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転生させられちゃいました

ビルクーロの連載版です

 全ての次元から隔絶された場所にある時空の狭間。

 そこで一匹の黒い竜が虚ろな目で壁を見つめていた。

  彼の名はビルクーロ、永遠とも言える時を生きてきた時 空を司る高位の精霊。  

 彼は鋼どころかミスリルさえ通さぬ強固な鱗と小山の様 な巨躯を持つ竜である。

  無論、人や魔物に敵などおらず彼に勝てるのは神位であろう。

 ビルクーロは気の遠くなる様な昔から一匹で時空の狭間で過ごしてきた。

 何故なら彼は神により創られた精霊であり、家族を持たない。

 その為、他者と交わる術を知らず狭量な性格と言われる様になった。 


「寂しい…」

 ビルクーロはそう呟くと目を潤ませ始めた。

 涙は止めどめなく溢れ始め彼の顔を濡らしていく。


「ふぇっぐ…ざびじいよー」

 嗚咽と共に鼻水も混じり始め彼の顔はぐちゃぐちゃに汚 れていく。

 そこには気難しい孤高の竜と呼ばれた頃の面影は微塵も ない。

  ビルクーロは仰向けに寝そべると四肢で地をあらんばか りの力で叩き始めた。  

 その姿はまるで玩具をねだる童である。

 そして器用な事に尻尾でのの字を書いていた。

 しかし、ビルクーロが欲する物は金や物で購える物ではない。

 そしてビルクーロには彼の悲嘆に耳を傾けてくれる家族や友人はいない。

  いや、いなくなったと言う方が正確である。

 かつて、ビルクーロには猿人の親友がいた。

 少し変わり者であったが、種族が違うビルクーロを恐れずに受け入れてくれた友である。

 先月、その親友が死んだ。

 七十年も生きれば長命と言われる猿人と違いビルクーロには寿命と言う概念すらない。

  それは訪れて当然の別れ。

 ビルクーロはひとしきり泣くと体育座りぬり壁を見つめ始める。

 そこに飾られているのは親友とその家族が描かれた絵姿 。

 その脇には照れ臭そうな顔をしている人間体の自分がいた。


「一匹は寂しい、話し相手が欲しいーよー」

 そして漆黒の竜の瞳は再び濡れ始めた。

  やがてビルクーロ泣き疲れて深い眠りに落ちる。

 自分を見つめて楽しそうに笑う人影に気づかない程に。


―――――――――――――


 翌日、その人影は唐突に時空の狭間に姿を現すと何の脈 絡もなしにこう言った。


「転生をしてもらいます。私の中で転生がプチマイブームなんです」


「ロ、ロ、ロキ様。もう少し詳しく説明をしてもらえませ んか」

 人影の名前はロキ。

  ビルクーロの住む世界を創った神の一柱である。

  ロキがビルクーロの前に現れて無茶振りをするのは決して珍しくない。

  ある時は常に新ネタで出迎えと言い、またある時はダンスをマスターしろと命令してきた。


「だから貴方には違う世界に転生してもらいます。返事はイエスかはいしか認めません」


「て、転生ですか?あの役目があるんですけど」

 時を司るビルクーロは惑星の自転や公転を管理し時空のほつれを治す役目を担っている。


「大丈夫です。自動運営システムと自動修理システムを組み込みました」


「そ、それじゃ私はクビですか?」

 巨体の古代竜が住める場所は限られており、自動の狭間にいられなくなればビルクーロは宿無し竜となってしまう。


「それは転生先での頑張りによります…それじゃあ、いってらっしゃい」


「待ってください、せめて行き先を教えて…」

  次の瞬間、ビルクーロは眩い焦げ茶色の光に包まれ意識を失った。


――――――――――――――――


 気が付くとビルクーロは温かい液体に包まれていた。

 春の日差しの様な柔らかな温もりである。 


「私の可愛い坊や、元気に産まれてきてね」

 優しい女性の声が聞こえてきた。

 ビルクーロは今まで感じた事がない不思議な暖かさを感じていた。

 

「早く産まれて来い。家族みんながお前を待ってるからな」

 次に聞こえてきたのは力強い男性の声。

 ビルクーロは何故か声を聞いているだけで安堵感を覚えていた。


「俺、早く一緒に遊びたい。ねぇ、早く出て来てよ」

 元気な男の子の声が聞こえてきた。

 ビルクーロはその幼い声を聞いているだけで元気が出てくる感じがした。


「あかたん、あかたん。あしょぶ」

 幼い女の子の声は聞いているだけで力が湧いてくる感じがする。


(転生したら人と仲が良い竜になろう)

 ビルクーロは、この時まだ竜に転生したと思っていた。


――――――――――――――――


 その日、ミーズガル王国にある港町ニョルズスタットに一人の黒髪の男の子が産まれた。

 父親の名はテツヨシ・トキノ。

 テツヨシは腕の良い鍛冶職人で、東方の国から流れてきた腕の良い鍛冶職人である。

 その証拠にテツヨシも赤ん坊と同じ黒髪であった。

 母親の名はシルビア・トキノ。

 シルビアは綺麗な銀色の髪を持った美しい女性である。

 いつもは大人しい彼女がテツヨシに一目惚れし、半ば強引に押し掛け女房となったの事は、今でもニョズスタットの語り草になっている。


「お前の名前はタツオだ。タツオ産まれてきてくれてありがとう」

 テツヨシがタツオを抱き上げると、シルビアと同じ銀色の髪を持った二人の子供が駆け寄って来た。


「タツオ、僕がお兄ちゃんだよ」


「赤ちゃん見たい。私にも見せて」

 駆け寄って来たのはトキノ家の長男のシュミットと長女のブルーメであった。

 今日産まれた男の子タツオはトキノ家の次男となる。

 母子ともに無事でトキノ家は喜びに包まれていた。

 肝心のタツオ以外は…。


(え?ちょっと待って!?なんで猿人になってるの?)

 タツオこそ古代竜ビルクーロの転生体である。

 てっきり竜に転生すると思っていたビルクーロは唖然としていた。


「うん?その子泣いてないね。タツオさん貸してみな。こんな時は尻を引っ叩くもんさ」

 シルビアと同じく銀色の髪をした老婆がテツヨシの手からタツオを貰おうとしていた。

 老婆の名前はレーソ・ヴァラレ、シルビアの母である。


「婆ちゃんめー。タツオいじめちゃめー」

 幼いブルーメには祖母が可愛い弟を苛めている様に見えたのだろう。

 その微笑ましい光景にテツヨシとシルビアは相好を崩す。

 

「ブルーメ、お婆ちゃんはタツオを苛めているんじゃないよ。赤ちゃんは泣かないと上手に呼吸が出来ないんだよ」

 テツヨシはタツオをレーソに預けると、ブルーメの頭を優しく撫でた。

 一方、肝心のタツオは焦りまくっていた。

 

(いやいや猿人なんて最弱種族は無理だって。飛べないし、ブレスも吐けないし剣で刺されたら死んじゃうだよ?何よりこんな姿を他の古代竜に見られたら笑い者にされてしまう!!)


(大丈夫です。この世界の名前はユーミル。ユーミルに古代竜はいませんから)

 タツオは心に話し掛けてきた声に聞き覚えがあった。


(ロ、ロキ様。なんで猿人なんですか?)


(同じ竜に転生しても面白くないでしょ?だから私を楽しませないとお仕置きですからね)

 余りにも理不尽な展開にタツオは大声で泣き始めた。


後から2話更新します

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