プロローグ
西暦2015年――――――
年号が『平成』ではなく『明和』になった日本と世界。
世界各国によって企業戦役という戦争が賭けとして、ゲームとして繰り広げられていた。
戦役会社と呼ばれる企業同士の制限の掛かった戦争は民間人に被害を与えず、『被害無き戦争』として経済活動の一環として社会に認められていた。
☆
「―――以上、一般科目授業を終える。挨拶はいい、各自自由に」
先生の声がチャイムと重なりながら教室に響き渡り、教室は生徒たちの雑談やノート・教科書を仕舞う音で騒々しくなる。
この辺は一般校と大して変わらない。この学校は私立戦役学園、一般校とはかけ離れた特殊な学校だ。
その証拠にここの生徒は自衛用として小火器の携帯が義務付けられていて、今も生徒が動く度にカチャカチャと音を鳴らしている。
「よっと、赤城!今日も暇な時間だったな」
そんな教室の中、ツンツン頭のいかにも水素並みに軽そうな野郎がこっちにやって来る。俺の悪友の織戸 信也だ。
コイツとは小学生からの付き合いで、よく悪事を共にこなしたもんだ。
「ところで赤城、お前いいのか?」
「何が?」
鞄にノート類を詰め込んで、ロッカーから飛行服を取り出す。あとヘルメットと一昔前のガスマスクのような酸素マスクも引っ張り出す。
「お前確か今日、戦闘科の招集掛かってただろ?」
「あ・・・、ヤバイ!俺ちょっと急ぐ!!」
「おう、殺されんなよ」
招集。文字通り教官方に招かれているのだが、この学校では少し意味が違ってくる。
この戦役学園では一般校で学ぶ数学や英語といった一般科目の他に戦闘科目が設定されている。戦闘科目では空軍学部・海軍学部・陸軍学部の3学部に分けられ、さらに空軍学部では戦闘科・爆撃科・攻撃科・偵察輸送科の4学科に分けられている。その学科ごとで生徒達は先頭技術を磨く訓練を受けるのだが、一部の戦闘成績優秀者は戦役会社と一緒に戦役に参加する事がある。これがこの学校での招集で、つまり戦争に叩き出されるのだ。2年と3年はこれがしょっちゅうらしいが1年の俺たちにはそうそうないことらしい。
「えーっと、14番ハンガーはっと」
一式の荷物を抱えて校舎を駆け足で飛び出して、格納庫へと急ぐ。
「ここだここ、遅れました!!」
格納庫横の作戦室に飛び込み、急いで着席する。ブリーフィングはすでに始まっていたようで、教官達がこの付近の地図を黒板に張り出していた。
「おやおやー赤木君、遅刻ですかな?」
まためんどくさいのが・・・
着席するなり隣のツインテールの少女が小声で話しかけてくる。攻撃科の坂井・ハイネ・ルーデルか。
かの爆撃王ハンス・U・ルーデルの孫で、戦闘成績は良いがとても残念な娘だ。ちなみに日本人とドイツ人のハーフだ。
「ルーデル、何か説明されたか?」
「うんにゃ、まだなにも。簡単な任務だといいんだけどね」
そう言ってルーデルは持っていたコーラを一気に飲みほす。
っと、教官がマイクを持ち出した。説明が始まるな。
「アテンション!これより戦闘情報を公開する」
そう言って教官はレーザーポインタで日本海島根沖辺りを指す。
「今回は韓国戦役会社「ソンゴン社」の研修員との戦闘だ。詳しい位置は判明していないが大方この辺での会敵になると予想される」
そう言いながら教官は次に巡洋艦の写真を張り出す。
「今回の目標はこの重巡洋艦“ドクト”だ、諸君らの健闘を祈る」
これだけの簡単なブリーフィングが終わり、皆が立ち上がる。
いよいよ戦闘、これが俺こと赤城 佑希の日常だ。