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ハーレムは彼女のモノ!  作者: 久遠夏目
Ⅰ ぼくと彼女の約束
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01

 ぼく、鷹羽雪たかばせつは、とある高校に通う高校二年生だ。そろそろ進路のことも考え始めなくては、と思いつつも、まだ進級して一ヶ月程度では、そんなことは頭にまったくなかった。

 反対に、ぼくの頭を占めているのは、クラスメイトの東雲憂冰。ぼくは彼女のことがすきだった。一年のときからクラスが一緒で、正直なことを言ってしまえば一目ぼれだった。肩甲骨ほどまでに伸びた真っ直ぐな黒髪に、整った顔立ち。和風美人とでも言うのだろうか。きっと着物を着たら似合うような、そんな容姿をしていた。

 ただし、無口でおとなしい性格なので、クラスではあまり目立たず、一人で過ごしている。しかし、いじめられたりはぶられたりということはないようで、むしろ、その独特な雰囲気から、男女ともに隠れファンが多く、ぼくもそのうちの一人、と言ってもいいだろう。

 だけど、ぼくと彼らが違うのは、ぼくは東雲のことを恋愛対象として見ているということ。ぼくと同じように東雲がすきだという人は何人かいたけれど、告白をした、というウワサは聞いたことがない。ぼくはそれをいいことに、告白しようと決めたのだ。

 もちろん、それはかなりハードルの高い、無謀とも言える挑戦だ。何せぼくは今まで東雲としゃべったことがない。ぼくと彼女の接点といえば「クラスメイト」という、大多数の人が当てはまる一点だけで、ヘタしたら「どなたですか?」と聞かれる自信があるくらいだ。

 それだけ、ぼくと彼女に接点はないし、そもそも接点がないことには、ぼく自身にも原因があった。そう、ぼくはとても「地味」なのだ。ぼくは昔からとにかく目立たない存在だった。言い換えれば、「普通」すぎて、平均と同化しているということだ。もちろん、普通に友達もいて、いじめられたことはない。まあ、たまに「いたの?」と聞かれることはあったけれど……とにかく、ぼくは空気と同化するのが上手いのだと思う。

 顔も普通、成績も普通、運動神経も普通。そんな地味なぼくに、告白なんていう派手なイベントが似合わないということは重々承知している。だけど、そんなぼくだって「青春」というものを過ごしている、いや、過ごしていいはずの一人なのだ。

 それに、もし万が一オッケーをもらえれば天国、ダメでも彼女が言いふらさない限りは周りにバレないはずで、人付き合いがほとんどない東雲にはその心配はいらないだろう。だから、結果がどちらであれ、ぼくの負うダメージの大きさが違うだけで、リスクは少ないと思う。

 そんなわけで、善は急げではないけれど、ゴールデンウィークが明けた今日、早速告白することに決めた。午前中、東雲が一人でいて、なおかつ周りにあまり人がいないときを狙って話しかけ、放課後、あまり使われていない旧校舎の裏に来てくれるように頼んだ。

 そして、運命の放課後、ぼくは勇気をふりしぼって告白した――わけなのだが。


「あっはっはっはっはっはっは、何じゃそりゃ! 東雲ってそういうやつだったんだな、面白ぇー」

「いやいやいや、笑い事じゃないから! これどう思う? 付き合ってるって言えると思う? ていうかむしろこれ、付き合う意味ある?」

「んー、ないんじゃね?」

「だよねー。って、おい! 少しはフォローしろよ! すんなり肯定すんなって!」

「うっせぇなぁ。よくわかんねぇけど、人付き合いなんて人それぞれなんだし、別にいいんじゃねぇの?」

「お、ちょっとまともなフォローが来た。……けど、一応人が大事な話をしてるんだから、そんなときくらいゲームする手を止めろよ!」

「地味なお前と派手なゲーム、後者を取るのが正しい選択だ、ろっ! よっしゃ!」

「はあ……」


 失礼なことをさらりと言ってゲームを続けているのは、ぼくの小学生からの友人である永宮晴人ながみやはるとだ。東雲に「信用できる人であれば、一人だけ教えてもいい」と言われて真っ先に思いついたのがこいつだったので、夜、こいつの家に押しかけたわけなのだが、選択を間違えてしまっただろうか。

 晴人は身長も高く、精悍な顔立ちをしていて、さらには運動神経もいいので、ぼくとは正反対で目立つしモテる。ぼくと晴人が並んで歩いていても、多くの女子は晴人しか見えていないと思う。ただしそれは、ぼくが地味なんじゃなくて、晴人が目立ちすぎなだけのような気がしなくもないけれど、小学校のときからずっとそうだったので、今さら気にしてはいない。

 はあ、と一つため息をつくと、一段落ついたらしい晴人がくるりとこちらを向いた。


「ていうか、それでオッケーしたお前もお前だろ。何でその条件で付き合おうと思えるんだよ」

「だって、すきな人からの要求だし、何でもしてあげたいじゃん。ていうか、一応付き合えるんだから、むしろ喜んでするっていうか」

「マゾか」


 心底呆れたような目をこちらに向ける晴人。何だよ、ぼく、そんなにおかしいかな? すきな人に尽くしたいって思うのは、普通のことじゃないだろうか。

 確かに、あのあと「それでもいいです!」と答えたとき、東雲は自分から条件を出してきたくせに、一瞬引いたようなカオをしていた。だから、もしかしたら東雲は、そんな無理難題を提示することによって、体よく告白を断りたかったのかもしれない。できればそんなことは考えたくないのだが、考えないようにすればするほど、そうとしか思えなくなってくる。

 だから、ぼくは考えるのをやめた。東雲が本当はぼくと付き合いたくなんかなかったのだとしても、最初にぼくの告白を受け入れてくれたのは事実なのだ。ちゃんと断らないのが悪い。

 それに、昼休みにしか二人きりにならないのなら、これまでの生活とほぼ変わらないはずだから、東雲にとってもそんなに害はないはずだ。ぼくはすきな人と付き合えて、少しでも二人きりで話ができるのなら、それでいい。とりあえず、今のところは、だけど。

 打ち消したはずの嫌な考えを思い出したせいで肩を落としていると、晴人がはあ、と一つため息をつき、ゲーム機を机の上に置いた。


「まあ、女子ってたまに性に関して潔癖なやつとかいるしな。東雲もそのたぐいなんじゃねぇの? もしくはただ単に恥ずかしいとか」

「そう、かな」

「いや、俺は本人じゃねぇからわかんねぇよ」

「フォローが雑だな!」


 せっかく元気が出そうだったのに、台なしだ。晴人は見た目はいいかもしれないけれど、性格的にはかなりの面倒くさがりでがさつなのがたまにきずだと思う。

 ジト目でにらみつけていると、晴人はがしがしと頭をかいて、


「とにかく、付き合えたのは事実なんだし、これからどうするかはお前次第だろ。手をつなぐだとかそれ以上のことがどうなるかはそれこそ知らんけど、まあ、長い目で見てやれば?」


 と言った。晴人はモテるから、今まで何人もの女子から告白されているはずなのに、彼女を作ったことは一度もない。本人曰く、あまり恋愛に興味はないのだとか。なのに、何だろうこの説得力。やはりモテる男の言うことは違うということだろうか。

 何より、ぼくは「長い目で」と言われたことが嬉しくて仕方なかった。そうだ、ぼくと東雲のお付き合いはまだ始まったばかりじゃないか。スタートこそ(主にぼくが)つまずいたものの、相手を尊重してこそ信頼が得られるはずだ。

 それに、ぼくだって何もいつもキスやそれ以上のことを考えているわけではない。高校生なんだから、それ相応の清く明るいお付き合いをすべきではないだろうか。


「ありがとう、晴人! ぼく頑張るよ!」

「おー、頑張れー」


 早くもゲームを再開していた晴人の気のない応援を聞き流し、ぼくはとりあえず明日の昼休みを楽しみにすることにした。




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