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別れを感じちゃいました

 ビルクーロの第二形態の大きさは約40m(尻尾は含まず)。

 シロナガスクジラの体長が約30mで、40mと言えば国内線の飛行機に匹敵する大きさである。

 当然、ニョルズスタッドの中には、そんなスペースはない。

 その為、タツオとブルーメは海岸に来ていた。


「それじゃ、行くよ…第二形態!!」

 漆黒のマナがタツオを包み込む。

 やがて、現れたのは巨大なドラゴン。

 第二形態に変身したタツオは興奮を抑えられずにいた。


(これだ!!これが本来の我なのだ。ブレスを吐けてこそドラゴン。天空の覇者たる我に命令を下せるのはロキ様位であろう)


「タツオ、そんなに大きくなって、どうやって乗れって言うの?」

 体長が大きくなると言うことは、比例して体高も大きくなる。

 今のタツオの体高は寝そべっていても8m近い。


「梯子を掛けるとか…」


「タツオ、元の大きさに戻れる?」

 それは姉からの無情の通告。


「ほら、尻尾から乗れば大丈夫だよ。この姿ならブレスを吐けるんだよ」

 姉からの通告に対して天空の覇者が取ったのは、必死の哀願であった。


「本部に乗り込み台を設置してもらうまで、最初の大きさでいくわよ」


「うー、折角第二形態になれたのに…」

 しかし、タツオの悲劇はこれで終わらなかった。


「ブルーメさん!!タッ君を見ませんでしたか!?」

 怒り心頭といった感じのフロルがズカズカと足音をたてて近づいて来る。


「さ、さあ。怪我が落ち着いたから散歩にも出掛けたんじゃないかしら!?」

 

「いえ、まだ完治していません…帰って来たらお説教なんだから!!」

 フロルはそう言うと、胸の前で拳を打ち鳴らし始めた。

 見た目は可憐な少女であるが、フロルはヴァルキリーの候補生である。

 バシッと小気味いい音が響く度に、天空の覇者は、巨大な身を震わせていた。


(どうする?どうしたらフロルのお説教から逃げれるかな)


「とりあえずタツオを見つけたら教えるわ。貴方もたまには家でゆっくり休みなさい」


「分かりました…絶対に教えて下さいね」

 フロルは絶対零度とも言える視線をぶつけて戻っていった。


「さてと…タツオ、お婆ちゃんの家に行くわよ」


「お婆ちゃんの家?でも早く帰らないとフロルが…」

 巨大なドラゴンとは言え、怖いものは怖いのである。


「私がなんで外出を許したと思う?」


「それは僕の第二形態を見る為でしょ」

 確かに、第二形態となったビルクーロに勝てる生き物は、ほぼ存在しない。


「違うわよ。タツオしっかり聞きなさい…お婆ちゃんは後何週間も持たないわ。そしてお婆ちゃんはタツオに会いたがっている。だから、外出を許したのよ」

 ビルクーロは億の年月を生きてきたドラゴンだ。

 当然、様々な経験をした事がある。

 しかし、古代竜はロキにより創りあげられた存在。

 身内との別れだけは経験した事がない。


「お婆ちゃん、死んじゃうの…?」

 タツオにある記憶が甦ってきた。

 それは初めての親友イ・コージの死。

 言い知れぬ孤独感と身を切り裂く様な哀しみ。

 巨大な黒い竜の瞳から大粒の涙が溢れれ落ちていく。


「お婆ちゃんも、もう年なのよ。時間には誰も逆らえないの…タツオが一番分かっている事でしょ」


「うん、時は誰にも平等に流れ、万物に終わりを与える…どんなに偉い王もどんなに強い勇者も、時の定めからは逃れられない」

 それは時空を司るビルクーロが故に覆し様がない事実。


「だからお婆ちゃんに顔を見せてあげて。私達に出来る事をしてあげよ」

 再びタツオを黒いマナが包み込む。

 現れたのは身内の死に動揺を隠しきれない猿人の少年であった。


――――――――――――――


 久しぶりに訪れた祖母の家は、昔と殆んど変わっていなかった。

 しかし、主の乗らなくなった安楽椅子はもう動く事はないし、子供達の賑やかな声に包まれていた部屋も静寂だけが支配している。

 家の主は愛しい孫達の姿を見つけると、ヨロヨロと力なく体を起こす。


「タツオ、お腹はもう大丈夫なのかい?」

 レーソは己の寿命が尽き掛けているにも関わらずタツオの怪我を心配していた。


「うん、もう傷も塞がったよ」

 タツオも、また祖母レーソに心配を掛けまいと無理矢理微笑む。

 溢れ落ちそうになる涙を無理矢理押し留め微笑んだ。


「お母さん、看病は私が変わるから。家で少し休んできて」

 ブルーメ母親シルビアの看病で疲れているシルビアを労り、看病の交代を申し出る。


「お母さんは大丈夫よ。折角のお休みなんだからブルーメは休んでいなさい」

 しかしシルビアは頑張り過ぎているブルーメはを心配しそれを断る。


「シルビア、私は二人と話がしたいからお前は一度お帰り」

 祖母レーソは家事と看病で、碌に休んでいないシルビアを労る。


―――――――――――――――


 シルビアが出て行くと、名状しがたい静寂が家を包んだ。

 ただ、振り子時計だけが規則的に音を刻んでいる。


「お婆ちゃん、何か食べたい物はない?会いたい人とか」


「食べたい物はないし、タツオに会えたから後は会いたい人はいないよ…他の人は、もう会えない人ばかりだし」


(そうか、だからロキ様はオーディヌスに渡れる様にしてくれたんだ)


「お姉ちゃん、僕、出掛けてくるよ…お婆ちゃんが会いたがっている人達を連れて来るから」

 タツオは唇を噛み締めながら、ブルーメに話し掛けた。


「タツオ、お婆ちゃんが会いたいのは死んだお爺ちゃん達なんだよ」


「うん、だからヘル様にお願いしに行くんだ」

 タツオが目指すのは、ヘルが支配する冥府であった。 

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