依頼をこなしちゃいました
更新リクエストが一番多かったビルクーロです
最近タツオが一番リラックス出来るのは、ドラゴンの姿に戻り大空を飛んでいる時だ。
何しろ空にいる時は自由である。
邪魔する物はないし、生態系の頂点にいるドラゴンは襲われる心配がない。
次いでに売り上げの事を忘れられるし、タツオに見せつける様にいちゃつくリア充カップルも空にはいないのだ。
だからタツオは空を飛んでいる時は、自然と笑顔になっている。
しかし、今日のタツオはむくれながら空を飛んでいた。
空が曇ってる訳でも雨が降っている訳でもない。
天気は至って快晴で、空の旅は快適そのものであった。
しかし、タツオはプッと頬を膨らませ、尻尾はピンと立てている。
原因は姉のブルーメが受けた依頼であった。
ヴァルキリーに回ってくる依頼は、基本冒険者が余した物が多い。
魔物が強い時もあれば、旨味が少なく冒険者に省みられなかった依頼もある。
そして中には特殊な依頼もあるのだ。
「姉ちゃんの馬鹿!!ヘルチェミチェが何か分かってるの?」
タツオは何時になく強気の口調でブルーメに食って掛かった。
「馬鹿?タツオ、あんた何時からお姉ちゃんに生意気な口を聞く様な子になったの!!」
ブルーメはそう言うと、タツオの背中を思いっきり叩いた。
しかし、ミスリルをも弾く鱗を持つタツオには何のダメージを与える事は出来ない。
出来ない筈なのだが、タツオの尻尾は情けない位に項垂れた。
「だってヘルチェミチェはでっかい亀虫なんだよ」
さっきまでの勢いはどこへやら、タツオの話し方は甘える様な口調に戻っていた。
タツオの生まれたオーディヌスとユミールを作ったのは同じ神ロキである。
当然、生態系は似寄り、同じ生き物も少なくない。
「亀虫?虫は虫でしょ」
「大きさは2mを越えるし、外骨格はとても硬いんだよ。何よりも、とんでもなく臭いにおいをだすんだって」
ヘルチェミチェのヘルは辺り一帯を、地獄の様にしてしまうと言う意味なのだ。
「そ、そんなの直ぐに倒したら問題ないじゃない」
「ヘルチェミチェは臆病でショックに弱い虫なんだよ。下手に攻撃したら直ぐにショック死しちゃうんだ。そして最後に出すにおいが一番臭いんだよ」
中には小鳥がぶつかっただけで、ショック死したヘルチェミチェもいる位臆病なのである。
ヘルチェミチェは体が大きい分、臭腺も大きく広範囲に臭いが漂う。
ショック死しやすく、直ぐに臭いにおいを放つヘルチェミチェは、ユミールでもオーディヌスでも迷惑昆虫の代表にされている。
「なに、その傍迷惑な虫は…でも、それなら数が増えちゃうんじゃないの?」
今までブルーメはヘルチェミチェと言う魔物を聞いた事がなかった。
「ヘルチェミチェの外骨格は綺麗で頑丈なんだよ。だから昔は防具や砦の防壁に使われていたんだって。早い話がヘルチェミチェは臭いのを我慢すれば稼げる魔物だったから乱獲されて数を減らしたらしいよ。今は加工を出来る職人がいないから倒す冒険者はいないけどね」
行商人をしているタツオにとって商品に関する知識は不可欠。
「随分と詳しいわね」
「行商人にとって商品に関する知識は不可欠だからね。僕だって色々と勉強してるんだよ」
タツオは先輩の行商人に教えを乞うたり、訪れた町や村で知識を増やしていったのだ。
ちなみにRPADで、詳しい情報を得るにはDPが必要である。
タツオが欲しい情報に限って、ここからは有料になりますと表示されるのだ。
「へー、それじゃタツオは人気者なんだ」
「まーね、僕を待ち侘びてる人もいるんだよ」
タツオは移動に馬を必要としない為に、価格を安く抑える事が出来る。
新鮮な魚を安く売ってくれるタツオを、待ち侘びてる人が出来たのは、当たり前と言えば当たり前なのである。
「そっか…でもフロルが聞いたら何て思うかな?あの子、タツオに褒めてもらうんだってヴァルキリーの勉強を頑張ってるのよね」
「フ、フロルは関係ないだろ」
タツオは関係ないと言いつつも、顔を赤らめていた。
「タツオを待ち侘びてる人の中には若い女の子もいるでしょ。それをフロルが聞いたら悲しむんじゃないかな」
事実、タツオは頼まれて衣服や化粧品を仕入れる事があるので、彼の顧客の中には若い女性も少なくない。
ただし、商人として人気なだけで、あまり異性扱いをされていないのも事実だったりする。
「いや、お客様はお客様だし。みんな彼氏とか好きな男の人がいるんだよ」
「あら?やっぱりいるんだ。へー、どうしようかなー。お姉ちゃんならフロルが誤解しない様に間に入ってあげられるんだけどなー」
ブルーメがタツオの顧客の事を知ってる訳もなく、ただ単に鎌を掛けただけなのだ。
理由は可愛い弟と妹分の仲を何とかしてやりたいのが一番。
そして
「分かったよ、分かりました。ヘルチェミチェは僕が何とかします…だからフロルの事はお願い」
ブルーメの思惑通り、タツオはヘルチェミチェ討伐に意欲をみせてくれた。
「お姉ちゃんに任せなさい…でも浮気とかしてフロルを泣かせたらただじゃ置かないからね」
「浮気?まだ付き合ってもないに?」
フロルに告白する勇気がないタツオにしてみれば、あまりにも突飛な話である。
「あら?タツオはフロルと付き合いたくないの?へー、そうなんだ」
「な、な、なんで、そうなのるの?」
そんな噂が広まりでもしたら、フロルに嫌われるし母や祖母に叱られてしまう。
途端に落ち着きをなくすタツオ。
尻尾をソワソワと動かし、顔には焦りの色が浮かび始める。
「そうならない様に色々頑張りなさい。お姉ちゃんは何時でもタツオの味方だから安心してね」
ブルーメはそう言うと、優しく微笑んだ。
ブルーメは久し振りにタツオを弄りたかったのだ。
何故なら、広い王都にも彼女の弟程 、弄り甲斐がある人はいなかったのである。
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ヘルチェミチェの被害を訴えて来たのは林業が盛んな山間の村。
普段ならヘルチェミチェが出れば近づかない様にするのだが、困った事に一匹のヘルチェミチェが村の広場にある神木に居着いてしまったのだ。
巨大なヘルチェミチェに樹液を吸われたら御神木と言えども枯れてしまう。
しかし、下手に攻撃をしたら村が文字通り地獄と化してしまう。
「ヴァルキリー様、お願いします。このままでは御神木が枯れて村に災いが起きてしまいます」
ブルーメに必死に頭を下げる村長を見てタツオは呆れていた。
(馬鹿らしい。御神木って、ただ単に古いだけの木じゃないか。本当に神や精霊が宿っていたら魔物は近づけないんだよね)
ドラゴンであるタツオから見れば、御神木はただの木でしかない。
「分かりました、ご案内をお願いします」
そして村長に案内された先にそれはいた。
有に3mを超す巨体、日光を反射して輝いているメタリックグリーンの体。
ヘルチェミチェである。
(この辺はマナが濃いから、あそこまで大きくなったんだ…下手に倒したら一ヶ月は村からにおいが取れなくなるな)
「それでは私はこれで失礼します」
戦いの邪魔をしない為か、臭いにおいを嗅ぎたくないのか村長はそそくさと退散していく。
「タツオ、先ずは引っ掻く攻撃よ」
何かのトレーナーよろしく指示をだすブルーメ。
「嫌だ。においが着いたら行商が出来なくなるんだよ」
「仕方ないわね。ビルクーロ、噛み付きで攻撃」
「命令が更に酷くなってる!?口が臭い行商人なんてお客が減っちゃうよ」
タツオは姉の命令に必死に抵抗をしてみせる。
「それじゃどうするのよ。タツオはブレスが吐けないんだから近付かなきゃ倒せないでしょ」
「もし、ブレスを吐けても神木に被害が出ちゃうよ…うぅ、仕方がないな。お姉ちゃん、帰りは一人で帰ってね」
亀虫が臭いのを出すのは第三指の付け根にある臭腺からである。
それなら臭いを出す前に両断してしまえば被害は最小限で済む。
(たかが虫相手に必死になる日が来るなんて…僕は古代竜なのに)
しかし、未婚の姉が臭いキャラになるのだけは避けたい。
タツオはヘルチェミチェに一気に近づくと鋭い爪で胴体を一刀両断にした。
そして直ぐ様にヘルチェミチェの遺体を担ぐと空の彼方へ飛び立っていった。
「くっさー、臭いよー」
泣きながらも必死に飛び続けて行ったのだ。
その臭いが取れるまで、タツオは四日間湖に浸かっていたとう。
今回の獲得DP100。
トータルDP450。
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