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追い詰められちゃいました

 平身低頭と言う表現がピッタリである。ビルクーロはムスッとした顔で地に顎をくっつけながら、女性陣の会話に耳を傾けていた。

 最初に口を開いたのは妖艶な女性、漆黒のドレスに身を包んだ美女である。その特徴は半身は抜ける様な白さで、残りの半身は死者の様に青白い。


「始めまして、(わたくし)の名はヘル。この冥界を治める者です。ブルーメさんにはロプトの娘ナグルファルと言った方が分かりやすいでしょうか?」

 ロプトの娘ナグルファルは冥界の女王で死者の爪で作った船を持っていると言われている。役割は死者の裁きで天秤に死者の爪とヘルの髪一本を乗せ、罪の重い物は己の爪を乗せた皿が傾くと言う。


「ナ、ナグルファル様!?」

 ブルーメの背筋がピンッと伸びる。何しろ、ナグルファルは神話のテストに出るくらい有名なのだ。


「そんなに硬くならなくて良いんですわよ。貴女はゲストなんですから。私の姉妹を紹介いたしますね。先ず私の右にいるのが長女のフェンリル…いえ、ヴァナルガンドと言った方が分かりやすいですやよね」

 ヴァナルガンドは商売ロプトを守る巨大な狼だと言われている。しかし、ヘルの右隣にいたのはボーイシュな美少女。髪はウルフカットで健康的な小麦色の肌をしている。


「よっ、俺の名前はフェンリル、ビルの奴が世話になったんだってな。しっかし、良くこの堅物を手懐けたよな」

 フェンリルはそう言うとニカリと笑った。明るく純粋な笑顔である。ただし、口から鋭い牙が覗いており、ビルクーロを震え上がらせた。


「フェンリル姉様、愛です!!家族愛がビルクーロを変えたんたです」

 ポニーテールの少女が興奮気味に捲し立てる。テーブルをダンダンと叩きまくり、お茶を溢した事に気付いていない。


「もう、スレイプは興奮し過ぎ。僕としてはビルクーロの恋人が気になるな」

 緑色の髪をした小柄な少女が不敵に微笑む。少女の尻尾がバシンッと床を叩きつけると、ビルクーロはガタガタと震えだした。恐怖のあまり思わずビルクーロは後退りしようとするが、強大な力で押さえつけられている為かピクリともしない。


「ガルムいい加減に放さんか」

 ビルクーロは自分を押さえつけている者を睨み付ける。それは巨大な犬、第二形態のビルクーロを片足で押さえているのだ。ガルムはビルクーロを鼻で笑うと、ゆっくりと口を開いた。


「相変わらず五月蝿いドラゴンだな。ヨルムガランド様の問いに答えろ。そこの女、この馬鹿ドラゴンを好く物好きな女なぞいるのか?」

 

「この駄犬。普通、そう言う事を本竜の前で聞くか?ぼ、僕にはこ、恋人…じゃないけど、仲の良い女の子はいるんだぞ」

 億に近い年月を生きてきたビルクーロであるが、異性と接した年数は十四年しかない。フロルの押せ押せの態度が幼馴染みとしてのものなのか恋心なのか、自信を持てないのである。


「フロル・メーヴェ、ヴァルキリー候補生の14才。ビルクーロと同じの港町ニョルズスタッドの生まれで漁師の娘。その美しい容姿は王侯貴族の噂にも上がるそうです…ぶっちゃっけ、タツオ・トキヨシとでは釣り合いが取れませんね。詳しい事は資料を見て下さい」

 ゼーレはそう言うとヘル達にフロルの資料を渡していく。


「えっ!?王侯貴族の間で噂。やっぱり僕なんかじゃフロルと釣り合いが取れないんだ…」

 ゼーレの報告を聞いてズドンと落ち込むビルクーロ。その目には涙が浮かんでいる。

 それを目敏く見つけてほくそ笑むロキ四姉妹。資料を見ただけでも、フロル・メーヴェがタツオ・トキヨシを好きな事が分かる。ぶっちゃけ、今のビルクーロはお姉様方の格好の玩具なのだ。


「あら?ビルクーロは王侯貴族にフロルさんを取られても良いのかしら?ヴァルキリー候補生とは言え、フロル・メーヴェは漁師の娘。妾にしかなれないわよ…貴方はそれでも良いの?」

 ビルクーロはヘルの言動に合わせて百面相の様に、次々と表情を変えていく。


「良くないです…良くないけど」


「けど、なんだ?ビル、随分と歯切れが悪いじゃねえか」

 フェンリルの言葉を聞いたビルクーロは深い溜め息を漏らした。


「僕は猿人じゃなくドラコンです。それをフロルに知られて嫌われるのが怖いんです」


「ビルクーロ、二人の間に愛があれば関係ないですよ。先ずは自分の気持ちを伝えなきゃ何も変わりませんよ。彼女に告白しましょう」

 スレイプニルは優しく微笑んでいるが、ビルクーロにしてみれば無責任極まりない言動である。


「スレイプ待って。まずは正体を明かすの先だよ。ビルはフロルが他の雄ドラコンと契約をしても良いの?」


「フロルが他の雄ドラコンと契約…」

 余りのショックにビルクーロは茫然自失となってしまう。


「嫌でしょ?それなら貴方が契約すれば良いの。君の魔力なら二人と契約しても大丈夫だよ」

 ビルクーロはロキ四姉妹の連携プレイに翻弄されまくっていた。


「決まりね。貴方がフロルに正体を明かしたら、シルビアの迎えは彼女の家族にさせるわ」

 

「え!?ええっー!!フロルに嫌われたら僕は立ち直れませんよ」

 しかし、はしゃぎまくる四姉妹を見て諦めるビルクーロであった。


「そのなんだ…雌が全てじゃないぞ。ビルクーロ、頑張れ」


「ガルム、それ慰めになってない。うぅー、黙ってこっちに来たからフロル怒ってるんだろうな」

 

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