プロローグ(4)
疑問があった。
なぜアップデートがすんなりと完了したのか。ここまで大規模な事件を起こすような奴だ、想定していない訳がない。
その疑問の答えが、目の前にあった。
『お疲れ様。なかなか早い対応のようだね。感心感謝感激感動』
耳につく嫌らしい声だが、それに対するモニタ内部からの反応が一切無くなっていた。さっきまで、あんなに声が聞こえてきたのに、あんなに動き回っていたのに、テスタ100名の身体はまるで金縛りにあったかのように止まっていた。
『お望み通り、全員、NPC。ノン・プレイヤー・キャラクターだ。よかったね、よかったよ』
ノン・プレイヤー・キャラクター。一部AI化は進んでいるものの、それでもコストの問題で未だにif-elseの条件分岐による実装が大半だ。
つまり。
良くて強靭なAI、最悪、ただの繰り人形ということだ。
『さあ、気分も乗ってきた。始めようじゃないか、君たちが勝つのか、それとも、僕が勝つのか』
インタフェースからキーボードを呼び出し、プレイヤデータのディレクトリを開く。存在するファイル数は、101。イレギュラなファイルが紛れ込んでいるようだ。とりあえずそうでないものをデバッグ用アプリケーションで開いた。
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ユーザID:00
アバタ名:タカ
氏名:浜田 隆志
生年月日:○○○○年9月4日
ユーザ詳細 ▼
ログイン状況:オフライン
アバタ現在地:undefined
アバタ詳細 ▼
レベル:1
種族:人間
職業:冒険者
キャラクタ詳細 ▼
キャラクタ状態 ▼
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オフライン。ゲーム内にいないということ。つまり、状況が最悪だということ。
拳を叩きつける。
勿論、そんなことで事態が改善するわけは無い。どこまでクラッキングが進んでいるのか分からない現状、ここで出来ることをやろう。
『戦争の始まりだ。足掻くがよい、泣き喚くがよい。楽しもうではないか』
耳障りな声をBGMに、キーボードを叩き始めた。