プロローグ(5)
『さあ、デスゲームの開幕だ!』
「お兄ちゃん、デスゲームって?」
全身黒ずくめの男が、ログイン直後に訳の分からないことを言い出した。
デスゲーム? 都市伝説ではないのか。
「デスゲーム。人間の五感がシステムと接続しているような状態で、ログアウトやそれに関連する行為が出来なくなる。また、ゲーム内部での死亡が現実での死亡である。代謝はゲームの仕様に則る。外部との交渉ができないのが一般的で、中にいる人だけで生き残らなければならない。場合によってはクリア条件が提示され、その達成によって現実に復帰することができる」
妹は首を傾げた。噛み砕いた説明が必要なようだ。
「つまり、ここで死んだら、現実の肉体も死亡する。昔の何かの推理アニメ映画にあっただろ」
「え……それって」
妹の赤い顔が一気に青くなる。
メニューを開くと、確かにログアウトボタンが無かった。
「もちろんそうと決まった訳じゃないが、ここで死んだら、終りだと思った方がいい」
言っていて怖くなってきた。手足が震える。
妹の目が見開かれていた。黒ずくめの男が耳に痛い音で絶えず残酷なことを言い、周囲からは怒声と泣き声が響きわたる。こんな状況で正気を保っていられる人がいたら見てみたい。そしたら殴ってもらおう。
妹がもたれかかってきた。震えるからだを優しく鎮めてあげたいが、生憎と自分も震えていて抱きとめるだけで精一杯だ。
どれくらいそうしていただろうか。唐突にシステムコールが鳴り響いた。
『こちら運営です。只今より、緊急アップデートを行います。内容は以下の通りです。全プレイヤーの基本属性をNPC化します。以上です。繰り返します。――』
どうやら運営が動いているらしい。このシステムコールがまるで天啓のように神々しく聞こえる。
妹も顔をあげて、空を見上げていた。
『――アップデート適応完了まで残り20秒、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1』
そこで、意識が唐突に暗転した。