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変身の仕方が分かっちゃいました

 その男性とタツオが出会ったのは、八歳の夏の日であった。

 茹だるような暑さで、港のカモメもどこか元気がない様に見える。

 何時もは家にタツオ真っ直ぐ帰るタツオが、その日は珍しく寄り道をしていた。 

 タツオは人気のない岩場に着くと、岩に腰を下ろして海を眺め始めた。

 

(不味い、竜に変身する方法が分からない。…もしかして、僕はこのまま猿人として一生を送らなきゃいけないの?)

 ユミールにおいて普通の猿人は最弱て言って良い種族である。

 魔物や魔族はもちろんの事、獣人には身体能力、ドワーフには腕力、エルフには魔力で劣る。

 タツオは同年代の子供に比べて力は強いが、今のままではユミールで生き残るのは難しい。

 それに空を飛べないのは不便だし歩くのは思いの外疲れる。

 皮膚は鉄の剣どころか木の枝で傷ついてしまので不安だ。

 それに次男のタツオは家を継げないので、将来的には冒険者か行商人なって生計をたてる必要がある。


(出来たらニョルズスタッドで、ずっと暮らしたいんだけどな)

 王都ヴァールに行けば何らかの職に就けるだろうが、甘えん坊のタツオはニョルズスタッドから離れたくないのた。


「これはこれはビルクーロじゃないですか?偶然ですね」

 タツオに話し掛けてきたのピンクのスーツを着た紳士。

 紳士は整った顔立ちをしており、揉み上げと繋がっている顎髭が目を引く。

 タツオは紳士を見た瞬間に土下座した。


「ロ、ロキ様。お久しぶりでございます…ネタ、なんか新しいネタはなかったっけ?」

 紳士の名前はロキ、かつてビルクーロの住んでいたオーディヌスやユミールを創り上げた神の一柱である。


「新ネタは大丈夫ですよ、甘えん坊のビルクーロで笑えましたから。今日はタツオ君にお話をしに来たんです」


「み、見ていたんですか?勘弁して下さいよー…それで話はなんでございましょうか?」

 今のタツオはひ弱な猿人である。

 目の前の神の攻撃されたら一溜まりもない。


「竜に変身する方法なんですがね…」「お、教えて下さい。どうすれば竜になれるんですか?」

 無礼と思いつつタツオはロキに食い気味で話し掛ける。


「先ず右手を頭上に掲げ左手を腰にあてます。そしてこう叫ぶんです。時の力よ、我に宿れ!!超絶時空変身ビルクーロ!!」


「こ、こうですか?時の力よ、我に宿れ!!超絶時空変身ビルクーロ」

 しかし、何も起こらずに夏の日差しがタツオに降り注ぐ。


「あの、何も起きないんですけど…」

「そうしたら大恥を掻くので気を付けて下さい」

 夏の暑さも加わりタツオの顔は一気に赤くなった。 


「はい…気を付けます」


「何から勘違いしてませんか?貴方が竜に変身出来る訳ないじゃないですか。だって貴方は元から竜なんですから。でも気を付けて下さい…本体のビルクーロになれば討伐されますよ」

 ビルクーロはユミールで忌み嫌われている黒い竜で体も大きい。

 どれだけ無害だと訴えても人々は恐怖感を持ち討伐対象にされるのは目に見えている。


「そうですよね…討伐対象になりますよね」


「それだけじゃありません。貴方の大切な家族も迫害されます。でも安心して下さい、段階的に元に戻れる様にして上げます」


「段階的ですか?」


「ええ、第一段階は六メートル程度の大きさでブレスも吐けません。第二段階四十メートル程度の大きさでブレスは吐けますが時空の力は使えません。第三段階で元に戻ります」

 ビルクーロの元々の大きさは約百二十メートル。


「段階を上げるには何か条件があるのですか?」


「当然ありますよ。貴方にはドラゴンポイント、DPを貯めてもらいます。ドラゴンポイントは竜に相応しい活躍をすれば貯まっていきますよ。ちなみに第二段階になるには一万DPが必要になります。第三段階では百万DP、ただし第三段階になると二度とタツオには戻れません」

 ロキの話ではドラゴンポイント使うと体の一部を竜化する事もできるそうだ。


「具体的にはどうすれば貯まるんですか?」


「私の気分です。一部竜化については後程連絡しますよ。それでは」

 気付くとロキの姿は消え、遠くから蝉の鳴き声だけが聞こえていた。


――――――――――――――


 タツオは家に帰る道すがらロキの言葉を何度も思い返していた。

 竜になったら討伐対象にされ大切な家族も迫害されてしまう。

 自分が討伐対象にされるのはまだ良い。

 ドラゴン退治に来るとしたら、王国のヴァルキリーであろう。

 いかに王国のヴァルキリーと言え、本物のヴァルキリーとは違い人の子でしかない。

 タツオは容易く返り討ちにする事が出来る。


(誰にもバレないでドラゴンに戻る方法か…無理だよな)

 あれだけドラゴンに変身する手段を探していたタツオだが、いざ厳しい現実を突きつけられると躊躇してしまう。

 岩場を抜け海辺から町に帰って来てもタツオの自問自答は続いていた。

 

(もし、ドラゴンだってばれたらこの町ともお別れなんだよね)

 赤茶色の石畳に靴音を響かせながらタツオは考える。

 永遠とも思える時間を生きてきたタツオだが、ニョルズスタッドで過ごした八年間はそれまで経験した事がない幸福な日々であった。

 寡黙な父の武骨な優しさが好きだった。

 何時でもお帰りなさいと笑顔で迎えくれる母の暖かさに自分の居場所を感じた。

 お菓子や料理は大きい方ををくれる兄の優しさが嬉しい。

 細々と面倒を見てくれる姉にはついつい甘えてしまう。

 しわくちゃな手で頭を撫でてくれる祖母の笑顔が好きだ。

 勝ち気な幼馴染みの笑顔にドキッとする時がある。

 タツオにとってニョルズスタッドの町は大切な宝箱であった。

 大切な人との大切な思い出が沢山詰まった宝箱なのである。

 

(もし僕が本体に戻ったらニョルズスタッドは崩壊しちゃうよね)

 赤い屋根が幾つも並ぶ町並みも、幾艘 の船が停泊している港も自分の巨体には耐えられないだろう。


(ドラゴンに戻るのは諦めよう。疲れても歩けば良い、危ない所には行かなきゃ良いんだ)

 

「ただいまー。ママ何かお手伝いする事ある?」



「タツオ、お帰りなさい。それじゃお婆ちゃんと一緒に隣村に行って来てちょうだい。お婆ちゃん一人だと荷物が重くて大変だから」

 隣村までは途中林道を通るが、タツオの足でも往復一時間もあれば着く。


「分かった。お婆ちゃんの家に行ってくるね」

 きっと帰って来たら母は誉めながらギュッと抱き締めてくれるだろう。

 そう思いながらタツオは家を後にした。


――――――――――――――――


 隣村までの道中は祖母が昔話をしてくれたので楽しく過ごせた。

 しかし、それは林道の半ばまで来た時である。

 突然、道を何かが塞いだのだ。

 紫色の体にはコウモリの様な翼が生頭には禍々しい日本の角がある。


「魔族!?タツオをお逃げ。ここはお婆ちゃんがなんとするから」


「ばばあ笑わせるな。二人揃って食ってやるよ」

 魔族の邪悪な魔力がタツオ達を包み込む。

 祖母は震えながらもタツオを庇うように抱き締めてくれている。


(こんな…こんな小者にお婆ちゃんを食わせるものか。家族を失っても構わない!!我は竜に戻る!!)


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