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空を飛んじゃいました

 ブルーメの体がふわりとし浮遊感に包まれた。

 

(凄い…羽の風圧を全然感じない)

 今、ブルーメはタツオの首に股がっているだけである。

 いつも練習で乗っているドラゴンならば、吹き飛ばされない様手綱に必死でしがみ着いていただろう。

 当然、練習用のドラゴンであるから気性の大人しい者が選ばれていた。

 しかし、ドラゴンの感覚すれば、特別にひよっ子を乗せてやっているだけなのである。

 当然、そこには人間に対する配慮は一切ない。


「姉ちゃん、寒くない?高度が上がれば寒くなるから教えてね」


「大丈夫よ。タツオは魔法障壁は張れるの?」

 ブルーメは、このドラゴンが弟タツオなのだと改めて実感していた。

 候補生を何も言わずに上空に連れて行きわざと風邪をひかせるドラゴンもいるのだ。

 こんな風に人間臭い気遣いをしてくれるドラゴンは聞いた事もない。


「馬鹿にしないでよ。僕はその辺のドラゴンとは違うの。風圧だけじゃなく魔法も雷雨も遮れるんだから」

 ヴァルキリーはドラゴンの首や背に乗る事が殆んどである。

 当然、スピードが上がれば風圧が掛かるし、雷雨にも晒されてしまう。

 それを防ぐのが魔法障壁なのだが、殆んどの場合はヴァルキリーが自ら展開して己の身を守る。


「流石は私の自慢の弟。それじゃ王都ヴァルに向けて出発!!」

 タツオの頭には手が届かないので、ブルーメは首を優しく撫でた。

 普通のドラゴンであれば、馬鹿にするなと怒るに違いない。 

 しかし、ブルーメが今乗っているのは弟のタツオなのである。


「姉ちゃん、僕は子供じゃないんだから…ニョルズスタッドに寄って良いかな?お兄ちゃんに鉄を届けなきゃいけないから」

 子供じゃないと言いながらもタツオは気持ち良さそうに鼻を鳴らしていた。


「お姉ちゃん、早くヴァールに戻らないと不味いのよ。ここからニョルズスタッドまで半日は掛かるでしょ?ニョルズスタッドから王都に戻るのもくても一日は掛かるし」


「は?ここからニョルズスタッドまでは二時間しか掛からないよ。ニョルズスタッドからヴァールまでなら四時間もあれば着くよ。魔法障壁展開…お姉ちゃん、しっかり掴まってて」

 ブルーメがヴァルキリー候補生となってはや三年。

 練習で何度もドラゴンに乗った彼女であったが、タツオ程の速さは初体験であった。


(こんなに早く飛んでいるのに、風圧を一切感じない。それにこんな高位の障壁は初めて見た…)

 ヴァルキリーが張れる障壁の範囲は広くても精々半径一メートル程度。

 候補生ならば三十センチが関の山で、飛行訓練は酸欠との闘いでもある。

 しかし、タツオの魔法障壁は優に三メートルは越していた。

 しかも常に新鮮な酸素を吸う事が出来ている。


「タツオ、随分と慣れてるね。人を乗せるのが好きなの?」


「馬鹿言わないでよ。僕は簡単に人を乗せるナンパなドラゴンじゃないんだから。そう言えばフロルは元気にしてる?」

 ヴァルキリー候補生は、忙しく実家にも年に一回くらいしか帰れない。

 その為、タツオもフロルと二年は会ってなかった


「元気よ。フロルは綺麗になって王都で人気者なんだから…タツオ、心配なんでしょ」


「な、な、な、何を言ってるの。そう言えば候補生って何人いるの?」

 どもるタツオを見てブルーメは安心していた。


(タツオはドラゴンになってもタツオね。分かりやすいと言うか弄り甲斐があると言うか…最初はショックだったんだけどな)

 あの日、ブルーメはタツオがきちんとお使いが出来るか心配でこっそりと後を着けていた。

 そして弟がドラゴンである事を知った。

 最初はショックを受けたブルーメであったが、彼女にとってタツオは可愛い弟である。

 泣き虫で甘ったれな手の掛かる弟なのだ。


「お姉ちゃんの前の年が三人、お姉ちゃんの年がブルーメも含めて五人、次の年も五人、今年は四人よ」


「随分と増えたんだね」

(ヴァルキリーは神託で決められる。つまりは何かがあるからヴァルキリー候補生も増えたんだ…僕がお姉ちゃんの弟でフロルの幼馴染みとして転生したのも関係してそうだな)


「うん、みんな可愛い娘ばかりよ。知ってた?ヴァルキリーになれば祝福のお陰で綺麗になるし年も取らないんだって。ずっと十代、二十代の若さを保てるのよ」


「へー、凄いね…」

(祝福?いやいやそれは呪いでしょ?ヴァルキリーに固執させる為の企みだって)

 

「でも、ヴァルキリーに相応しくない事をしたら祝福がなくなるんだって。だから強く美しく気高いのがヴァルキリーよ」


(つまり敵に背を向けたり私欲に力を使うと反動で一気に年を取ると。姿も精神も美しくあろうとする若い女の子の気持ちを利用してるんだ)

 

――――――――――――――――


 タツオとブルーメが王都ヴァールの上空に着いたのはロックモールランドを出て六時間後であった。


「お姉ちゃん、どこに降りれば良いの?」


「お城の西側に訓練場あるから、そこに行って。先ずお姉ちゃんが下に合図を送るの。そうしたら合図の狼煙が上がるからゆっくり着地してね。たまにドラゴンの着地に巻き込まれて怪我をする飼育員や候補生もいるんだ」

 姉の指示は的確で分かりやすい、分かりやすい故に不安になる言葉があった。


「飼育員!?いやいや僕は飼われないよ!!行商の仕事もあるんだし」


「あっ、ちゃんと契約を結べば何時でも連絡が取れる様になるから大丈夫。それと名前はどうする?フロルの前でタツオって呼べないし」


「それならビルクーロで良いよ。それがドラゴンとしての名前だから」

 

「分かったわ、それじゃタツオ行くわよっ」


 タツオが訓練場に着地すると黒山の人だかりが出来た。 


「流石はブルーメさん野生のドラゴンを手に入れられたんですね」

「凄い…黒いドラゴンだ!!格好いいね」


「それによく躾けられているのね。大人しく座っていて可愛い」

 タツオは幾人もの少女に囲まれて緊張しているだけなのだが。


「ブルーメさん、御目出度うございます。本当にドラゴンを手に入れたんですね。また、差を着けられちゃいました」

 そんな中、金髪の少女がブルーメの元に駆け寄って来る。


「フロル、ありがとう。でも手に入れられたんじゃなく、偶然仲良くなれたのよ。この子の名前はビルクーロ、よろしくね」


(フロル!?嘘、前より綺麗になってる)

 タツオは大人になった幼馴染みにドキマギしていた。


「良いなー。機会があれば練習させてもらえますか?どうも飛行は苦手なんですよ」


「フロルなら今でも大丈夫よ」


………………


(やっぱり、この子はフロルだ)


「ビーちゃん、お願い。次は右にグワーって行って、そのままバビュンって飛んで」

 タツオはフロルが飛行訓練を苦手としている理由を実感していた。


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