表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/36

竜に戻っちゃいました

 魔族がタツオ達に向かって一歩踏み出した瞬間、彼は今までに感じた事がない程の濃密な魔力を感じた。


「この魔力はなんだ?近くに上位の魔族でもいるのか?」


「魔族?笑わせるな。我を主ら小者と一緒にするな…我は竜だ」

 それは地の底から響いてくる様な低い声。

 その声を出したのは祖母に抱かれている幼い少年であった。

 いつも甲高く女の子みたいな声とからかわれるタツオが低い声で答えたのだ。


「竜?小僧がか?」

 濃密な魔力に恐れをなしていた魔族は虚勢を張る為に敢えて不適な笑みを浮かべる。


「小僧?小童(こわっぱ)が誰に物を言うておる。我は億の年月を生きた竜ぞ」

 タツオは唖然としている祖母の手を振りほどくとニヤリと笑った。

 笑いながら一筋の涙を頬に溢す。

 そして漆黒の靄がタツオを包み込む。

 次の瞬間、現れたのは漆黒の鱗を持つ巨大な竜。


「フム、この体に戻るのも久しぶりだな。小さいが使い勝手は悪くない」


「黒い竜?タツオ?」

 タツオの祖母レーソは余程驚いたのか地べた座り込んでいる。


「年若き猿人の女性よ。詳しい事は後から説明する…だから離れておれ!!だって、お婆ちゃんを巻き込んだらパパに叱られるんだよ」

 タツオにしてみれば目の前の魔族より父親の拳骨の方が怖いのである。


「竜がパパだ?笑わせるな」

 魔族が伸ばした爪を竜の鱗に突き立てる。

 しかし、砕けたのは魔族の爪であった。


「止めておけ。その程度で我の鱗は貫けぬ」


「何故だ!?何故、こんなマナの薄い地に竜がいる?」

 魔族は竜の力に恐れをなし動けずにいる。

 一方の竜も動けずにいた。 


(どうする?爪で切り裂いたら良いのかな?駄目だ!!返り血を浴びたらママに怒られちゃう!!それなら拳で貫いたら…近くに水場がないから手を洗えない…お姉ちゃんに叱られる!?)

 かつての孤高の竜と恐れられたビルクーロも今は鍛冶屋の末っ子トキノ・タツオ。

 タツオが一番恐れているのはロキ神であるが、次に恐れているのは家族に叱られる事だった。


「年若き魔族よ、お主にも家族がいるであろう。それなら悪戯に命を散らすのは止めろ。今なら見逃してやる」

(帰って!!本当に帰って!!パパに寄り道したって思われるじゃん)


 何とも情けない理由であったが、タツオはあらんばかりの迫力を籠めて魔族を睨み付ける。

 しかし、それは逆効果であった。


「ひ、ひぃぃー、お願いですから食べないで下さい!!」

 魔族は悲鳴をあげたかと思うと、手を組んで懇願し始めた。


「小僧、少し黙らぬか…不快だ」

(僕は魔族なんて食べないよ!!…この世界の竜は魔族を食べるのかな!?嘘でしょ?)


「す、すいません!!」

 魔族はとうとう地べたに座り込み泣き出してしまう。


(えー!?君、魔族でしょ?何で泣くの?そうだっ!!尻尾ではね飛ばせば良いんだ!!)

 尻尾ではね飛ばせば、魔族は気絶するし体も汚れない。


「我の言葉が聞けぬと言うのか。もう良い…去れ!!」

 タツオは丸太の様に太い尻尾を魔族に向かって叩きつける。

 グチャリと熟れた柿が地面に叩きつけた様な音がした。

 あまりの威力に魔族は原型を止めない程に潰れてしまったのだ。

 そしてタツオの目に映ったのは青ざめた顔で涙を流している祖母だった。

(あっ…お婆ちゃんが僕を見て怯えている!?もう、家に戻れないや)

 タツオは弱々しく翼をはためかせると、ふらつきながら森へと姿を消した。 


―――――――――――――――――


 レーソは今起きた事が信じられずにいた。

 彼女の末孫タツオは泣き虫で甘えん坊である。

 そのタツオが竜へと姿を変えて魔族を一瞬のうちに殺してしまった。

 質の悪い白昼夢にも思えるが、グチャグチャに潰された魔族の死体が現実だと物語っている。

 そして森に姿を消した竜の後ろ姿は、タツオが叱られた時の背中と似ていた。

 何よりあの竜がタツオの事を知っているのは確かである。

 レーソは自分の頬を叩いて気合いを入れると竜の後を追った。

 黒い竜を見つけるのは案外と簡単であった。

 何故なら竜は巨体で木々を薙ぎ倒して移動していたのだ。

 黒い竜は大木の前で体育座りをして、泣きながら指で木にのの字を書いていた。

 その姿は孫が叱られた時に似ている。


「タツオ?」

 タツオと声を掛けた瞬間、黒い竜の背中がピクリと動く。

 ゆっくりと振り向いた竜の瞳は涙で濡れていた。


「お婆ちゃん、僕が怖くないの?」

 黒い竜の低い声であったが、喋り方はタツオと一緒である。


「まずは何があったか聞かせておくれ」

 タツオは自分が時を司る竜である事、ずっと一匹で暮らしていた事、初めて出来た親友が死んだ事、仕えている神によって転生させられた事を祖母に伝えた。


「にわかには信じられない話だね」

 レーソが深い溜め息をつくと、レーソと黒い竜の間にピンク色の光が出現した。


「まあ、いきなり信じるのは無理ですよね。でもこの竜は貴女のお孫さんなんですよ。何しろ私が彼を細胞に戻して父親の子種と融合させたのですから」

 現れたのはピンク色のスーツを着た紳士。


「ロ、ロキ様。何かご用でしょうか?」

 突然のロキの出現に怯えるタツオ。


「君にこれを渡しに来たんですよ。RPadと言うマジックアイテムです。これを使うと今のドラゴンポイントが直ぐに分かります。しかも使い方はとっても可愛いプチロッキ君が丁寧に説明をしてくれるんです。ちなみに正式名称はロキパッドと言います」

 ロキがタツオに渡しのは薄い長方形の箱。

 何故か梨のロゴが入っていた。

 ボタンを押すとプチロッキ君が開口一番こう告げた。


「服を脱がないで竜に変身すると服がボロボロに破けちゃうから気を付けてね」


「絶対にママに怒られるー」

 その日、黒い竜の悲しげな咆哮が森に響き渡ったと言う。

 そしてタツオは気づいていなかった。

 木陰からこちらを見つめている小さな影がある事を。

感想お待ちしています

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ