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覚悟決めちゃいました

 仄暗い闇の中を一匹の黒いドラゴンが飛んでいる。

 正確には、手の平サイズになったビルクーロが汚物タンクの中を飛んでいるのだ。

 羽を使うと鼻を摘まめない為、ビルクーロはしかめっ面で涙目になっている。 

 元は小山の様な大きさを誇っていたとは言え、今のビルクーロの体長は僅か五センチ位しかない。

 汚物タンクの広さは二メートル程度であるが、目的地に着くのも一苦労である。

 

(あ、あそこだ…あの明かりまで辿り着けば…)

 ビルクーロが意識を朦朧とさせながらも目指しているのは闇を照らす一筋の光。

 ぶっちゃければ便器である。


(ヤバい、鱗に臭いが着いちゃう…下手したら鳥籠どころか放し飼いにされる!!)


 希望のべんきを目指してラストスパートをかけるビルクーロ。


「つ、着いたー…ロ、ロキ様何をなさっておられるんですか?」

 便器から飛び出したビルクーロの目に映ったのはビデオカメラを構えている神様ろき


「泣きながら便器から飛び出して来る古代竜ビルクーロ。中々、シュールな絵が撮れましたよ…ビルクーロ、何であんな猿人の命に従ったんですか?お前らしくもない」

 確かに以前のビルクーロなら、人の願いを一笑に付していたであろう。

 まして汚物タンクの中に飛び込め等と命令された日には、一族どころか国その物を滅ぼしていたかも知れない。


「二つのマナを感じたんです。一つは胸が張り裂けそうになる位の悲憤。そしてもう一つは大切な人を一途に想う乙女心でした」


「ほう、それで?」

 昔のビルクーロは助けて欲しいと泣いてすがる人を嘲笑った事がある。

 ましてや恋心は動物の発情と同じに扱い微塵も関心を示さなかったであろう。


「恋心は姉ブルーメの物でした。恐らくこの屋敷に姉が恋している男がいるんだと思います。私は彼女が悲しむ姿を見たくありません」

 そう言うとビルクーロは悲しげに頭を振った。


「とりあえず、臭いからお前の匂いを消しますね」

 ロキがパチンと指を鳴らすと、白い光がビルクーロ包んだ。


「ロキ様、申し訳ございません」

 ビルクーロは直ぐ様に地面にひれ伏してロキに頭を下げた。

 古代竜が創地神の手を煩わせる等あってはならない事なのである。


「私が臭いと思ったから匂いを消したんですよ。先ずは事の詳細を伝えます。その上でどうするかを決めなさい…事の発端は一週間前。チャラーイ・ドーキュンが武器屋で剣を求めた事に始まます」


「買ったのではなく求めたですか?」

 ビルクーロも今は駆け出しの行商人タツオ・トキノ、支払いに関しては敏感になってしまう。 


「ええ、チャラーイが目をつけたのはミスリルの剣。値段も当然も張ります。しかし、チャラーイは屋敷に取り来れば金を払うと強引に持ち去ったのです」

 貴族の買い物は従者が支払う事が殆んどである。

 何しろ貴族と会うだけでも煩雑な手続きがいるのだ。


「ミスリル製の武具は高いんですよ。泣き寝入りは出来ない値段です」


「ええ、ですから商人は必死に取り立てたらしいです。そしてチャラーイはこう言ったそうです…娘を一人で寄越せば支払ってやると」

 確かに商人には娘がいた…結婚を来月に控えた娘が。

 商人は娘に頼み込んで代金を取りに行ってもらった。


「まさか…」

 商人が見たのは心身共にボロボロになった娘。


「娘の結婚は破棄されたそうです。当然、商人は怒りました。商人が怒ってると聞いたドキューンは連日パーティーを催してエインヘリャルの仲間を屋敷に招待してるそうですよ」

 下手に護衛を募れば自分の罪がばれてしまう。

 しかし、同じエインヘリャルの騎士を呼べば不信に思われないし、護衛にも出来るとチャラーイは考えたのだ。


「でも商人一人では、大勢のエインヘリャルを抑えられないと思いますが」


「商人は爆発を起こすマジックアイテムを体に身に付けてるんですよ…魔力の代わりに生命力で起動するマジックアイテムです」

 客を飽きさせない為に、パーティーには多くの商人が呼ばれエインヘリャルに様々な物を見せているとの事。

 件の商人はそれに乗じて屋敷に忍び込んだそうだ。

 当然、チャラーイは商人を追い出そうとした。

 しかし、商人を傷つければマジックアイテムが爆発してしまう。

 何故ならそのマジックアイテムには屋敷全てを灰塵と化す威力があるのだか。


「分かりました。姉の想い人には罪はないんですね」


「タートブ公爵家の長男ブオの事ですか?彼は真面目な青年ですよ」

 

(ロキ様が真面目な青年て太鼓判を押すなら間違いない。そんな人がいるなら僕がいなくなってもお姉ちゃんは大丈夫だ)

 もしマジックアイテムが爆発してブオが死んだら姉は嘆き悲しむだろう。

 その想いがビルクーロを動かす。


「分かりました。私が、この騒動を納めに行きます」


「覚悟が決まったみたいですね。貴方を猿人の姿に戻れる様にしてあげます。行商人が一人増えても誰も分からないでしょう」

 ロキはそう言うと再び指をパチンと鳴らした。

 現れたのは行商人姿のタツオ。


「ロキ様、ありがとうございます」


「この騒動を鎮めればチビ竜じゃなくしてあげますよ」


―――――――――――――――


 タツオが静かにトイレから出て来た。

 幸い、屋敷の中には人の姿はない。


(商人が屋敷の人を一ヶ所に集めてるんだな…今のうちに動かなきゃ)

 タツオは意識を集中させて人の気配を探る。

 気配が集まっているのは客間であった。

 タツオは、そろりそろりと客間に近付き客間の様子を伺う。


「チャラーイのお坊っちゃま。死んで罪を償って下さい。娘を壊した罪と私の店を潰した罪をね…」

 商人は短剣を持ちながらチャラーイにジリジリと詰め寄って行く。


「やめろ。俺はドキューン伯爵家の次男だぞ」


(不味い…このままじゃ)

 もし、チャラーイが刺されたら商人の一族は死刑にされるだろう。

 チャラーイもエインヘリャルの一員、商人の短剣を容易くかわせるだろう。

 そうなれば商人が取る方法は一つ、自決をして屋敷事チャラーイを始末する。

 

(間に合えっ!!)

 タツオは一気に部屋に躍り込むと商人とチャラーイの間に割って入った。

 そしてマジックアイテムのマナを吸い上げて、爆発は防いだ。

 防いだが…


「お前、なんで私の邪魔をするんだっ!!」


「だ、駄目ですよ…貴族を刺したら残っている家族も殺されます…」

 タツオの腹には商人の短剣が深々と刺さっていた。

 鱗を持っていない猿人タツオの姿では、短剣を防ぐ事が出来なかったのだ。

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