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チリリン―。
ドアベルが、涼やかな音色を鳴らして、新しいお客様が来たことを知らせる。
カウンターでグラスを磨いていたオーナーが顔を上げると、後ろでひとつに結んでいた天然パーマの黒髪が雑に揺れた。
客は、三人組の女子高生達だった。
このカフェの近くに高校がある。そこの生徒が学校帰りによく寄っている。彼女達もそこの生徒のようだ。
「いらっしゃいませっ。」
ウェイターの黒髪の青年が、まだ子供のような屈託のない笑顔で出迎えた。
テーブル席へと案内すると、楽しそうにメニュー表を見ながら、それぞれ好きなジュースとサンドウィッチを注文した。
「ねぇ、ねぇっ。さっきのウェイター、可愛くなかったっ?」
「思った!私達とタメくらいじゃない?」
「えー、私はもっと大人っぽいのがタイプだな~。」
ウェイターが去ると、女子高生達は待ってましたとばかりにお喋りを始める。
美味しいと評判のここのサンドウィッチを食べるのが楽しみだとか、恋の話や大嫌いな勉強の話。話しに夢中になっている間に、注文した品はいつの間にか揃っていた。
「ねぇ。このお店に、王子様が通ってるって知ってる?」
茶色に染まった髪を丁寧に巻いた子が勿体ぶったような顔をして言った。
途端に、他の二人が瞳を輝かせる。“王子様”という言葉は、いつのときも女の子を楽しい気持ちにさせるらしい。
「なになに、それ?」
「聞いたことないよ。」
前のめりに聞いてくる友人達に、巻き髪の女の子が得意げな顔で、このカフェに通っているという王子様の話を始めた。といっても、時々、王子様みたいに素敵な男の人がこのカフェに来る、というだけのことだ。
だが、女子高生達は、楽しそうに黄色い声を上げる。
「会ってみたいねっ。」
「うんっ。会ってみたいなぁ。」
女子高生達は、頬を高揚させて、まだ見ぬ王子様に夢を馳せる。
「おれはもう二度と会いたくねぇなぁ…。」
天然パーマがチャームポイントのオーナーのため息は、彼女達には届かない。
黒髪のウェイターが、ニシシと楽しそうに笑った。