EpisodeⅢ 約束
第２王宮内、第２王室。
王室の中心に立つ、第２王カデナ。
「第２王！約束と違うじゃないですか！」
第２王カデナは勢いよく部屋に入る、焦った様子のホークへ横目で視線を移した。
「なんの話だ」
「アビリティリングの製造と鉱石の採取のことです！私の故郷に手を出さない代わりに私は自身の国を捨て、こうやってあなたの元で働いている。それがあなたとの約束だったじゃないか！」
「あぁ。そうだったな。オンネトロア王国の王子よ。だがもう私の元で働く理由はなくなった。……これからは、お前の故郷と鉱石は全て私のものとなる」
「つまり、全ては用済みってわけか……」
下に視線を落とし、ホークは拳にギュッと力を込めた。
「あぁ、賢明な見解だ。残念だが、そうなるな。これからはお前以上に大きな戦力が手に入る。今までごくろうだった」
「わかった……。ならオレは今からお前たちを敵とみなし抹殺する必要がある」
そう言いながらホークはカデナを鷹のように鋭い目で睨みつける。
「約束を破った罪を報いるがいい、カデナァ！！」
その言葉とともにホークが素早くカデナに拳を振るう。
――しかし、次の瞬間。
カデナの一言によってホークの拳が急停止する。
「セシリア、ロア……」
ホークの皮膚全体に浮き出る鎖模様。
微動だにできないホークの身体。
「きさまぁああ！！！！！」
カデナは叫ぶホークの声に1ミリたりとも動じず、冷静沈着な様子で口を開いた。
「『シーズ・ハート』……。この私の自然能力は知っているな？だから、お前はこの私を殺せはしない。お前は最初から弱みを握られた時点で私の支配下にあるのだからな」
カデナはホークに背中を向ける。
「さぁ、お前も故郷も全て終わりだ」
「ハァアアアアアア」
叫びとともに少しずつ動きだすホークの両腕。
（民衆を数万人以上操れるこの能力でも貴様は縛りきれないか……）
「化け物め……」
「あら、ホークちゃん。本気出さないと殺られるわよ」
ホークの背後から聞こえる中性的な声。
ケツ顎で坊主の男が赤く唇を染めながら第２王室のドアにもたれかかっている。
（五英傑５席か……）
「紫棺♡」
――と、その言葉を発した瞬間。
ホークの足元に暗い紫色の円が出現する。
その円の中からは人よりも一回り大きな紫色の棺がゆっくりと姿を現し、
蓋と桶に左右に分かれるとホークの全身を捕らえるように、両サイドから迫り寄った。
――ガッシャン。
ホークを収納する紫棺がギギギギギィと音をたてる。
ホークはやっとのことで動かすことのできた両腕で迫る紫棺を閉じないように押し返す。
「やっぱり、天帝国最強と言われるだけあるわねホークちゃん。わたし興奮の上の興奮しちゃうわ♡」
と、その言葉を聞く暇も見せずホークは自身の足を鷹のように変化させると……
一気にその鋭く尖った黒い爪をカデナへと向けて振るった。
――カキンッ。
部屋中に響き渡る金属音。
カデナの前で漆黒の剣が３本の黒い鷹の爪を受け止める。
刃の中心に金色の縦模様が入った剣を持つ男が立ちはだかる。
「次から、次へと……」
と、その言葉を吐くやホークはすぐさま背後の何かに反応するように目を大きく見開いた。
「遅いっ」
――と、その言葉がホークの耳に入った瞬間。
ホークの背後に現れる金棒がホークの背中を凄まじい勢いで突き抜けた。
――ド――ンッ。
「グハッ！！」
時間が止まるかのようにホークの吐いた血が宙へ舞う。
（気配が追いつかなかった……。四天王の1人も一枚噛んでいるのか）
ホークは全身に衝撃を受けると全身から力が一瞬にして抜け落ちるように首をガクリと下へと向けた。
が、しかし反射的に紫棺と漆黒の剣に込める手足の力は緩めず、すぐさま空いた片足の大きな鋭い爪で地を力強く踏ん張り返した。
「なにっ」
ホークの背後で金棒を持つ四天王の１人が驚いた様子で言葉を吐く。
「ハァアアアアアア」
ホークは叫びながら、自身の両腕に力を強くこめると大きく広げた腕を巨大な鷹の翼へと変化させ……
そして……、いとも簡単に紫棺と漆黒の剣を一気に跳ね飛ばした。
カデナ以外の３人は（５英傑５席のオカマ、漆黒の剣を持つ男、金棒を持った四天王の1人）は一歩後ろに退避すると、あとずさりしながら額より汗を流した。
５英傑５席のオカマが口を開く。
「ホークちゃん。かなり、お怒りのようね」
――と、その瞬間。
ホークは体からアップルグリーンのオーラを放散し……
その巨大な翼を目にも入らぬ速さで一気に回転させた。
――ドガァアアアアアアン。
轟音とともに第２王室を包むように起る凄まじい威力の竜巻。
一瞬にしてその竜巻により粉々に消え失せる第２王宮最上階にある王室の壁と天井。
カデナ以外の３人は王室を中心に３方向に吹き飛ばされると、各々街の壁や家に衝突した。
第２王室に残るカデナと全身巨大な鷹へと変化したホーク。
２人は目と目を合わせる。
「ホークよ。周りを見てみろ」
ホークは吹き抜けた第２王宮から辺りを見渡す。
と、そこにはホークとカデナのいる最上階を囲むように、地には大量の第２王宮管轄の天帝兵たちが配置されていた。
その中に１人紛れるフードを被った天帝兵、ロカ。
カデナが目を見開くホークを見て落ち着いた様子で口を開いた。
「今からこの兵たちをお前の故郷『オンネトロア王国』へと送り込む」
（オレはリアをロアをそして故郷を守らなければならない……）
ホークの全身に再び強く浮かび上がる鎖模様。
（そのためにオレは今まで第２王の下で働いてきたんだ……）
「もう逃れられない運命なのだ。ホークよ」
ホークの全身へと増え続ける鎖模様。
「セシリアとロアの居場所もわかっている」
（オレは……約束したんだ）
リアとロアを思えば思うほど焼きつくように強く浮かぶ鎖模様。
「その体の模様……。助けたい、守りたいという思いが強いほどお前の弱みとなり拘束し続ける……」
（オレが、オレが止めねぇと……）
（動け、動け、うごけぇ）
「もう動けはしないだろ」
ホークの全身が死んだようにピタリと止まった。
（お願いだ……動いて、くれ……）
そうして、鷹の瞳からは１滴の涙がゆっくりとこぼれ落ちた。
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ホークの脳裏に思い浮かぶセシリアと赤ちゃんロアの笑顔。
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「さぁ、ホーク。命令だ。オレを死ぬまで守れ」
――と、その瞬間。
第２王宮の下から誰かの合図が聞こえる。
「撃てぇえええ！！！」
――ババババババッ。
度重なる銃声音。
第２王宮の頂点にいるカデナを包み込む大きな大鷹へと発砲される銃弾と槍の雨。
大鷹の体から吹き出す血飛沫。
「やめぇ！」
静まり返る第２王宮付近一帯。
大鷹に視線を移す天帝兵たち。
大鷹は翼をゆっくりと広げると懐にいるカデナから２歩、３歩とゆらゆらと離れるように下がり……
そして次の瞬間、王室の床淵に足をすべらせ地に向かい落ちる。
――と、誰しもが思った瞬間。
王室床に鋭く大きな黒い爪で踏ん張り……
カデナへ黒い３本の爪を振るうホークがいたのだ。
すべての思いをのせて……。
――ブォオオン。
勢いよく風を裂く音。
「カデナ様！」
と誰かが地上から叫ぶ――。
――ブッシュ！！
宙に舞う血飛沫。
大鷹の体を大きく切り裂いた漆黒の剣を持つ者が主王宮大橋に着地する。
そして続けて、体制を崩し揺れる大鷹の胴に向け、四天王の一人が追い打ちをかけるように金棒をフルスイングした。
――ドォオオン！
地に落ちゆく大鷹。
――ドサァアア。
地に込める煙。
大鷹を天帝兵が一斉に囲む。
動揺を隠せない表情で少年ロカは倒れる大鷹を見た。
風の吹き抜ける第２王室よりカデナは見下ろす。
「ホークよ。人間は準備したやつの方が強いのさ。安らかに眠るがいい。オンネトロア王国の哀れな王子よ」
バサッと王の身に着けるマントを広げるとカデナは頂上から姿を消した。
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人間の姿に戻り地に無残に倒れたままのホーク。
「ほら、あなたたちどけなさい」
天帝兵をかき分け現れる五英傑５席のオカマ男。
オカマ男はホークをしばらく見つめ……
「最強も愛に散る。悪くない終わり方ね。美しかったわよ」
ホークの首にある動脈に２本の指を添える。
「さぁ、行きましょ。ホークちゃん…………紫棺」
そうして、たちまちホークの身体は紫棺の中へとおさめられた。
