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捕まっちゃいました

 ブルーメ・トキノとフロル・メーヴェがヴァルキリー候補生に選ばれた事でニョルズスタッドはお祭り騒ぎとなっていた。

 ミーズガル王国だけではなくユミールと言う世界おいにヴァルキリーは特別な存在なのである。

 ヴァルキリーが政権の中枢にいる国は珍しくなく、中にはヴァルキリーを長とした母系社会の国も存在した。 

 早い話が彼女の栄達が、そのままニョルズスタッドの繁栄に繋がるのだ。

 そんなお祭り騒ぎの中、神妙な面持ちの家族がいた。

 タツオの家族トキノ家とフロルの両親である。

 彼等の悩みは金であった。

 確かにヴァルキリー候補生は国から厚遇を受けるが、生活費も掛かるし支度金も必要になる。


「さしあたって必要なのは当座の生活費だな」

 タツオの父テツヨシはそう言うと深い溜め息を着いた。

 彼とて自分の娘がヴァルキリー候補生に選ばれたのは誇らしく嬉しい。

 これが他人の娘なら手放しで喜んでいたであろうが、ブルーメは他ならぬ自分の愛娘である。

 ヴァルキリー候補生は食費や寮費は無料であるが、細々とした生活費は家族が負担しなければならない。


「お父さん、王家に挨拶をする時のドレスや行儀作法のレッスンに通わせるお金も必要よ」

 一家の家計を預かるシルビアは、これから掛かる金を計算していく。


「タツオには進学を諦めてもらうか…あれだけ優秀な子だから進学すれば役人はなれるんだけどな」

 トキノ家はまだ良かった。

 タツオの進学資金を取り崩せば準備金は賄えるし、成績優秀なタツオなら就職の心配もいらない。

 メーヴェ家は独立しているとはいえ収入が不安定な漁師である。


「どこかの貴族に金を借りるか…」

 フロルの父ペスカの声はどこか暗かった。


「でも、それでヴァルキリーになれなかったらフロルは…」

 フロルの母ペーシェの目に涙が浮かぶ。


「ああ、貴族の妾にされるだろうな」

 だからと言ってヴァルキリー候補生の話を蹴る事は出来ない。

 そんな事をしたらニョルズスタッドだけでなくミーズガル王国には住めないだろう。

 一方、大人の話に耳を(そばだ)てていたタツオは一人納得していた。


(だからあの鱗は消えなかったんだ!!だよね、ロキ様がそんな都合の良い展開を許してくれる訳ないし。でもロキ様に感謝をしなくちゃ)

 タツオはあの後、もう一枚鱗を剥がしてていた。

 定期的に鱗を売れば、行商に出なくても家にいる事が出来ると考えたのだ。

 そうすると不思議な事に傷だけが残り鱗は消えた。

 あの鱗はロキ神の思し召し。

 タツオの仕える神はなんともひねくれた優しさを持つ神様であった。


――――――――――――――


 幸いな事にタツオの鱗は高値で売れブルーメとフロルの準備金に充てる事が出来た。

 余った金で行商の準備も整える事ができ、今日はタツオの行商デビューの日である。 


「タツオっ!!起きなさい!!早く行かないと良い魚は売れちゃうんだからねっ」

 ブルーメはそう言うとタツオの布団を一気に剥がした。

 

「ね、姉ちゃん…お、起きるよ」

 タツオが外に目をやると、外はまだ暗い。

 どうみても魚市場は開いてない時間である。

 

「もう少ししたらお姉ちゃんは王都に行っちゃうんだよ。明日からは一人で起きる事、良いわね」

 

「うん、分かった。頑張って売ってくるよ」

 哀しいかな、古代竜ビルクーロも姉には逆らえないのだ。


「うん、えらい、えらい。台所にお弁当を置いておいたから忘れちゃ駄目よ」


「お姉ちゃんありがとう」

 お弁当があると言う事は、姉はもっと前から起きて自分の為に仕度をしてくれていたのだから。


(お姉ちゃんはヴァルキリーとしての人生を歩いていくんだ。僕も行商を頑張らなきゃ)

 タツオは台所の弁当を持つと暗がりに消えて行った。


――――――――――――――


 それから三年後、タツオは十四才になっていた。

 どんな遠い町にも新鮮な魚を届けれるので、タツオの行商を待っている人は少なくない。


「タツオ、今回はどこに行くんだ?」

 タツオが行商の準備をしていると兄のシュミットが話し掛けてきた。


「今回はロックモールランドに行くけど買ってくる物はある?」

 ロックモールランドは鉱山町で、タツオの得意先でもある。


「それなら鉄を買って来てもらえるか?」


「分かったよ。そう言えば姉ちゃんとフロルはドラゴンを見つけれたかな?」

 ブルーメとフロルもヴァルキリー候補生としては優秀らしいが、二人ともドラゴンを手に入れていない。


「まだらしいな。相性とかもあるみたいだし、まだ時間もある大丈夫だろ」


「そうだね、行って来ます」

 タツオはシュミットに別れを告げると足早に家を後にした。


――――――――――――――


 ロックモールランドには、その名の通り岩場が多くある。

 その岩場の一つで黒い竜が四肢を広げてだらしなく寝そべっていた。


「あー、気持ち良いー。癒されるわー、一仕事の終えた後の鱗干しは最高だね」

 黒い竜はタツオである。

 彼はロックモールランドで魚を売った後は、こうして岩場で日光浴をするのを楽しみにしていた。 

 心地よさについうとうとするタツオ。


「タツオ!!起きなさいっ!!」


「姉ちゃん?起きてるよ…寝てないよ…なんだ、夢か。もう一眠りしよ」

 姉のブルーメなら遠く離れた王都にいるのだから。


「あら?夢じゃなくてよ。タツオ、貴方お姉ちゃんのドラゴンになりなさい。約束したわよね。お姉ちゃんに協力するって」

 タツオは目を擦る、更に目を擦ると確かに姉のブルーメがいた。


「弟?我は竜ぞ。猿人の娘よ、眠りを邪魔するではない」


「中級魔族が森で殺された日、お姉ちゃん見たのよね。タツオが黒いドラゴンに変身する所を。それとタツオ、貴方目立ち過ぎ。主のいないドラゴンは討伐対象にされるんだからねっ」

 ブルーメはタツオの正体を知っていたのだ。

 そして彼女はドラゴンを見つけれないのではなく、探していなかっただけである。


「な、何を言う。我は時空を司る古代竜ビルクーロぞ」

 タツオは体を起こしてブルーメを見下ろす。


「タツオッ、嘘をついたら怒るわよ」

 対するブルーメは届かない拳をタツオに向かって振り上げた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。お姉ちゃんごめんなさい」

 条件反射なのかタツオは両手で頭を抑えて頭を縮こまらせる。


「それじゃ手綱を着けるわよ。ヴァルキリーとドラゴンは相性が大切なのよね。その点、お姉ちゃんとタツオならバッチリでしょ」

 こうして黒い竜を駆る銀光のヴァルキリーブルーメが誕生したのだ。


「お姉ちゃん手綱を絞め過ぎっ!!痛いって」


「男の子が情けない事を言わないのっ。さっ、飛んでみてっ」

 黒い竜は翼を軽くはためかせると大空へと旅立った。

次回よりようやく本編となります

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