大きさが変わっちゃいました
あれからタツオは罵詈雑言の嵐に晒されていた。
変態ドラゴン、女性の敵、恥知らず、解消なし、キモい癖に…等々。
もう、タツオは涙目である。
普通なら誰かがタツオの味方をしてもおかしくない状況であるが、周りにいるのは全ての者がカミラの眷属なのだ。
ヴァンパイヤによって支配された眷属は、主の精神に同調してしまう。
結果、タツオは反論の暇さ与えぬ程の口撃に晒されていたのだ。
他の古代竜が見たなら、何故ビルクーロはあの者共を滅ぼしてしまわないのかと疑問に思うかもしれない。
確かに、昔のタツオなら反論する前にブレスで躊躇いもせずに全滅させていたであろう。
しかし、忙しい両親に代わりタツオを育てたのは祖母のレーソと姉のブルーメである。
何より、億を越える竜生を生きてきたビルクーロに初めて惜しみ無い愛情と無限の温もりをくれたのは母シルビアだ。
お陰で無慈悲の黒龍ビルクーロも、今や立派なシスコン兼マザコンになっていたのだ。
故に彼がとった行動は攻撃ではなかった。
『お姉ちゃんー、助けてー。みんなが僕を苛めるー』
姉ブルーメに泣きついたのだ。
『タツオ、何があったの?』
『竜違いなのに、誰も僕の話を聞いてくれないんだよ』
そこからタツオは嗚咽混じりの言葉で状況を伝えた。
『お姉ちゃんが、今行くから頑張りない。タツオは男の子でしょ』
ブルーメはタツオかはテレパシーを受け取った後、先輩ヴァルキリーに頼み込みデスペア城に向かっていたのだ。
―――――――――――――――
「ブルーメ、これ以上は近づけません…この闇のマナの濃さは危険過ぎます」
ブルーメ達がデスペア城に着いた頃には、辺り一帯は闇のマナに支配されていた。
(おかしい…いくらレディヴァンパイヤが高位の魔物とは言え、闇のマナが強すぎる…まさか?)
「今からビルクーロにテレパシーを送って結界を張らせますので、お城に近付けて下さい。そうしたらテラスに飛び移ります!!」
『タツオ、闇のマナが強すぎて近付けないから結界を張って』
『お、お姉ちゃん~。うん、分かった』
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ブルーメはテラスに飛び移ると、直ぐ様に窓を蹴り破り城内に乗り込んだ。
そして瞬時に怒りが込み上げてきた。
漆黒の竜は体を丸め、必死に口撃から耐えていたのだ。
「私の可愛い弟を、随分と可愛がってくれたみたいね…」
「お姉ちゃんー!!」
タツオは姉の姿を確認すると、尻尾を千切れんばかりに振りまくる。
「タツオ、こっちに来なさい!!」
タツオはブルーメの言葉に従い、全速力で駆け寄った。
そして素早く姉の背中に周りに込む。
「おのれ、ヴァルキリー!!また、私の邪魔をするのか」
カミラにとってヴァルキリーは憎んでも憎みきれない敵なのである。
「何が邪魔よ。人の弟に難癖つけて馬鹿じゃないの!?この子はまだ14歳なのよ。あんたみたいな、お婆さんと知り合いな訳がないでしょ」
ブルーメの肩に手を乗せながら、タツオも頷く。
「黙れ、黒いドラゴンは私から全てを奪ったの!!城を滅ぼし、私を弄び…そして私を捨てたのよ」
「だからそれはタツオと違うドラゴンなの。拉致が開かないわね…タツオ、何か分かる?」
力を封じられているとは言え、タツオは時空を司る竜である。
ヴァンパイヤにされたカミラと、現場となったデスペア城があれば、過去を読み取るのは難しい事ではない。
「待って…分かったよ」
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リアット城の姫として生まれたカミラは、蝶よ花よと大切に育てられた。
美しき聡明に育ったカミラは民に敬愛され、ヴァルキリーのスリマという親友も得て幸せであった。
隣国の王子との婚儀も決まり、スリマもリアット城はかつてない幸せに包まれていたと言う。
しかし、それを許さないドラゴンがいたのだ。
人の幸せを忌み嫌い、人の断末魔を糧とする黒竜グリードである。
グリードは一夜のうちにリアット城を支配し、カミラの美しい肉体を弄んだ。
そしてカミラの美しさを保つ為だけに、ヴァンパイヤにしたのである。
直ぐ様、王子との婚儀は破棄された。
嘆き悲しむカミラのマナはグリードを大いに満足させた。
やがて壊れたカミラはグリードに依存する様になってしまう。
自分を捨てた王子を憎み、人を糧とするヴァンパイヤになってしまったのだ。
しかし、そんなスリマをグリードは簡単に捨ててしまう。
グリードは、悲しみも苦労も知らなかった美しい姫の嘆きだけが欲しかったのである。
闇の魔物に堕ちてしまった姫に興味は無くなったのだ。
そしてカミラは親友スリマにより封印されてしまった。
カミラにしてみれば、黒いドラゴンと言うだけで憎む対象なのったのだ。
人が虫や獣を種で区別する様に、人もまた魔物やドラゴンを種で区別する。
犬に噛まれた人が犬と言う種を苦手とする様に、カミラは黒いドラゴンを恨み忌み嫌ったのである。
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「同じ女として貴女には同情するわ。でも、タツオは黒い竜だけどグリードじゃないのよ」
ブルーメに気になっている事があった。
誰がカミラの封印を解いたかである。
スリマの封印は素人に偶然に解ける様な物ではい。
「ブルーメ、早く逃げて!!邪なマナが近付いて来てるわ」
突然、外で待機していた先輩ヴァルキリーが警告をしてきた。
しかし、警告は遅すぎたのかも知れない。
タツオの倍近い大きさの黒いドラゴンがテラスの側に現れたのだ。
「久しいな、カミラよ」
「グリード…様」
カミラの顔に恐怖とも悦びともつかない表情が浮かぶ。
「あれはアンデッドドラゴン?まさか…グリードはスリマ様の昔話に出てきた黒いドラゴンなの?」
闇夜で分かり辛かったが黒いドラゴンの体はボロボロに朽ちていた。
「ヴァルキリーだと…これは僥倖。甦って早々復讐が出来るとはな」
グリードがなめ回す様な目でブルーメを見る。
「ぬかせ、小僧。我が姉に懸想する等万年早いわ」
さっきまで怯えてあたタツオが、今度はブルーメを庇う様にして立っていた。
「ほう、その小さな体で何が出来ると言うのだ?」
「見てるが良い。二段階解放っ!!ドラゴンに戻った時と同じだっ。自分を信じれば力も戻るのだっ」
タツオがテラスから外へと飛んでいく。
やがて現れたのはグリードより巨大で強力なドラゴン。
デスペア城を包んでいた闇のマナが、時のマナに変わっていく。
「お前はいったい…」
「我はビルクーロ、時空を司りし古代竜…同族としてのせめてもの情けだ。きちんと浄化してやる」
それは圧倒的な力の奔流、全てを滅し全てを滅ぼす古代竜ビルクーロのブレス。
「次いでだ…お前らの幸せな時に戻してやろう…過去の幻影」
カミラ達は幸福な過去を見ながら天に召されたていく。
タツオがドヤ顔をしていると、RPADがけたたましく鳴り始めた。
「警告、警告。DP不足で変身したからペナルティーが課さられるよ」
「へっ?ペナルティー?」
ドヤ顔から一転し焦りまくるタツオ。
「ペナルティー1により、ビルクーロは手乗り竜になります」
ポンッと可愛い音がしたかと思うと、タツオは体長五センチ程の小さな竜に変わっていた。
「あ、あんまりだー!!」
明け行く空に黒い小さな竜の咆哮が木霊していた。
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