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違法薬取締:デンジャーハンター

低気圧・雷おこし・プレゼント

作者: 零夜

 彼女の周りではいつも暗雲が渦巻いているように見える。さながらそこだけ低気圧になり、嵐が発生しそうなくらいである。

 いつも険しい表情をしていて、せっかくの美貌も台無しだとほかの研究者たちからは言われているくらいである。


「まったく……」


 ギシリと彼女の手の中にあるペットボトルが嫌な音を立てる。めきょめきょという耳障りな音もたち始め、ついにはベコンと凹む音がした。

 相当ご立腹のようである。それを確認したほかの研究員たちはそそくさとその場から退避するように、フロアにいたものたち告げる。

サァッと蜘蛛の子を散らすように逃げていくのを無視しながら、おどろおどろしい声を出す。


「あのバカどもは……何をやっているんだ!」


 だんっとデスクをたたき苛立ちを表す。こわごわと見つめられているのにも慣れているのか、大して気にすることもなく目の前のモニターを睨みつける。


「また、騒いでいるのか」


 扉が自動で開き、ぼりぼりと雷おこしを食べながら一人の男が彼女のもとに向かってくる。くるりと椅子を回転させて、入ってきた人物を視界に入れた瞬間、眦がつり上がる。

 相変わらず中世の貴族のような服と特徴的なコートをまとい、青空のような髪をなびかせながら歩いてくるのはバルーン。大蛇を倒した後に、小腹がすいたので雷おこしを食べながらやってきたのだ。

 一緒に赴いたポカリは、「腹が減った」とバルーンよりも空腹を訴えたので食堂に向かった。


「何がまた騒いでいるのか……だ!」


 ブンッと勢いよく投げつけられた、凹んだペットボトルを蹴り飛ばして、頭上にあげ落ちてきたのを片手で受け止める。華麗な足技に悪態をつく。


「相変わらず、足癖が悪いようで」

「私の技は蹴りだ。日頃から応用にも使わないとな」


 『空駆』の名を持つバルーンはあっさりと悪態を受け流し、ギラギラと輝く金の瞳を見返す。ぽりぽりと雷おこしを食べつつ一歩一歩、足をゆっくりと動かして近づく。


「トルメンタ。何を怒っている」

「サンプルを持って帰ってこいといっただろう!!」

「あぁ、そんなことか」

「そんなことではない!!」


 激昂しているため荒々しい声で言葉を吐き出す。うるさいなと心の中でつぶやくバルーン。

 ここで口に出せば、さらに集中砲火を食らってしまうことが間違いないからである。自分はともかく、研究員たちに八つ当たりされては困る。

 

 ただでさえ彼女の力は強い、医務室送りにされた研究員たちは星の数ほどいるだろう。それでもトルメンタの近くで仕事をするのは、彼女のやることがすべて正しいからだ。

 医務室送りにされたとしてもまた舞い戻り、また医務室に叩き込まれても根性で戻ってくる研究員もいる。着実に研究員たちがM属性になりつつあるなと残りのかけらを飲み込む。


「サンプルならば、持って帰ってきたぞ」

「本当に!?」

「あぁ、ただそれを持っているのはポカリだ。今は食堂で暴飲暴食をしてい……」

「『ポカリに告ぐ! 今すぐ研究室ラボまでこい! 問答無用だ!!』」


 るだろうというバルーンの言葉を飲み込んで、トルメンタの覚醒された声が響き渡る。

 こうと決めたら一直線、猪突猛進な彼女を止められるのはいるのだろうか、いやいない。

 トルメンタ自身が大きな嵐となって周囲を巻き込んでいる、いや巻き込まれているといった方が正しいだろうか。


 そんなことをのんきに考えていれば、ぶつくさ文句を言う声と何かを大勢で引きずってくる音がした。扉の方を振り返れば、ちょうど研究員たちに引きずられて、文句を言いまくるポカリが入ってきた。

 その手にはパンが握られており、表情からはまだまだ食べ足りないということが伺い知れる。


「まだ食ってたのによ」

「トルメンタが問答無用といった時点で、研究員たちが動くだろう。それでも食べ続けたお前には、ある種の尊敬を抱く」

「腹が減ったら動けねーもん」

「ポカリ! さぁ、サンプルを渡せ!!」


 椅子から降りてつかつかと足早に近づいてくると、ズィッっと手を差し出すトルメンタ。その瞳はきらきらと輝いていて、鼻息も荒く興奮している。

 「あー、そういうこと」とバルーンに視線を向ければ、わずかにうなずいて「そういうことだ」と返事をする。


 ごそごそと暗い赤の上着を探り、袋に入った焼けこげている物体を手のひらにのせてやる。


「はい、プレゼント」

「プレゼントではない、サンプルだ」

「相変わらずだなぁ、トルメンテは」


 自分をつかむ腕を振りほどき、立ち上がるとパンの残りを口の中に突っ込む。


「ふぉれは、あふぉへひのうろふぉ。やけふぉげてるへどな」

「それはあの蛇の鱗。焼けこげてるけどな。だそうだ」

「そうか、ご苦労」


 お礼もそこそこに白衣を翻し椅子に戻ると、大きめのカプセルの中に鱗を慎重に滑り込ませ薄紫色の液体をそそぐ。ジッと観察し始める。


「俺ら呼ばれた理由ってこれだけか?」

「だろうな」

「じゃ、俺は飯の続き食ってこよ」

「私もいく、食べたらおなかがすいてきた」


 とりあえず挨拶をするが予想通り返事は返ってこない、やれやれと二人で肩をすくめながら研究室ラボから退出した。


 つややかな漆黒の髪と、きりりとした金色の瞳。整った顔立ちという美貌の研究員、トルメンタ。

 彼女は研究にしか目がなく、非常に短気である。そんな彼女の生み出す嵐に飲まれて医務室贈りになったものは数知れず。


 そんな彼女につけられた名前は『雷嵐』

 まさしく彼女そのもののような名前であった。

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