ヴァルキリーに会っちゃいました
ヴァルキリーの名前を変えました
ヴァルキリーのソニアは焦っていた。
彼女の記憶が確かならニョルズスタッドは比較的マナが薄い地域で、魔族どころか魔物も滅多に現れない筈。
だから彼女は中級魔族が殺された言う報告を誤報と判断したのだ。
つまりは楽な仕事。
しかし、実際に訪れてみると、本当に中級魔族が殺されていたのだ。
しかも、どうみても瞬殺なのである。
(うそ…本当に中級魔族が殺されてる!!マジ、ありえねー。ちょいタンマ…もしかしてこいつをボコった奴がまだ森にいるんじゃね!?マジ、ヤバくね?)
チラリと後ろを見てみると、ニョルズスタッドの民が期待の籠りまくった眼差しで自分を見ている。
前には正体不明の化け物が潜んでいる可能性が高い。
しかし、ここで逃げてはヴァルキリーの面目が丸潰れになってしまう。
(あー、こんなことならのロックモールランドに魔物退治行くんだった…ヤバいけど、上空を適当にパトロールして誤魔化せば良いんじゃね?)
とりあえず、ソニアは自分の愛竜アルルに乗ろうとした。
しかし、何故かアルルは何かに怯えているらしく、ピクリとも動かない。
(ちょ、まじありえないんですけどぉー。なに、あの親父ドラゴン。私の事をやらしい目で見てさー。もしかしてロリなの?キンモ)
同じドラゴンのアルルの目にはタツオが本来の姿で映っているのであった。
人間で言えば中学生や高校生の女の子が厳ついヤ○ザなおじさんにじっと見られた様な感じなのである。
こうしてタツオは何もしないまま、アルルに振られたのだ。
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幸いと言うか当たり前と言うか、調査に向かったソニアは謎の魔物と遭遇する事はなかった。
「安心して下さい。この辺りにはもう魔物はいませんでした」
ソニアは見事なまでに猫の皮を被ったままニョルズスタッドの村長ルドルフに報告をしてみせる。
「ヴァルキリー様、ありがとうございました。これで町人も安心して暮らせます」
ルドルフはそう言うとソニアに向かって深々と頭を下げた。
安全確認をしてくれた礼もあるが、ミーズガル王国においてヴァルキリーの権力は絶対なのである。
「そんな町長やめてください。私はヴァルキリーとしての役目を果たしただけですから」
そう言ってルドルフを制するソニアの元に三つの小さな影が駆け寄って来た。
銀、金、黒の影はソニアに向かって丁寧にお辞儀をしてみせる。
タツオの姉ブルーメと幼馴染みフロル、そしてタツオの三人である。
正確に言うとタツオはブルーメとフロルに付き合わせれているのだが。
「ヴァルキリー様、初めまして。私はブルーメ・トキノと言います。今日はヴァルキリー様に質問をしにきました」
ブルーメはよほど嬉しいのかソニアを満面の笑みで見つめている。
「あの、どうしたらヴァルキリーになれるんでしゅか?…あっフロル・メーヴェ、八才でしゅ」
一方のフロルは緊張の余りガチガチになっている。
ヴァルキリーであるソニアは、今までこの質問を何度もされてきた。
そしてヴァルキリーには、この質問に対するマニュアルが存在する。
「まずお父さん、お母さんの言う事をきちんと聞く事。そして勉強も運動も一生懸命頑張る事。ヴァルキリーのお姉さんと約束してくれるかな?」
何とも曖昧な答えであるが、ソニアもこうしか言い様がないのだ。
何しろヴァルキリーは神託により決められており、その基準は誰にも分からないのである。
「「はいっ、分かりました」」
綺麗にハモって答えにソニアは笑みを浮かべた。
「そしてドラゴンの事を知る事も大切なのよ。ヴァルキリーにとってドラゴンはかけが得ないパートナー。いくらヴァルキリー候補生に選ばれても自分のドラゴンを見つけれないとヴァルキリーにはなれないの」
ちなみに彼女のパートナーであるアルルは諸般の事情により、大空を飛行していた。
「ドラゴンか。ター君、フロルがヴァルキリー候補生に選ばれたらドラゴン探しに協力してくれる?」
タツオはフロルの問いに無言で頷く。
ヴァルキリー候補生は一年に一人でも選ばれたら良い方で、何年も神託が下らない時もある。
「タツオはお姉ちゃんがヴァルキリーになる為に協力してくれるでしょ?」
「うん、良いよ。僕に出来る事ならなんでもするよ」
姉や幼馴染みがヴァルキリーに選ばれる事はないと思ったタツオは快諾してみせた。
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その夜、タツオがRPADを取り出すと、newと言う表示がされていた。
(今日は何もしていない筈だけど)
タツオは不思議に思いながら、RPADをタップしてみる。
「何も言ってないのにドラゴンに振られちゃったよ。面白かったから五百DPをプレゼント」
「へっ?振られた?」
嬉しそうに笑うプチロッキ君に唖然とするタツオであった。