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契約しちゃいました

 ヴァールにはヴァルキリー隊の本部がある為、住民はヴァルキリーやドラゴンを見慣れている。

 しかし、そのヴァルキリーとドラゴンは住民の注目を集めていた。

 先ず黒いドラゴン自体が珍しい。

 更に黒いドラゴンと契約が出来たヴァルキリーは、ユミールの長い歴史の中でも数人しか確認されていないのだ。

 何しろ黒いドラゴンは気性が荒く気位も高い。

 高い筈なのだが、その黒いドラゴンはヴァルキリーの少女に手綱一本で大人しく弾かれていた。

 言うまでもなく黒いドラゴンはタツオで、ヴァルキリーの少女はタツオの姉ブルーメである。


(お姉ちゃん、これからどこに行くの?)

 タツオはブルーメに顔を近づけると小声で話し掛けた。

  

(先ずは本部で契約を済ませて、その後はタツオの鞍を作りに行くわ)


(鞍か…そう言えばお姉ちゃんは戦う時に、何の武器を使うの?)

 昔の自分ならば、人に鞍を置くと言われた一笑に付していたであろう。

 それが今は大人しく従っている。

 タツオは、その事を不快に感じていない自分を奇妙に感じていた。


(タツオの上で戦う時は弓か長槍ね。タツオはブレスを吐けないんでしょ?)


(今はね…本当の僕は物凄く強いドラゴンなんだから)


(はいはい、早く本部に行くわよ)

 ブルーメはそう言うと、クイッと手綱を引っ張った。


(お姉ちゃん、待ってよー)

 引っ張られたタツオはペタペタと足音をたてながらブルーメの後を追う。

 その姿は幼い姉弟が、手を繋いで歩いている様に見えたと言う。


―――――――――――――――


 ドラゴンとヴァルキリーの契約に置いて、一番重要なのは相性だと言われている。

 正確にはドラゴンがヴァルキリーを気に入るかどうかだ。

 その為、契約をしてもヴァルキリーは高位のドラゴン相手には敬意を持って接している。

 故に本部で契約師をしているシュケルは呆気に取られていた。

 新人のヴァルキリーが連れて来た黒いドラゴンは、どうみても高位のドラゴンである。

 ベテランのヴァルキリーでも腫れ物に触る様な扱いをするであろう。

 新人なら近づくだけでも気絶しかねない。


「嫌だ!!なんで角に契約印を彫らなきゃいけないの?」

 黒いドラゴンは目に涙を浮かべながら柱にしがみつき必死に抵抗していた。

 ヴァルキリー隊の本部にはドラゴンも出入りする為、頑丈に作られており天井も高い。

   

「決まりだから仕方ないでしょ!!男の子なんだから黙って彫られなさい」

 一方の新人ヴァルキリーは黒いドラゴンの尻尾を強引に引っ張る。

 その姿は注射を嫌がる弟を宥める姉の様であった。


「雄ドラゴンにとって角は誇りなんだよ!!第一、痛いんだって」

 一度、角を折られた事があるタツオにとって角を傷つけられる事は恐怖でしかない。

 タツオは、目に涙を浮かべながら心の叫びを訴えていた。


「シュケルさんはベテランの契約師だから上手に彫ってくれるから大丈夫よ。タツ…ビルクーロ、それ以上我が儘言ったら怒るわよ…」

 ブルーメの低い声を耳にしたタツオの抵抗が弱まる。


「本当に痛くない?」


「暴れたドラゴンは一頭もいないそうよ」

 手慣れたものでブルーメはタツオの目を覗き込みながら微笑む。


「お願いします…」

 タツオはそう言うとシュケルの前で腹這いになる。

 気の所為か、その体はプルプルと震えてる様に思えた。


「はは…随分と大人しいブラックドラゴンね。始めるわよ」

 契約はドラゴンの角の表層にあるエナメル質に契約印を彫る事から始まる。

 ヴァルキリーはそれぞれ自分を象徴する契約印を持っており、ブルーメの契約印は月に向かって微笑む少女であった。

 

「さあ、ブルーメ契約印に魔力を流しなさい」

 

「分かりました。私の名はブルーメ・トキノ。ドラゴンビルクーロと契約をここに願う」

 ブルーがタツオの角に手を当て、そう願うと銀色の光が溢れだす。  

 

「契約はなりました。ブルーメ、これで今日から貴方も正式なヴァルキリーです」

 

「シュケル様、ありがとうございました」

 ブルーメがそう言って頭を下げると、シュケルは小さな溜め息を洩らした。


――――――――――――――――――


 翌日、タツオは一枚の紙をブルーメに手渡した。

 

「ドラゴンの飼い方?」


○ドラゴンは神経質で臆病な生き物です。

 優しく接してあげましょう。

○ドラゴンは魚や肉を好み、人参が苦手です。

 または甘い食べ物をあげると、喜びます。

○ドラゴンの鱗が白くなって来たらカルシム不足かもしれません。

 そんな時は日光浴をさせてあげましょう。 

○ドラゴンにも生活があります。

 呼び出す時には予め連絡をしておきましょう。


「これはドラゴンの事じゃなく、タツオの事でしょ!?」

 こうしてトキノ姉弟による冒険が幕を開けたのだ。


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