ダメ出しされました
挙動不審。今のビルクーロの態度を例えるなら、その一言がピッタリに尽きるだろう。視線はキョロキョロと落ち着きなく動いており、尻尾は絶え間なく動いている。
(す、隙がない。このままじゃ冥界に着いちゃう…今の僕じゃ力負けしちゃうし)
ビルクーロはなんとかして他の古代竜を振り切りたかったのだが、どこにも隙がないのだ。強引に突破しようにも第二形態では弾き返されてお仕舞いだ。
ビルクーロの健闘も虚しく、刻々と冥界の入り口が近付いてくる。そして冥界の入り口が見えた時に、ビルクーロの顔が一瞬にして凍り付いた。
(ちょーっと待て待てお姉ちゃん!!ヘル様達と出迎えってなんですの!?)
そう、冥界の入り口では姉のブルーメだけではなく、ヘル達ロキ四姉妹が手ぐすねをひいては待ち構えていたのだ。
(詰んだ、絶対に詰んだ。ガルムやカロンの爺ちゃんもいるしーあ、あれはラタストック!?)
ビルクーロが尤も恐れたのはヘル達四姉妹でも巨大な犬ガルムでもなかった。小さな小さな栗鼠、ラタストックである。ラタストック、またの名をパパラッチ栗鼠。精霊やヴァルキリー更には神族の噂を拾い集めて全世界に拡散する敏腕ゴシップ記者なのだ。
(不味い!!このままじゃ僕の威厳が木っ端微塵に砕け散る。でも、ヘル様達から逃げたら不敬だと記事で叩かれるんだろうな。…いや、商売で培った対人スキルで乗り切ってみせる)
ビルクーロが唯我独尊を地で行ってたのも今は昔。今は古代竜ビルクーロ兼行商人タツオ・ トキヨシなのだ。
冥界の入り口に着陸した古代竜達は次々に人型に変身していく。ビルクーロもフロルが降りたのを見計らってタツオ・トキヨシの姿に変身する。タツオは変身し終えると同時に、ヘル達の前に跪いた。
「ビルクーロ、無事にフロル・メーヴェとの契約を終えました」
(このまま一気に報告を終えればラタストックに取材されないで済む筈)
「ビル、あれじゃ契約を終えたってより、契約をさせられたって言うんじゃないか?」
溜め息混じりに返答したのはフェンリル。
「えっ!!たっ君、フロルと契約したくなかったの?」
フロルの目にジワリと涙が浮かぶ。同時にタツオの額にもジワリと冷や汗が浮かぶ。序でにブルーメの額にも青筋が浮かんだ。
「誤解だって!!嬉しいよ。フロルと契約出来て凄く嬉しいんだから」
誤解を解こうと必死に訴えるタツオ。
「ビルクーロ、貴方は男でしょ。男ならきちんと女性をリードしなさい。オドオドウジウジ情けないですわよ」
間髪入れずヨルムンガラウドのお説教が鳴り響く。泣いた烏がなんとやら、フロルはワクテカ状態でタツオを見つめている。
「リードと言われましても、経験がないものですから…」
「彼女も経験がないのに一生懸命リードしてるんですよ。断られる恐怖と闘いながら必死に契約を申し込んだですよ」
フロルの気持ちをスレイプニルが代弁する。その姿は友達の味方をする女子そのものだ。フロルはウンウンと頷く。
どんどん追い詰められいくタツオは同性のガルムに助けを求めようと視線を向ける。しかし、ガルムは明後日の方向を見て知らない振りをしていた。ちなみにカロンは口笛を吹いて誤魔化し、ボーデンは狸寝入りで誤魔化された。
(マジッ!!みんな冷た過ぎるよー!!)
「まぁ、約束は約束です。レーソ・ヴァラレの縁故者の魂に迎えに行かせます…でも、ビルクーロ貴方はもう少し大人になりなさい!!お姉さんやお母さんに甘え過ぎです。全く億を越えたドラゴンの癖に情けない」
そしてヘルの雷がタツオに降り注いだ。今や男性陣だけではなく古代竜達も巻き添えを恐れて距離を置いている。
「いや、それはですねー…はい、今後は気を付けます」
いくらタツオが商談スキルを鍛えたとはいえ、相手はビルクーロより年上の女神である。商売の話ならいざ知らず、恋愛の話に関しては敵う筈がなかった。
「よろしい…それとお父様からの伝言です¨ブルーメ・トキノ及びフロル・メーヴェとチームを組みユミールを平和に導いて下さい¨失敗したらラタストックに命じて、貴方の恥ずかしい体験談をまとめた本を出版させますよ。ちなみにグラビア付きを予定してます¨分かった!?」
確かにタツオの力があればユミールを平和に導いくのは容易いだろう。しかし、ブルーメとフロルは人間である。ドラゴンや魔族と戦えば命を散らす危険性があるのだ。
「でも二人を危険に巻き込めたくはありません。戦うなら僕一人でも大丈夫です。ユミールは僕にとって大切な世界なんです」
ヘルの言葉にタツオは毅然とした態度で返す。古代竜が神に逆らえば消滅させられても文句を言えない。
「ええ、私も今の彼女達に荷が重すぎると思います…ですから、彼女達には古代竜の試練を受けてもらいます」
試練に合格すれば、それぞれの古代竜が司る属性の能力を与えられる。ウィンディーアの試練に合格すれば、風の様な素早さと強力な風魔法を使えるのだ。
「あの…もしかして僕も一緒に受けるんですか?」
「いえ、貴方は見守るだけです。彼女達がピンチに陥っても手出しをする事は許しません。まずはユミールに戻り調査を始めなさい」
タツオが側にいたら力を貸してしまい、試練の意味がなくなってしまう。
「分かりました。お姉ちゃん、こんな事に巻き込んでごめん」
「何を言ってるの。ユミールは私が生まれた世界よ。自分で守るのは当たり前でしょ…お姉ちゃんはヴァルキリーなのよ。戦うのが仕事なの…だから気にしないの」
「私はたっ君に守られるだけの女になるのは嫌なの。これからもたっ君と一緒に進みたいから試練に挑むの」
ビルクーロが億を生きても築けなかった絆が、タツオになって十四年で築けたのだ。
「さっ、まずはユミールに戻りなさい。そしてレーソとの時間を大切にしなさい」
ヘルの言葉を聞いた三人はゆっくりとしかし力強く頷いた。




