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過去がバレちゃいました

 タツオ達がウィンディーアに連れられてやって来たのは、地元で精霊の遊び場と呼ばれている高地であった。

 この高地は雲よりも高い場所にある為、未だ人類未踏の地となっている。

 つまり、タツオ達古代竜が現れてもパニックになる事がないのだ。

 風の古代竜ウィンディーアは着地すると同時に人型へと変身した。現れたのは雪の様に白い髪と透ける様に白い肌を持った少女。


「改めてお久しぶりですね…ビルさん?」

 ウィンディーアが戸惑うのも無理はない、彼女が覚えているビルクーロの人型は漆黒の髪をたなびかせる美形の青年である。

 しかし、現れたのは気弱そうな黒髪の少年。

 共通点は黒い髪位で、思いっきり遠い親戚だと言うわれたならば納得するかも知れない。


「ウィンディーア、何か文句でもあると言うのか?…痛いっ!!お姉ちゃん、なんで叩くの!?」

 ブルーメは、タツオの訴えを華麗にスルーして、タツオの頭を掴んで強引に頭を下げさせた。


「タツオ、きちんと挨拶をしなさい。すいません、普段は大人しい良い子なんですけど」


「あらあら、まあまあ。フランからお話は聞いていおりましたけど、ビルさんは本当にお変わりになられたんですね」

 ウィンディーアは、口に当てながら嬉しそうにクスクスと笑っている。


「フランの奴、余計な事を喋りおって…今のは独り言だって」


「改めてまして。私の名はブルーメ・トキノ、この子の姉です。この子、ご迷惑を掛けていませんか?」

 ウィンディーアが知っているビルクーロなら、この子扱いされただけでも、手が着けられぬ位に大暴れしているだろう。

 しかし、今のビルクーロは、ブルーメを不服そうな目で見ているだけなのだ。


「迷惑ってなんだよ!?僕とウィンディーアは同じ古代竜なんだし、付き合いも殆んどなかったし」


「お姉ちゃんはウィンディーア様に聞いてるの。タツオ、お茶でも飲みながら話をお伺いしたいから何か買って来て」

 

「えっ?僕、こっちの通貨なんて持ってないよ」

 昔のビルクーロなら無理矢理にでも人に献上させていたかも知れない。

 しかし、今の彼は行商人タツオ・トキノである。 きちんとした売買以外では物を手に入れたくはないのである。


「タツオは行商人なんでしょ。持ってきたら何かを売るとか、何かを狩って売ってくれば良いじゃない」


「えー、今回は長居する予定がなかったから何も仕入れてないんだよ。ポーションはルーンランドの方が質が良いし、装備はヘイムランド製の物が出回ってるだろうし…はー、何か魔物を狩ってくるしかないのか。ウィンディーア、最近政情に変化はなかった…ありませんでしたか?」

 ヘイムランドはオーディヌスにあるドワーフの国で、良質の装備品を各国に輸出していた。


「ビルさんがいなくなって十数年しか年月が過ぎてないんですよ。滅びた国も大災害もありませんわ」

 ウィンディーアもまた億の年月を生きた古代竜なのだ、人々の生活に対する関心は薄く、国の滅亡や大災害クラスの騒動でなければ記憶には残らない。


「ウィンディーアに聞いた僕が馬鹿だったよ。自分の眷族の事なら事細かく覚えてる癖に…このまま話をしていても時間が勿体ないや。お姉ちゃん、行ってきます」

 ウィンディーアは自分の眷族を我が子の様に可愛がっているのだ。


「タツオ、水筒とハンカチは持った?ほら、髪がボサボサじゃない」

 ブルーメは口うるさくチェックをしながら、優しい手つきでタツオの髪を撫で付けていく。その目は暖かな家族愛で満ち溢れていた。


「お姉ちゃん、大丈夫だって」

 普段は甘えん坊のタツオであるか、近くに同じ古代竜のウィンディーアがいる為か照れているのだ。


「はい、これで大丈夫よ。いってらっしゃい」


「行ってきます」

 タツオは挨拶を終えるとドラゴンに戻り、飛び立っていった。


「あのウィンディーア様、お伺いした事があるのですが、よろしいでしょうか?」

 普通の人間ならば古代竜ウィンディーアと相対したなら、怯えてしまい会話は出来ないであろう。

 しかし、ブルーメはタツオと契約している事もあり無意味に怯える事はなかった…何よりブルーメがオーディヌスに着いて来た目的はこの質問の為なのである。


「ええ、構いませんよ。随分とビルさんがお世話になった様ですし」

 ウィンディーアは、秘宝の在り処や強力な風の精霊との契約の仕方等の欲にまみれた事を聞かれると思っていた。

 ブルーメはウィンディーアの返答を聞くとホッと溜め息を着き、真顔でこう聞いてきたのだ。


「昔のタツオはどんな子だったんですか?あの子、昔の話を聞いても゛ずっと独りだったから゛寂しそうに笑うだけなんですよ…あの顔を見てると辛いんです」

 返って来たのは、家族の愛と優しさに満ち溢れた問い掛け。それは無償の家族愛と言えよう。

 もし、この場にタツオがいたなら有耶無耶にして終わらせるであろう。だからこそブルーメはタツオに意味もない無茶な事を押し付けて外出させたのだ。


「あらあら、まあまあ…ビルさんは本当に素敵なご家族をお持ちなんですね。いいですよ、でもその為には私達古代竜に着いて話さなければなりません。まず私達古代竜には親も家族もおりません。何故なら私達はロキ様により創られた生き物なんですから」

 古代竜は、創地神ロキがそれぞれのマナを練り上げて創った作品でしかない。

 役割は世界の監視、人と自然のバランスを保つ事だ。無償で人に力を貸す事もあれば、またある時は人を無慈悲に滅ぼす。

 古代竜は畏敬の対象であり、会話をする事はおろか姿を見る事さえ憚られている。

 故に孤独、同じ立場の古代竜同士でも互いに役割がある為、交流は決して多くはない。 


「特に時空を司っているビルさんは特殊な立場にあります。ブルーメさんは時を意識したり感謝する事はありますか?」

 火は温もりと生活の糧を与えてくれる、風は季節を運び新鮮な空気を届けてくれる、地は生き物全てを育み育てる。

生死は生き物に不可欠であり水もまた然り。

 しかし、時は常に誰にでも平等に刻まれる。

 誰かを依怙贔屓する事なく無慈悲なまでに時を刻んでいく。

 誰かといる時間を大切に思う人はいても、時その物に感謝する人は少ない。

 故に時の古代竜は孤独であった…いや、孤独であり続けなれければならなかったのだ。

 何故なら、どんな大切な相手にも平等に無慈悲に時を刻まなければならないのだから。

 ビルクーロは他者との交わりを避け、時の狭間に閉じ籠った。

 それはある種の防衛本能であったのかも知れない。


「タツオ…」

 姉は弟の孤独を想い涙を流した。


「時の狭間に行ってみて下さい…前にビルさんから゛お前のは眷族と家族ごっこだ゛なんて言われましたけど、お二人を見ていたら反論の仕様もありませんね」

 風の古代竜はそう言うと、静かに笑った。

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