三人の長田
「よう、奇遇だな。お前もオサダなのか」
「……は? お前オサダなのか?」
「ん、そうだよ。どういう意味だ? お前も長田だろ?」
「俺はナガタだ」
「……は?」
-§-
「お前ナガタってなんだよ。永田があるだろうがよ、なんで国会議事堂の同音異字にしてんだ。便乗商法か?」
「便乗じゃねぇよ。お前こそオサダってなんなんだよ。オサって。キラキラネームかよイキってんじゃねぇぞ」
「キラキラしてねぇよてめぇ。長万部先生に謝れコラ」
「すんませんでしたオシャマンベ先生! だがオサダ、テメーは駄目だ」
「オサは普通に由緒正しい読み方だろうが。村の長とか言うだろ」
「それこそ村長でいいだろうが! なんで村長なんて読ませなきゃいけないんだよ! 不合理だろうが!」
「不合理じゃねーよ訓読みだよ! どこもおかしくねーよ!」
「それにひきかえナガタはいいよなぁ、スタンダードでストレートな読み方! 誰だってナガタは混乱しねぇよ。小学生にもやさしい」
「長田のほうのナガタは全ッ然スタンダードじゃねーから! オサダのほうがメジャーだね! お前長田って書いてあったらまずオサダって読むだろ!」
「読まねぇー! 超読まねぇー! ナガタだからな! 普通にナガタだから!」
「分かったわ、お前が変なだけだわ!」
「お前の方がよっぽど変だからな!」
-§-
「なにを下らないことで言い争いしてるんだ」
「「こいつが長田の読み方を間違えるんだよ」」
「ああ……読み方間違えられる苦しみは俺も分かるぞ。俺も長田だからな」
「マジで? 多すぎだろここ。お前はどっち読みなんだ?」
「長田? それとも長田?」
「いや。俺は長田だ」
「「……は?」」
-§-
「いやチョウダはねーわ」
「ねーってなんだよ、ねーって。俺だよ、俺がチョウダだよ!」
「いや……悪い、やっぱねぇわ。チョウダってなんだよ。野球かよ」
「長打じゃない!」
「じゃあ行列のできるラーメン屋だ」
「長蛇でもない!」
「だいたいお前、長田はおかしいだろ。音読みなのか訓読みなのか、はっきりしろよ」
「あれだろ? 重箱読みだろ? 夜露死苦みたいなもんか?」
「お前ら……さっきまで言い争いしてたのに……」
「いや、だって……なぁ?」
「俺たちはまだ分かるけど……チョウダは、なあ?」
「なんだそのアイコンタクト! 確かに珍しいかもしれないけど、おかしくはねーから!」
「「お、おう……せやな」」
「リアクションンンンン!!」
-§-
「いろいろ話したけど、ひとつだけ分かったことがある」
「なんだよ長田」
「俺たち気が合うってことだ!」
「あ、それ俺も思ったわ。よろしくな」
「よろしく!」
「やれやれ……くだらない言い争いをした気分だけど、まあいいか。よろしくな」
「いやチョウダは」「ちょっと読みづらいわ」
「お前らいい加減にしろ! もう君らとはやっとられんわ!」
「「「どうも! ありがとうございましたー!」」」