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出会っちゃいました

 一匹の黒いドラゴンが空を飛んでいた。

 ドラゴンの中でも、黒いドラゴンは珍しいので、必然的に人々の注目を集る。

 そしてその黒いドラゴンを見た誰もが、こう思ったと言う。

 あの黒いドラゴン、ヤバイんじゃない?と。

 何しろ、黒いドラゴンは酔っ払いの様に、フラフラと飛んでいるのだ。

 右に左に、上に下にフラフラと空を飛んでいく。

 黒いドラゴンはフラフラしながらもジガンテ山脈に向かっていた。

 タツオである。

 地上からは分からないが、タツオは尻尾を項垂れさ目には涙を浮かべていた。


「恥ずかしい…デートオッケーしてもらったとか、もしかしてフロルと恋人になれるかもって浮かれていた自分が恥ずかしいー。ワームホールがあったら転移をしたいー」

 タツオはエグエグとしゃくりを上げながら叫ぶ。

 ちなみに(ブルーメ)からのテレパスは、着信拒否にしていた。

 

(そうだ…我はドラゴンなのだ。ドラゴンはドラゴンの中で暮らすのが一番なのではないか…あっ!?)


「僕、ドラゴンの中で暮らした事がないんだ…どうしよう、新竜イジメとかされないかな?あっ!!手土産を持ってない。こっちの世界のドラゴンは何を喜ぶんだろ?」

 タツオは大声を上げて頭を抱えると、ドラゴンらしかぬ人間臭い心配をし始める。

 何しろ、ビルクーロとして生きた年数は億を越えているが、他者と密接な関係で暮らしたのはタツオになってからの十四年だけなのだ。

 ましてや、今のタツオは行商人、第一印象の大切さを身を持って知っていた。


「はぁー、怖い先輩とかいたら嫌だな。フランみたいに他竜(たりゅう)の話を聞かないドラゴンがいたらどうしよう」

 フランメリアはタツオと同じ古代竜の一柱で、火を司っている。

 火の古代竜だけあり、性格は短気で攻撃的。

 昔と違い我が弱くなったタツオにしてみれば、絡みにくい相手なのである。

 しかし、タツオはこの時はまだ知らなかった。

 後にフランメリアを始めとする古代竜達と、思わぬ形で再会する事を。


―――――――――――――――


 ジガンテ山脈を地上から見ても全体の三分の二しか見えないと言う。

 残りの三分の一は雲の上にあり、余程の晴天でない限り、その山頂が人目に触れる事はない。


(随分と吹雪いているな…それに空気が薄い。これでは猿人は山頂には辿り着けぬな)

 タツオは山頂を眼下に見下ろしながら、吹雪の向こうに目を凝らす。

 何しろ、ドラゴンの棲み家はジガンテ山脈の向こうと言う以外は何の情報もないのだ。

 ジガンテ山脈を越えると見えて来たのは一面の荒れ地。

 赤茶けた荒れ地がどこまでも広がっており、生物の影すら見えない。

 

(おかしい…これだけマナが濃いのに生物の気配を感じないとは)

 ドラゴンや魔物はマナの濃い地域を好む。

 マナを摂取し体内で魔力に変換する事で、大きな体を維持しているのだ。

 そして猿人やエルフ等の人族はドラゴンや魔物が多い地域に住むのを避ける。

 自然とマナの濃い地域は自然が豊かになり、動植物の宝庫となるのだ。

 それはジガンテ山脈を越えて十分程経った頃である。

 タツオが眉を微かに動かした。

 

「成る程、大地自体に結界を施しているのか。効果は幻覚と遮断…しかし、なぜ内側を重要視しているのだ?これでは外に出れないのではないか」 

 タツオは結界を確かめる為に大地へと降り立つ。

 そしてそれを見計らったかの様にRPADが鳴り響いた。


「まずはギガラグワームを倒したから300DPが追加されたよ。合計750DPになったよ。そして忠告ー、この先にあるのはドラゴンの聖地スクアーマ。スクアーマでは契約紋があるドラゴンは軽蔑されるから気を付けつてね」


「へっ?でも契約を破棄したらお姉ちゃんを裏切った事になります。それに夕方までには連絡をいれないと叱られるんですよ」

 フロルとの仲が絶望的になったとは言え、姉ブルーメはタツオの大切な家族なのである。

 

「そんな君にはこれマジックペンー。今なら450DP。これで角を黒く塗ればバレないよ」


「わ、分かりました。ギガラグワームを倒してもマイナスですね」

 しかし、タツオは知らなかった…マジックペンが油性だと言う事を。


―――――――――――――――


「これはドラゴンには堪らない土地だ!!」

 結界を越えるなり、タツオはテンションマックスで叫んだ。

 タツオのテンションが上がったのも無理はない。

 ドラゴンの巨大な体を充分に休める事が出来る草原。

 体全体を着ける事が出来る大きなな湖。

 寝返りもうてる広さがある洞窟。

 何よりも数多くのドラゴンが空を舞っている。

 ここならドラゴンだからと言って恐れられたり特別視される事はないだろう。

 草原で寝そべりながらタツオがまったりしていると、叫び声が聞こえてきた。


「いや、止めて!!」


「良いじゃないか、俺達と遊ぼうよー」

 見ると若い雌ドラゴンが数匹の雄ドラゴンに絡まれていた。


(これは新たな出会い!!颯爽と現れてあの子を助ければ好感度はウナギ登りっ!!)


「小僧共、女の口説き方も分からぬのか?我が怒る前に消えろ」


「あんっ!?なんだよ。おっさん」

「良い年して恥を掻くだけだぜ」

「そこで指を咥えて見てな」

 平和な地スクアーマに住む若い雄ドラゴンは、今まで敵意や殺意とは無縁な生活を送っていた。


「小僧共、口の聞き方に気を付けろ…」

 一睨み、それだけである。

 タツオの放つ濃密な殺意に雄ドラゴン達は震え上がってしまう。


(決まった、僕渋すぎ!!これはあの子が抱きついてくるんじゃ…っていない!?)

 見ると雌ドラゴンは一匹の雄ドラゴンを介抱していた。


(またイケメン!?イケメンなリア充なんて滅んでしまえっ)

 心の中で怒りをぶちまけても、若い雄ドラゴンの様に強引な手段に出ないのは母シルビアと姉ブルーメの教育の賜物であろう。


「危ない所をありがとうございました。僕の名前はバーチェ、こっちは幼馴染みのファヴォーレです」

 爽やかに挨拶をしてくるグリーンドラゴンのバーチェ。

 同じくグリーンドラゴンのファヴォーレはバーチェの背中に隠れていた。


「べ、別に良い。幼馴染みは大切にしろ…我の名前はビルクーロだ」

 幼馴染みを盗られる切なさを身を持って知っているタツオは苦笑いで誤魔化す。


「ビルクーロさんは外の世界から来たんですか?やっぱりブラックドラゴンは強いんですね。そうだ、何かお礼をさせて下さい」

 バーチェの話によると、外の世界は危険に満ち溢れていて猿人に誘拐されたり襲われる事があると教えられているらしい。


(誘拐はヴァルキリーの事だな。あの結界は若いドラゴンを出さない為か)

 思考に耽ってした為か、タツオの力が一瞬弱ってしまった。


『タツオ!!どこで油を売ってるの!!早く帰って来なさい』 

 姉のテレパスがタツオの頭に響く。


『いや、ちょっと気分転換に遠出を』


『ごちゃごちゃ言ってないで早く帰って来なさい』


『わ、分かりましたー』


「済まぬ、急用が出来た。後日、スクアーマを案内してもらう…やばい、お姉ちゃんが怒ってる!!」

 タツオはスクアーマに来た時の数倍の速さで、ミーズガルに帰って行ったと言う。

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