少年と鎧の魔人 前編
第七魔王戦役の爪跡は深い。
大陸中原においてこれといって深いダメージがなかったのはセネス公国くらいのもので、クラトス、ピピン、レイドラの各王国は軒並み王家が廃滅。
ベルマーダ王国はのちに「奇跡の王都決戦」と呼ばれる大逆転勝利の結果、かろうじて国家としての体を失わなかったものの、国土の半分近くに魔王軍の暴虐の傷痕が残された。
また、レヴァリア王国及びアスラゲイト帝国は比較的限定された範囲の混乱で済んだものの、両国の間で暴れた超巨大ドラゴンの騎乗者が第三皇子ベルグレプスであった事実は、何年も先まで政治的なしこりを残すことになり、何より大国であるアスラゲイト側がもてあましたそれをレヴァリア側が仕留めたという事実は、魔王戦役の「勝利者」という当国の栄誉とあいまって、アスラゲイト側の語気を大きく落とす結果になっている。
そして、王家を失った中小三か国以上に深い混乱の中にあるのは、他ならぬ決戦の地、ロムガルド。
王の血を継ぐアルフレッド王子が生存したとはいえ、王都より南の貴族勢力は軒並み殲滅されている。一度体制が崩れてしまえば、ならず者たちの跳梁を止めるものは何もない。
かつての覇権主義による弊害で国内外に反体制勢力が多いのもまずいことで、世の乱れをむしろ煽り、半壊状態のロムガルドを完全にこの世から消し去ってしまおうとさえしている。
安定支配をむしろ渇望している中小三か国よりも酷いのはそのせいで、半ば内乱状態と言ってもいい。王となったばかりのアルフレッドには荷が重く、戦役を生き抜いた兵士たちと勇者隊、そしてセネスより客将として派遣された黄金騎士ライリーらの尽力をもってなんとか体裁を保っているのだった。
◇◇◇
少年は薄暗い森の中で目を覚ました。
「う……」
自分がどうして横たわっていたのか、思い出せない。
分厚く空を遮る枝葉越しの曇り空を薄目で睨みながら、何故自分がこんな場所に寝ているのか思い出そうとする。
……そうだ。
野盗だ。街道を歩いていたら急に現れた大人たちに襲われたのだ。
「あ……いつ……ら……!」
瞬間的に怒りが沸騰し、身を起こす。
そして自分が身に付けていた粗末な革鎧がなく、なんとも頼りない細い上半身に何も着ていないことに気付く。
「お、俺の鎧は……っ!?」
ぱちんぱちんと裸の胸や脇腹を叩く。裸に見える幻覚ではないかと思ったのだが、やはり裸だった。
奪われた? あの野盗たちの仕業か?
いや。
そもそも、自分は大勢の大人たちに棍棒で完膚なきまでにタコ殴りにされ、立ち上がる力も失って気絶したはずだった。
状況を考えれば、むしろあのまま死んでいる方が自然なくらいだ。
もう一度、体をぱちんぱちんと叩いてみる。
痛くない。ちっとも。
「なんで……?」
呟くと、それまで一瞬も気にしていなかった視界の端にあったものが突然動き、声を発した。
「革鎧は既に役に立つとは判断できない状態だったため、破棄した。替えの服は調達しようと思えば可能だが」
「ひぃっ……だ、誰だ!」
「……我が名はロド。お前を救助した」
鎧武者。
薄闇の中だったため、木か岩か、とにかく動かない何かだと思っていたものが、動いたことで急に存在感を得た。
顔までも面頬で隠し、全身を一分の隙もなく金属鎧で覆った男は、その割に足音以外の金属音を全く鳴らさず、数歩歩いて少年の前に立ち、見下ろした。
「治癒魔術はあまり得手ではない。不調があればかけ直す。確認しろ」
「……え、えっと……おっさん、パリエスの神官なの……か?」
「……今一度言う。自身の肉体を確認しろ」
「あ、うん」
少年は手をついて立ち上がり、手足を振って確認する。どこにも痛みはない。
「全然平気だ。ありがとう」
「そうか。……次に、服の問題だが」
「あ、あるの?」
「嫌悪感がなければ好きに選べ」
ロドと名乗った鎧武者は指差す。
数ヤード離れたところに、数人の野盗の死体が転がっていた。
「ひっ!?」
「死者の衣服は嫌がる者が多いと聞く。しかし、我にお前に与えられる衣服はない」
「こ、殺した……のか?」
「何の理由もなき攻撃に対し、反撃をしない理由はない」
「…………」
「戦闘終了に伴って周辺を確認したところ、お前を発見した。瀕死だったため、この襲撃者たちの同類ではないと判断し、救助した」
妙な喋り方をする武者だが、とにかく野盗が束になっても物ともしない強さと、治癒魔術の心得があるというのはわかった。
そして。
「……あ、あの」
「何だ」
「……弟子にしてくれ、おっさん!」
少年はひれ伏して頼み込んだ。
◇◇◇
少年の名はマイケル。13歳になったばかり。
現在は孤児だ。
半年前までは、ごく普通の農家の長男だった。
だが、父はロムガルド兵として徴用されて帰らず、母は家を女手一つで守ろうとしたものの、あっさりと病に倒れて帰らぬ人となってしまった。
親戚の家を頼ろうとしたが、今は国ごと大変な時代だ。父方の祖父母、母方の祖父母、叔父の家を訪ね、どこからもやんわりと「お前を食わせる余裕はない」と言われたところで、マイケルは大人の温情にすがって生きることを諦めた。
僅かな有り金をはたいて手に入れた中古の傭兵装備を纏って旅立ち、かねてから憧れていた剣士の道を進もうと思ったのだ。
本来、農民が家を放棄して別の道を進もうなどというのはそう許されることではない。跡取りであればなおのことだ。
耕地も家屋も、一度捨てればそう簡単に手に入るものではない。
だが、それも統治する支配者が健在ならば、の話。
マイケルのいた地方の領主は魔王戦役後の混乱に乗じて襲われ、殺されてしまった。今はどこでもそうで、やったのは魔王軍の残党なのか、あるいは革命家なのかも判然としない。
まさかロムガルドがここまでガタガタになるとは思っていなかった貴族は多く、戦役前から身辺に充分な防備を置いていたものは多くなかった。泥縄で兵を揃えたものは、その新参兵の中に革命家が混ざっていたために殺されてしまう事例が、両手の指を超えるほどにあった。
今こそ国を覆してやろうという革命家たちの意気は高く、そのため地方の小作人は税を免れることはできたものの、今度は革命家たちや魔王軍残党による略奪に悩まされることになった。革命家たちとて志だけでは動けないのだ。
事ここに及んで、強引ではあっても強かった王家のありがたみを庶民たちは知り、その再来を待望している。
そんな時代にあって、大人の両親もおらず、何の味方もない農家の耕地や資産など、一人で守れるものではない。ならば一人で身を立てる道を進もう、と少年が考えたのも、あながち間違いでもないといえた。
しかし子供がいっぱしの恰好をして歩いたところで、仕事なんて舞い込むはずもなく、かといって実績を作るあてもない。せめて高名な剣術家でも見つけて腕を磨こうと旅を始めたら、一週間でこのざまだ。
頼みの武具も使い物にならなくなった今、マイケルには目の前の強者にすがる以外の道はないのだった。
◇◇◇
「…………」
ロドはマイケルを見つめてしばらく微動だにしなかった。
面頬の隙間に目でも見えるかと思って凝視したが、目にあたる部分は不気味な光が見えるだけで生身という確証は持てない。今更ながらにマイケルは、この全身鎧の怪人がまともな存在なのかと疑念を抱いてしまう。
魔王戦役直後の今、どんなものが世間を歩いていても不思議ではない。魔王の作った得体のしれない魔物である可能性もなくはないのだ。
……というマイケルの疑念は、当たらずとも遠からずではあった。人ではなく「作られた怪物」であるという点においては、少なくともロドは議論を俟たない。
「……何を習得したいのだ。見たところお前には魔術の適性は存在しない。三年適切な訓練をしても簡単な明かりを発生させるのがせいぜいだろう」
「え、俺って魔法の才能あるの? 三年頑張ればできるの?」
「平均値から誤差の範囲だ。適切な訓練を重ねれば80%の人間はその程度は可能だ」
「そ、そうなのか……って、見ただけでよくそんなのわかるな」
「我にはその能力がある」
「……そ、そういうのも憧れるけど……」
マイケルは魔法使いになるという夢が唐突に降ってわいたことに誘惑されつつも、ロドになおも頼み込む。
「俺に剣術を教えてくれ! 俺、剣士になりたい……あんなクソみたいな悪人に簡単にボコボコにされるんじゃ、今のロムガルドじゃ何もできない……もっと強くなりたい!」
「……剣術か」
ロドは首を360度回転させた。マイケルは見間違いかと思った。
「我は性能において一般的人間を圧倒するため、剣については大した技術を持ち合わせない。かつて一般的に普及していた訓練課程なら知っているが」
「……せ、性能?」
「剣術とは武装において対等の条件の戦闘にのみ力を発揮する技術だ。遠距離武器には無力であり、槍などの長物には圧倒的不利。何より、人間の身体能力における行動しか想定され得ない。例えば真上や真下から襲い掛かる相手を迎撃する技術は大抵の剣術に存在しないし、剣が刺さらない相手との戦いも考えられていない。我にはそういう意味では剣術は無用だ」
「……よ、よくわからないけど、鎧なら鎧の隙間に刺したりする技術とかってあるんじゃ?」
「我には無意味だ。魔剣でもない限りは我に有効な攻撃足りえん」
ロドはそう言いつつも、少年に手を差し出した。
「しかし、門外漢の知識でよいのならば教えることは可能だ。見たところ全く本格的な訓練はしていないように見える。お前を一流にするのはおそらく無理だが、一人前にはできるだろう」
「……え、えっと……?」
「求めに応じよう。名を名乗れ、子供よ」
「……ま、マイケル」
「ママイケル。了解した」
「い、いやいやいや違うって。マイケルだよマイケル!」
こうして。
少年は、知らずに魔族に弟子入りすることになった。
◇◇◇
ロドは魔族である。
正確には、魔族というのが旧文明によって提案された「次世代人類種」という括りならば、ロドは該当しない。それと戦うために作られた二次的な存在だからだ。
旧文明時代……人間、エルフ、ドワーフ、獣人などに次ぐ新種族を創造しようという試みは、誰が始めたものなのかはともかく、一度始まったからには止められない流れになっていた。
より強く、賢く、頼もしいものに、繁殖と繁栄の資格を授ける。新たな異種族として選ばれるのは一種きり。
それ以上は、いかに旧文明の力といえども制御しきれないと彼らは自覚していた。
そして彼らを選定する擬似生存戦争は、数十年の時間の果てに変質する。
彼らの勝敗に国家の利害や個々の研究者の名誉、さらには賭博や宗教的意義など、多くの意味が付与された結果、彼らの活動の意味が、当初の「新種族としての席を得る」ことに留まらなくなっていたのだ。
そのうち、次世代人類種に対して次世代人類種をぶつける以外の対抗手段がないことに当時の人類は不安を覚える。
現在より魔術も武器製造も高い技術があったとはいえ、当時の人類は自らが野蛮な戦いをしなくなって久しく、広く共有される戦闘技術は遊戯の範囲を越えるものではなくなっていた。
次世代人類種と直接対峙して生き残れるものなど、いなかった。
だから、人間が装着して彼らに対抗できる「鎧」を作ったのだ。それこそがロドである。
ゆえに、ロドは魔族という括りにあって異端の存在だ。
基礎設計は当時の他の魔導生命体と同じくマナボディと実体が絶えず相互補完をしている情報構造と、マナを相転移させて大半の活動エネルギーを賄うエネルギー系統を持つ。ただ、有機パーツは存在せず、もちろん生殖はハナから考慮されていない。
食欲、睡眠欲、性欲という心理が存在しないため、人間の心理を完全に理解することは期待されていない。
もちろん、彼が新しい異種族として人類の末席に並ぶことは有り得ない。
その使命は人の身を覆い、次世代人類種の暴走から守ること。人の最後の味方として、高すぎる能力を持つ次世代人類種と対決すること。
しかし、その使命は製造から数年後に起きた「邪神降臨事件」によって儚く断ち切られる。
ロドは「邪神」と戦い、敗北した。
いや、戦いになどならなかった。鎧袖一触にして戦闘力を奪われ、彼の中にいた当時の人類の勇士は悲鳴を上げることもできずに絶命した。
それからロドが再起動するまでには二十年を要した。
損傷が激しかったのと、「邪神」の残した異常なマナを修復エネルギーとして活用できず、それらの痕跡が自然の風化によって薄れるのを待たなければならなかったためだ。
とっくに骨となった装着者を旧文明の儀礼で丁重に葬り、それからロドはアスラゲイト辺境の氷原で、命令を失ったまま百年ほど何もせずに佇んでいた。
最後に知覚した状況は絶望的だった。旧文明のあらゆる戦闘手段を総動員しても、あの「邪神」を葬ることはほぼ不可能という結論しかなかった。
ロドはたまたま装着者の死によって見逃されたが、もはや人類文明は完全に崩壊しているだろうと思われた。
ロドは生きるために食事も燃料も必要ない。ただただ永遠のみが残された。
そう考え、ずっと氷原に立ち尽くしていた。
そんなロドのもとに百年後に訪れたのが長頭の男、デフォードだった。
「ほう。ほうほうほう。これは懐かしい……ダルベルクの鎧型魔導生命か!」
「…………」
自分を創造した都市国家の名を百二十年ぶりに聞き、ロドの凍っていた思考がゆっくりと動き出した。
「見たところは完品だが。まだ動くのか? ……ダルベルクの技術は広報資料しか読んだことがないからの。動かぬでも大いに技術遺産として有用であろうが。……しかしこの大きさの鎧、持ち運ぶのも手間よな。眷属を連れて来ねばならんか」
「……誰だ」
「おお」
ロドの百二十年ぶりの発声に、長頭の男はエメラルド色の瞳を輝かせて破顔した。
「生きておるのか! これは素晴らしい!」
「……貴様は、何だ。見たところ魔導生命体の特徴がある」
「然り。ビルデニストのデフォード……と言えば、名前のデータくらいはあるか」
「……照合。知力特化型の次世代人類種か」
「ああ、それよ。しかし次世代人類種か。これまた懐かしい呼び名よ」
デフォードは長茄子状の頭に滑稽に乗ったカバー状の帽子をくるくると回して、その上に積もった雪を落とす。
「もはや儚く遠き夢。……それでよかったのやもしれんな」
「……意味が理解できない。……いや、もっと重大な疑問がある」
「ふむ」
「『ディザスター』は、どうなった。なぜ貴様は生存している」
「……そうか。その時代から独りか」
未だ「邪神」という名の定着していなかったそれの話題に、デフォードは小さく微笑んで首を振る。
「奴ならば死んだよ」
「……理解できない。あれに勝つ手段は、どの国にも存在しないはずだ。……神の奇跡でも起きたというのか」
「そうとも」
デフォードは即答した。
「神の奇跡。まさにそれよ。……ああ、人類は……世界は、かろうじて永らえた」
「……理解できない」
ロドは繰り返した。
デフォードは長い手を振ってロドを誘い、背を向けて歩き出す。
「誰も理解はしておらんよ。だからこそ神の奇跡と呼ぶのだ」
◇◇◇
「なあ師匠。本当にこれで強くなるの?」
「……理論的にはそのはずだ。マイケル、お前には基礎的な運動能力が欠けている。それを伸ばすための訓練だ」
「もっとこう……死ぬほど剣を素振りさせられたりするのかと思ってたけど」
「関節周辺の筋肉が貧弱な状態で闇雲に剣を振っても無用な故障をするだけだ。そのための筋肉を素振りでつけさせるという技術論も存在するが、非合理的だ。長期の故障リスクを我は看過しない」
「な、なんかよくわからないけど……師匠がちゃんと考えてるなら頑張るよ」
マイケルはロドに指導され、森の中での修行生活を始めていた。
とても厳しいものを覚悟していたら、多少きついけれどこんなものかと思うような訓練を1、2日置きに繰り返す日々。
それ以外は小屋を作ったり食べ物を加工したりしてのんびりと過ごしている。
街に行かないのは、ロド曰く「無用の面倒を避けるため」だった。
確かにロドは怪しすぎるし、マイケルは無一文だ。街に行ってもあまりいい思いはできないだろうし、何より食う事に関してはロドに任せておけば野山で何も問題なかった。マイケルが少し目を離している隙に、野獣やモンスターを含め、あらゆるものを食材として調達してしまうのだ。
弓も槍も手にしているところを見ない。だが、ロドが魔術に関しても一流であることはマイケルも理解している。
どんな手段で狩りをしているのかなんて、些細な問題でしかない。ロドならば不可能なことなどありはしないのだ。
ただし、この鎧の怪人が全く食事をしているように見えないのだけは不思議だった。
「師匠も食えばいいのに」
「我には不要だ」
「兜取りたくないのはなんとなくわかるけどさ。病気しちゃうぜ」
「不要だ」
ロドが素顔を見せるつもりがないというのは、数日も一緒にいればマイケルにも理解できた。
一瞬たりとも、鎧の一部とて脱いだのを見たことがない。
だが、それは何か事情があるのだと勝手に合点していた。
ロドは見たこともないほどの万能の達人だ。それだけは間違いない。ならば、その身に秘密の一つや二つは当然ある。あった方がかっこいい。
もはや信仰に近いほどまでにロドに対して憧れを抱いたマイケル少年は、そんな風に勝手に理解し、その秘密に配慮することもいつしか自らに課していた。
予想では顔に大きな傷があるか、あるいは呪いで脱げないか。
どちらにしても何かドラマチックな前日譚があるのだろうと勝手に想像している。
そして、ロドは誤解をなんとなく察しながらも放置した。
人間は愚かで、一から十まで懇切丁寧に説明しても、理解できるものはほとんどいない。
解かなくていい誤解というものもある。少なくともロドが「魔族」であるということをマイケルに教えることが、何かのプラスになるとは思えなかった。
◇◇◇
森での修行は、あっという間に三ヶ月を数える。
ロドはある日、急にマイケルに剣を渡した。
ロムガルドならどこででも手に入る既製品の剣だが、今までの生活でどこに隠していたのか全くわからなかった。
「えっ……つ、ついに剣の稽古に入るの?」
「充分に筋肉はついた。剣を振るのに支障はないはずだ」
「あ……そういえば」
森での妙にのんびりした生活で気づいていなかったが、マイケルの体は明らかに出会った時よりも一回り大きくなっていた。
成長期だということもあるだろうが、ロドの課した鍛錬が思った以上に適切だった証だ。それに、下手に街中で生活するよりも滋養がたっぷりと摂れる食生活をしていたのも急成長に拍車をかけていた。
もうヒョロヒョロの子供とは誰も言わないだろう。
少なくとも、自信の持てる腕の太さと胸板の厚さがマイケルには手に入っていた。
「ではマイケル。最初の課題だ」
ロドは自分の左胸の装甲をつついた。
「我のこの部分が人体における急所だ。剣を本気で突き刺せ」
「……えっ? ふ、振り方とか技とかそういうのは?」
「どうやれば届くか、自ら考えろ。必要性を認識しない言われた通りの稽古、目的を定めない反復行動に我は意味を見出さない。一度ごとに成功に向けた強い意志を持ち、試行錯誤をせよ」
「え、えええ……」
「我は棍棒を使う。……お前が敗れた野盗と同じだ。彼らに勝てるようになりたいのだろう」
ロドは目を光らせた。
「我は知っているぞ。何の剣法も知らずとも、この世の何もかもを斬り捨てた男を」