甲高くも不気味に笑う声は湖一帯に波紋となって広がるようにあたりへと響いた。
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――オンネトロア王国の外れ：ロア湖へと抜ける林道――
ホークが林道に着陸する。
林道に染み広がる血痕の数々。
人の姿に戻ったホークは額から汗を流し、焦りを背筋に走らせながら血の跡を追うように林道を駆ける。
（お願いだ。無事でいてくれ）
林道の途中で血痕が目の前から消える。
（リア…）
すぐさまホークは木の幹についた血に染まる手形に視線を移し……
（ロア…）
そして、林道の脇へと一心に足を動かした。
――ザザザザザザ。ザッ！！
密集する葉をかき分けながら林を抜けると少し開けた場所が現れる。
と同時に衣服を夕日のように赤く染めた一人の女性が倒れていた。
「セシリア！！」
目を見開くホークは一心不乱にセシリアに駆け寄る。
衣服に染まる複数の深い血だまり。
ホークはセシリアの上体をそっと両手で持ち上げ……
セシリアは青白く力なき表情で少しだけ笑みをこぼし、ホークの顔を見た。
喉につかえるように震えたセシリアの声。
「ホーク。ごめんね」
ホークの右頬に触れるセシリアの細くしなやかな２本の指。
「リア。謝らないでくれ、謝らないといけないのはオレの方だ」
ホークはそう言いながら何度もセシリアの頬へと涙のしずくを落とす。
「ううん。ホークは何もわるくない」
「リア……すまない」
咳とともにセシリアの口元から垂れ流れる血。
「お願い。最後の約束。ロアを……」
「リア、でも君が」
薄く微笑むセシリア。
「大好きだよ。ホーク」
セシリアは安心して眠るようにすっと瞳を閉じた。
ホークは黙って瞼に涙を滲ませ……
セシリアを強く強く抱きしめた。
「リア……」
そして唇を強く噛みしめるホークは眉間にしわを寄せ立ち上がる。
